吉祥寺サバイバル Ⅲ 定常期(stationary phase)Ⅲ-5 府中女医 20XY年6月
星本明子は都下府中市にある病院の医師26歳である。浪人することなく医大に入学し、優良な成績で卒業した。専門は内科であるが、外科も得意としている。勤務して2年になるが、患者や看護師から慕われている。家は近くの1戸建てで母と弟の3人暮らしである。父親も医師だったが亡くなっている。愛車は父の形見の真っ赤なポルシェである。
L村病が流行りだしてから、院内の関係者は抗生物質を注射して予防を行った。すぐに入院患者で満床になり、星本を含め不眠不休に近い状態で患者の対応を行ってきた。やがて、電気と水道が使えなくなった。前者は非常時の発電機があったが、すぐに燃料が無くなった。入院患者が減り始めると同時に看護師や医師が次々に倒れて帰らぬ人となっていった。
生存者がいなくなった病院で星本も覚悟を決めた。一旦、家に戻り、家族を探したが、見つからなかった。彼女が忙しいことを知っていて連絡を遠慮したのだろう。身辺の整理を行い、残り湯を沸かし直して風呂に入った。残されていた食料で食事をして床に就いた。
翌日になったが、身体は何ともない。抗生物質の効果もあったのかもしれないが、自分はL村病に強い体質だったに違いない。そのような人間が生き残っていて不思議ではない。ポルシェに乗って京王線沿いを調べることにした。府中から東府中~西調布、さらに調布まで駅の周辺を探索した。小さい駅が多かったが、一定量の水と食料を得ることができた。
足を少し伸ばして、多磨霊園にある星本家の墓地に立ち寄った。線香と水は入口の店舗から拝借し、墓地内に咲いていた花を摘んだ。自分が生きていることの感謝とともに何をなすべきか導いてほしいと先祖に手を合わせた。翌日はJR中央線へ探索の足を延ばすことにして就寝した。
その日、彼女は生存者に合うという夢を観た。気持ちよく起床し、手際よく朝食を済ませた。国分寺に向かって車を走らすと、途中に農工大農学部があることに気が付いた。内部を一通り探索した。人の気配はなかったが、いくつかの作物が栽培されていた。気を取り直し、国分寺駅に到着した。駅前に車を止めて、JR改札口に向かった。
そこでポスターを発見したのである。吉祥寺に生存者がいる。ポスターをスマホで撮影して、住所をGPSに入力した。急ぐ必要はない。途中、事故車で通れない場所もあったが。無事に日高たちのいる住居に到着した。留守だったが、生活していることが明白だった。遠慮なく上がって、居間で待つことにした。
やがて2人が帰って来た。野菜畑の手入れをしてきたのである。3人は抱き合って喜んだ。犬のシロも一緒である。彼女は料理が得意なのである。冷蔵庫に保存してあった牛肉を使った料理とスープを作った。もちろん、日高は高級ワインを開けた。星本は強くはないが、少しだけグラスに注ぎ、真一はジュースで乾杯したのである。
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