外国につながる子ども・若者支援事業
横浜市では、外国につながる子どもたちの数が増加しており、2019年5月現在その数は10,103人となっています。市内各地域にある学習支援教室は、子どもたちに日本語や教科を学ぶ機会と安心して過ごせる場所を提供しており、そこでは多くの支援者が活躍しています。(公財)横浜市国際交流協会(以下、YOKE)では、このような支援者の方に役立ててもらうための事業を行っています。
今回は事業担当者の1人、唐木澤 みどり さんに事業のことや外国につながる子どもたちの支援現場について話を聞きました。
※掲載記事はインタビューをもとに編集しています。
ライフステージに応じた切れ目ない支援
YOKE(以下Y):「外国につながる子ども・若者支援事業」の背景について教えてください。
唐木澤:YOKEでは、以前から様々な事業を通じて、外国につながる子ども・若者の支援を行ってきました。日本語学習支援事業でも、就学前の子どもと親の支援(子育て支援)を行っています。これらの事業をふまえ、外国人の方のさまざまなライフステージに焦点をあて、ライフステージに応じて切れ目なく支援できるようにするため、2017年度から「外国につながる子ども・若者支援事業」が始まりました。
「つながり」を大切にしたい
Y:現在どのようなことを行っていますか?
唐木澤:まず、学習支援ボランティア向けの研修会を2017年度から行っています。主に横浜市内の学習支援教室で活動する支援者が対象で、活動のヒントを得ることや支援者同士のつながりづくりを大切にしています。2017年度から2019年度の3年間は「子どもによりそう支援」を大きなテーマにして開催してきました。
意見交換や情報交換を目的で行っている事業もあります。学習支援教室は市内に30以上あるのですが、一同に集まる機会がなく、教室同士のつながりが少ないという課題がありました。そこで、2018年度からは市内学習支援教室との連絡会を開催しています。まず、市内国際交流ラウンジ(以下、ラウンジ)で作る協議会の分科会を1つ追加し、「学習支援分科会」を開始し、ラウンジが主催する学習支援教室の情報交換を中心に行っています。さらにラウンジも含めた市内全域の学習支援教室の担当者、運営者を対象とした「外国につながる子どもの学習支援教室情報交換会(横浜)」も開催しています。ここでは研修会で取り扱わない運営上の課題や取組を共有し、教室同士が知り合ってつながりをつくることを目的としています。情報交換会は年に1回の開催ですが、もっと機会を増やしてほしいという声が寄せられており、参加者が情報交換とつながりづくりを大切にしていることがわかります。
他にも日本語学習支援事業で、「まちのにほんご伴走隊」という個別訪問事業を行っていますが、学習支援教室も対象となっています。教室を訪問し、相談対応や講座実施などのお手伝いをしています。地域の学習支援教室にヒアリングにも行き、各教室での活動の様子や抱えている課題について聞いています。このような事業を今後も続けていきたいと思っています。
Y:研修会の講師はどのような方ですか?
唐木澤:講師には、子どもの日本語教育や外国につながる子どもの支援に携わっている方をお呼びしています。具体的な実践事例の紹介や、参加者の日頃の支援についてグループで話し合う時間なども取り入れています。毎年3回行っている研修会のうちの1回は「みんなどうしてる?」というタイトルで行っていて、市内学習支援教室運営者による事例紹介、横浜市教育委員会担当者による市内小中学校での支援の紹介等、互いに学び合う回を作っています。この場を通して情報やアイデア、ヒントを交換し、抱える課題の解決の糸口を見つけてもらえたらと願っています。
子どもたちとのコミュニケーションが大切
Y:学習支援教室の現場ではどのような課題や困りごとがありますか?
唐木澤:子ども一人ひとりが、出身国、年齢、来日時期、家庭環境等違うので、その子にとってどのような支援が一番良いかという悩みは多いです。横浜市は外国人人口の増加に伴い、外国につながる子どもの数も増え、学校で日本語指導が必要とされる子どもの増加にもつながっています。学習支援教室でも参加する子どもが増えており、「ボランティアが足りない」「支援者の負担が増えている」という課題も聞きます。また、自分の意志ではなく、親の都合で来日するケースも多く、日本語学習に意欲的な子どもばかりではありません。子どもたちの心理的なサポートや、勉強に取り組めない、やる気がでない子どもへの対応に困っているという話も聞きます。
学習支援教室は「安心できる場所」
Y:来日したばかりで日本語でのコミュニケーションができない子どもの場合、支援者はどのように対応していますか?
唐木澤:お話を聞く中で印象深かったのが、来日したばかりの子には「ここは安全で安心な場所だよ」「ここは間違えても大丈夫な場所だよ」と伝えることが一番大切だという話でした。また、支援者が子どもの出身国の言葉や文化に興味を持って寄り添うことや、両言語で書かれた絵本などを使い、コミュニケーションをとることを大事にしているという話も聞きました。地域の教室では、来日間もない子どもの日本語指導ができる支援者がいるとは限りません。まずは、子どもが安心して、いろいろなツールを使いながらコミュニケーションをとれることを大切にしている教室が多いと思います。
Y:これから学習支援ボランティアをしたい方が教室を見つけるためにはどのような方法がありますか?
横浜市内の学習支援教室は、YOKEのホームページ内「日本語・学習支援教室 データベース(横浜)」で探すことができます。教室の情報の中に、ボランティア募集の情報を載せている教室もあります。また近くの国際交流ラウンジに相談すると近隣の学習支援教室について案内してもらえると思います。
地域で子どもを見守る、育てる 支援者も子どももHappyに
Y:唐木澤さんや他事業担当者が大切にしていることは何ですか?
外国につながる子ども・若者支援の大切さを伝えたいです。大人も日本語ができないことでの苦労はありますが、たとえば母語であれば、自分の意見を伝え、コミュニケーションをとることができます。しかし、子どもの場合は母語も日本語も、成長・発達の途上にあるので、より手厚い支援が必要だと思います。学校でのサポートの他にも、「地域でも子どもたちを見守る、育てていく」という観点から、地域の方々の支援は重要です。支援者は、子どもにとって「大事な大人」になります。私たちはYOKEの事業を通して、支援者にとって活動しやすく、やりがいを感じられる環境を作りたいと思っています。そして、子どもも支援者もお互いがHappyになれることを大切にしていきたいです。
多くの人に知ってもらいたい
Y:様々な人が外国につながる子どもたちの力になるにはどうすればよいでしょうか?
唐木澤:まずは「知る」ということかと思います。各地で多文化講座などが開催されていますので、そのような講座に参加するのもよいと思います。直接何か支援をするということでなくても、知る機会として参加したり、外国人支援の場を見たり、国際交流ラウンジなどに行ってみたり、関心を持ってもらえたらと思います。私自身の経験でもあるのですが、そのような関わりによって、これまで知らなかった世界が広がる楽しみもあると思います。
Y:事業を担当する中で課題や解決していきたいことなどはありますか?
唐木澤:アンケートの回答などを見ると、全ての人のご意見や悩みに答えることは難しく、力不足を感じています。また、今まで在住外国人や外国につながる子どもたちを知らなかった人にも知ってもらい、裾野が広がっていくと良いなと思っています。興味や関心を持つ方がつながるための支援もこれからの課題ではないかと思っています。
今回、支援者や、支援に興味を持つ方に向けて、学習支援教室の活動のヒントを集めた「みんなどうしてる?外国につながる子どもの学習支援教室活動ヒント集」をYOKEのホームページで公開しました。ぜひこちらを見てもらいたいと思います。
今後は、参考にしてもらえる情報を追加していくなど、ブラッシュアップできればと思います。外国につながる子どもを支援する方、関心がある方のお役に立つことができると嬉しいです。