SS『いない人の名前』
ねえ、きみ、名前なんていうの?
公園で声をかけられた。
冬休みに僕は引っ越してきたばかりなので、知っている子は誰もいない。
あそぼう!
僕を誘っている。
ひとりぼっちの僕を気にかけてくれているみたいだ。
でも、正直、すこし迷惑。
急に溶け込めるはずもない。
そんなことはおかまいなしに、わらわらと他の子たちも集まってきた。
誘ってくれたのは、こんな遊びだ。
誰かひとりの名前を言ってから、ボールを柔らかく蹴り上げる。
名前を呼ばれた人は、落ちてくるボールをまた蹴り上げる。
地面に落としたら負け。
子どもは8人いた。
僕を入れたら9人。
それぞれ自分の名前を告げていく。
ヒナタ
ユウキ
アキラ
ハル
タカシ
ナツ
カナタ
ユキミ
覚えられない。
覚えられないまま、僕の名前が呼ばれた。
ソウタ!
キック。
うまく拾えた。
ボールは上へ高く飛んだ。
ナイス、ソウタ!
ソウタ!
ソウタ!
やたらと呼ばれる。
季節つながりで記憶に残っている名前を呼んでみる。
ハル!
キック。
ソウタ!
ナツ!
キック。
しばらく遊んでいるうちに、少しずつ名前を覚えた。
アキラ!
キック。
ソウタ!
フユミ!
キック。
フユミなんていないよ!
いない名前を言うのはナシ!
いないやつの名前を言ったら、
いないやつが出てくるぞ!
みんなが一斉に騒ぎ立てる。
ソウタ!
また僕の番。
ユキ!
キック。
僕が名前を呼ぶと
途端にみんなシンとした。
ぽとん
ボールが地面に落ちる。
とん、とん、とん、ころり。
8人全員が落ちたボールを見つめている。
ユキ、あいつ、下手くそだったから。
いつもボール、落としてたよな。