バレンタインの悪魔
君は、まるで悪魔。僕を足代わりに使う。
2月13日、材料の買い出しに付き合わされた。憧れの先輩にプレゼントするバレンタインチョコをてづくりするらしい。
図書館の料理本を調べ尽くして、君はアメリカンチョコブラウニーのレシピを選んだ。もちろん、図書館まで送り迎えしたのは僕だ。
オーブンを使いたいというので、君を僕の実家に運んだ。
実家のキッチンで悪戦苦闘する君。それを見守る僕。
天板に広がる焼き立てのブラウニーを包丁でザクザク切り分けていく。粗熱をとって、ワックスペーパーで包んで、缶や箱、紙袋や瓶に入れて丁寧にラッピングする。
可愛らしく装飾された色とりどりのパッケージ。それらをひとつひとつ確認しながら、君が付箋で番号をつける。いちばんきれいにラッピングできたものを先輩にプレゼントするらしい。
君は言っていた。
大好きな先輩に、いちばん最初に渡したい。
バレンタイン当日に君が最初に食べてもらいたいのは先輩なのだ。
でもね。
午前零時をまわった瞬間に、僕がカケラを味見したこと。
君は知らない。
ざまあみろ。
2月14日、先輩との待ち合わせ場所まで君を送った。
君は助手席で、ラッピングされた小箱を大切そうに眺めている。その小箱には、さっきまで「1」と書かれた付箋が貼りつけられていた。
離れた場所から僕は見守る。
渡せたようだ。先輩がはにかんでいる。
振り返った君は満面の笑顔。
そのまま僕のもとまで駆け戻ってきた。
一緒に食べようよ。
そういって、君は紙袋を僕に差し出した。
紙袋の中に色とりどりのパッケージが入っている。
残りのアメリカンチョコブラウニーだ。
つまり、いちばん以外は全部、この紙袋の中にある。
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