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Kindle本「カフカの『歌姫ヨゼフィーネ、あるいはネズミ族』を読み解く」を出版しました

Kindle本を出版しました。「カフカの『歌姫ヨゼフィーネ、あるいはネズミ族』を読み解く」です。『歌姫ヨゼフィーネ、あるいはネズミ族』の翻訳と作品全体の解釈を1冊にまとめています。

『歌姫ヨゼフィーネ、あるいはネズミ族』(以下、『ヨゼフィーネ』)は、カフカ最後の作品です。ネズミ族唯一の歌手についての話で、人間はまったく登場しません。一匹のネズミが、ヨゼフィーネについて語るという形式になっています。

ヨゼフィーネの歌は、どんなネズミも普段口にしているただのチュウチュウ鳴きにすぎないのに、ネズミ族を魅了します。彼女の歌にはどんな意味があるのか。語り手のネズミが思案を重ねます。芸術家であるヨゼフィーネは、特別扱いを求めるようになり、ネズミ族との間に対立が生まれますが……。

この作品は、カフカが、芸術の意味と芸術家の社会的意義についての自身の考えを余すところなく伝えるものとなっています。

「解釈」篇では、これまでの主要な解釈を概観した上で、次のような点について明らかにしています。

・語り手のネズミはどのような存在か
・ヨゼフィーネの歌は何を伝えるものなのか
・ヨゼフィーネは歌で何と戦っているのか
・末尾の部分はどのように解釈できるか
・『断食芸人』や『ある犬の探究』との関係はどうなっているか

「補足1」では、カフカはなぜ最後に女性を主人公とした物語を書いたのか、ヨゼフィーネはカフカの分身なのか、という疑問から出発して、ヨゼフィーネのモデルとなった女性たちについて伝記的に考察しています。これまでの研究では言及されてこなかったミレナとの関係を重視しています。

「補足2」では、『ヨゼフィーネ』がこれまでどのように解釈されてきたのかを、「解釈」篇よりも詳しく述べています。第二次大戦後のマックス・ブロートの解釈を皮切りに、フォン・ヴィーゼ、エムリッヒ、ゾーケル、ポリツァー、リッチー・ロバートソン、マーク・アンダーソン、ペーター=アンドレ・アルトら、主なカフカ研究者十五人の解釈を簡潔にまとめ、紹介しています。

カフカは死の直前、病床で『ヨゼフィーネ』を含む短編集『断食芸人』の校正を行いました。そのとき涙を流したことが知られています。「あとがき」では、カフカがどの作品を読んで泣いたのか、そのときどのような思いだったのか、カフカが最後にどのような認識の地点に立っていたのか、を推測しています。

目次は以下のとおりです。全体は二部に分かれ、第一部は筆者による『ヨゼフィーネ』の翻訳です。第二部の「解釈」および「補足1」と「補足2」は、別に出版した『カフカ―世界への異和感』に書いたものが元になっています。一部手を入れたところはありますが、内容はほとんど変更していません。また、「あとがき」で述べたことは、『カフカ―世界への異和感』の終章「カフカの涙」で書いたことを簡略化したものです。

カフカの『ヨゼフィーネ』をまだ読んでいない人はもちろん、読んではみたけど何が書かれているのかよくわからなかった人、なぜ最後の作品の主人公が女性なのかが気になる人、カフカが最後に思想的にどのような地点に到達していたのかを知りたい人――そのような方に本書は向けられています。

【目次】
第一部 『歌姫ヨゼフィーネ、あるいはネズミ族』(翻訳)

第二部 解釈
はじめに
一 ヨゼフィーネの歌がもたらすもの
二 ヨゼフィーネが歌によって戦っているもの
三 ヨゼフィーネとネズミ族の関係
四 ヨゼフィーネの歌が伝えるもの
五 再びヨゼフィーネとネズミ族の関係
六 消えたヨゼフィーネ
むすび

補足1 ヨゼフィーネのモデル
はじめに
一 ヨゼフィーネはカフカか?
二 モデルとしての女性たち
三 『ある犬の探究』とイディッシュ語劇団
四 『ある犬の探究』とミレナ体験
五 ヨゼフィーネの歌
むすび

補足2 これまでどのように解釈されてきたか

あとがき

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