AI利用の契約の進め方
こんにちは、よじまるです。
経産省から出された「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」がとても有用だということで、解説記事を書いています。
解説記事は以下のマガジンにまとめています。
概要はこちら。
今回の記事では第4章より、
AI契約の進め方について
解説します。
目次
1. AIの利用における開発方式
2. 契約における各段階について
2.1 アセスメント段階
2.2 PoC段階
2.3 開発段階
2.4 追加学習段階
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1. AIの利用における開発方式
AIの利用における開発方式としてガイドラインで推奨されているのは、探索的段階型の開発方式です。
AIは、例えば契約前には開発内容が明確ではない等特徴的であるために、既存のソフトウェアの開発方式ではリスクが大きくなってしまうということがあります。(AIの特徴については以下を参照してください)
AIの開発は、AIの開発内容や性能がデータに依存するなど、後戻りが不可避的に発生することからウォーターフォール型の開発はそぐわないとされています。
しかし、アジャイル型の開発にすればいいという訳でもありません。アジャイアル型の開発では、多数の機能を開発するものには向いていますが、AIの開発はそれらに比べると小規模であり契約の管理コストが高くなってしまいます。
そのためガイドラインで推奨されているのが、探索的段階型の開発方式という訳です。
探索的段階型の開発方式では以下の四つの流れに分割し、それぞれで契約を結びます。
この開発方式は既存のウォーターフォール型の開発とも異なりますが、非ウォーターフォール型の代表のアジャイル型の開発とも異なります。
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2. 契約における各段階について
先ほども述べた通り、AIの契約はリスクを最小化するために探索的段階的契約にすることが望ましいとされています。そこでガイドラインにて提示されている段階は、アセスメント段階、PoC段階、開発段階、追加学習段階の四つです。
それぞれの段階について、
- 何をする段階か
- どんな契約が必要か
- 成果物は何になるか
- 関係者それぞれの役割は何か
- 何があれば次の段階に進めるか
などについて見ていきます。
2.1 アセスメント段階
- 何をする段階か
・課題の明確化
・(KPIの設定)
・データ有無の確認
・一定量のデータを用いて、学習済みモデルを作成できる可能性があるかの検証
- どんな契約が必要か
・秘密保持契約書
- 成果物は何になるか
・レポート
- 関係者それぞれの役割は何か
ユーザ(大企業):
・課題の明確化
・データ有無の確認
・データの収集
・KPIの設定
ベンダ(AI企業):
・課題の明確化
・課題に対する大枠での実装内容の検討
- 何があれば次の段階に進めるか
・データ
・学習済みモデルを作成できる可能性
アセスメント段階で重要なことは、
・課題の明確化
・データ有無の確認
・少量データによる学習済みモデル作成可能性の検討
です。AIの利用においては、「とりあえずAIを導入したい」という漠然とした問題意識のみで話が始まることが少なくないです。
そのため、課題の明確化とそれに必要なデータの洗い出し及びデータ有無の確認、最後に少量のデータを用いて学習済みモデルが作成可能かどうかを検討することがこのアセスメント段階では必要です。
2.2 PoC段階
- 何をする段階か
・KPI達成可能性の検討
・パイロット版学習済みモデルの作成
- どんな契約が必要か
・導入検証契約書
- 成果物は何になるか
・レポート
・パイロット版学習済みモデル
- 関係者それぞれの役割は何か
ユーザ(大企業):
・データの提供
ベンダ(AI企業):
・パイロット版学習済みモデルの作成・精度向上作業
- 何があれば次の段階に進めるか
・KPI達成見込み
PoC段階で必要なことは、
・大規模な開発に踏み切って良いか(KPIを達成できる見込みがあるか)を判断すること
です。アセスメント段階では、
・データに対しておそらくこのアルゴリズムなどを適用すれば課題が解決できるのではないか?
という仮説をもってPoC段階に進みます。そしてこのPoC段階では、仮説を立てていたアルゴリズムを実際に適用してみてどれくらいの精度が出るのか、KPIは達成できそうか、などを検討する段階です。
PoC段階は試行錯誤を伴うため、複数回実行されることもあります。
例えば、Aという方法で達成できそうと思ってPoCをしたがこの方法ではKPIを達成できないとわかった場合、新たにBという方法でPoCを再度行う、ということがあり得ます。
2.3 開発段階
- 何をする段階か
・学習済みモデルの作成
- どんな契約が必要か
・ソフトウェア開発契約書
- 成果物は何になるか
・学習済みモデル等
- 関係者それぞれの役割は何か
ユーザ(大企業):
・精度その他へのフィードバック
ユーザ(AI企業):
・学習済みモデルの作成・精度の向上
PoC段階でKPIの達成見込みができたら、開発段階にて本格的に開発を行います。この開発段階ですることは、
・KPIを達成する学習済みモデルの作成
です。データを本格的に使用しながら、学習済みモデルを作成して納品します。
2.4 追加学習段階
- 何をする段階か
・学習済みモデルの追加学習
- どんな契約が必要か
・保守運用契約
・ソフトウェア開発契約 など
- 成果物は何になるか
・再利用モデル
- 関係者それぞれの役割は何か
ユーザ(大企業):
・追加の学習用データセットの提示
ベンダ(AI企業):
・追加の学習用データセットを用いた再利用モデルの作成
追加学習段階においては
・追加のデータセットを用いた学習済みモデルの改良あるいは精度の向上
を行います。大企業などのユーザは開発を行うAI企業に対し追加のデータセットを提供し、開発を行います。この時の契約の方法としては、保守運用契約の中に盛り込むことや新たにソフトウェア開発契約書を結ぶことが考えられます。
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まとめ
今回の記事では、AIの利用において推奨される開発方式とその各段階についての詳しい解説を行いました。
次回の記事では、AI利用の契約において交渉のポイントとなる事項について解説します。
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株式会社ACESでは、上記のガイドラインの内容を踏まえ、AIの技術導入及び技術導入のためのコンサルティングを行っております。
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