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トト#9:誕生日お出かけ。明らかになる闇の真実

小学6年生に進級した長男トト。
去年の秋に学校の先生から父親S男に対して注意してもらったことによって、自主練習の強制や体罰はなくなったものと思っていた。

ところが、トトが6年生に進級する前の春休み頃から、再びS男による支配が再開され始めた。
少しずつ、放課後の自主練習は増えていき、S男との夜の練習も再開されていったのだ。

・・・

無くなっていた自主練習が再開されただけではなかった。

自主練習に加え、コーチの自宅で行う練習会に週3回、毎週金曜日にはS男とバッティングセンターに通うようになり、6年生の夏が終わる頃には以前よりも、もっとトトの生活は野球漬けになっていた。

6年生になり体力もついてきたからなのか、はたまた今のチームで野球をするのも残り少ないと感じたからなのかは分からないが、トトはその状態でも文句も言わずに受け入れていた。

ただ、家の中で見るトトの表情は決して楽しそうではなく、なんとかして父親(S男)から怒られないように振舞おうとしている様に見えた。

そして、私が一番気になっていたのは、夕食後にS男と2人で家の外で行う練習だった。
30分程度だが、戻ってくるとトトの表情がおかしいことが多い。
私とは目を合わさないようにしているが、泣いている様に見えることもよくあった。

私の知らないところで、何かが起きているかもしれない。
そんな胸騒ぎがした。

トトに直接聞いても何も答えてはくれず、モヤモヤした気持ちのまま時間だけが過ぎていた。

12月になり、トトの誕生日が近づいた。
子ども達の誕生日がくると、私は誕生日を迎えた子と二人だけで出かけるイベントを我が家の恒例行事にしている。

この二人きりで出かける時が、ちゃんとトトから話が聞けるチャンスだと思った。

私がトトに対して心配していること。
野球や父親(S男)との間で何か困っていることは無いか、中学進学以降はどうしたいと思っているのか、トトの口から本当の気持ちを聞きたかった。

そして、トトとの「誕生日お出かけ」の当日がやってきた。

・・・

▼まさか、そんなことが・・・!?


「誕生日お出かけ」は、トトの希望で最近新しくできたショッピングモールに行くことになった。

トトもこの日はのびのびと楽しんでいる様子で笑顔でよくしゃべってくれていた。

ショッピングモールに着いてからは二人で歩いていると、トトが手を繋いできてずっと一緒に手を繋いでいた。

背はもうほとんと私(163㎝)と変わらないくらいに大きくなっているので、私の方が手を繋がれて照れてしまいそうになった。

『小さい頃は手を繋いでもすぐに振り払ってどっかへ行っちゃってたけど、こんなに大きくなっても手を繋いでくれて、まだまだ可愛い♡』

と、心で喜んでいた。

お昼ご飯はショッピングモール内のフードコートでトトの好きなものを選んで食べることにした。

トトは焼肉とラーメンとチャーハンをペロリと食べていた。

お腹もいっぱいになったところで、デザートのアイスクリームを追加で買いに行く。

さぁ、本題はここからだ。

落ち着いて話せそうなタイミングを見計らって、話を切り出した。

この日、私がトトに聞きたいと思っていることは3つ。

①今、困っていることはあるか
②中学に進学してからは(野球を)どうしたいか
③父親(S男)のことをどう思っているか

これらを順番に聞いていくことにした。

「トト、最近はどう? 何か困ってることはない? 野球の練習が前より増えてきてるし、時々しんどそうやから気になってるんやけど・・・」

「えっ!? あ~・・・う~~~ん・・・」

少しトトは言いよどんだが

「・・・パパには絶対に言わんといてな」

そう前置きしてから、トトは話してくれた。

「・・・もうめっちゃ困ってる。マジで嫌。ほぼ毎日暴力されてる。」

私の全身がザワリとした。

「どういうこと?? いつ?? 晩ご飯の後のパパと家の外でやってる練習の時??」

「そう。なんか上手くできんかった時とか、話ちゃんと聞けてなかったらすぐに殴られたり、蹴られたり、ボールぶつけられる。だんだんひどくなってる。」

聞きながら私の身体が震えた。
明らかな暴力行為であり、虐待だ。
家の中では、私や他の子ども達の目があるからやらないが、誰も見てないところでは好き放題してるじゃないか!

やっぱり何にも反省などしていなかった。
アノヤロー!絶対に許せない!!

「パパはまだそんなことしてるの!? それは絶対にしたらアカンことやから! ママは絶対にそんなこと許さないで!!」

怒りで我を忘れそうになったが、必死に冷静さをかきあつめてなんとか落ち着きを取り戻した。

「フー・・・
それで、トトは中学からの野球はどうしたいの? 前は小学校までは続けると言ってたけど、今は何か気持ち変わったりしてる?」

「野球は・・・続けようかな、て思ってる。
ずっと野球しかしてないし、オレこれしかできないから・・・」

いろいろと言いたいことはあるが、とりあえずもう少し聞いてみる。

「中学ではどんな風に野球やりたいと思ってるの?」

「オレ、楽しく野球やりたいから中学の部活でやりたいな。知ってる人もいるし。外部のチームとかはもう入りたくない。」

「パパにそのこと話した?」

「話した。部活でやりたいて言うたら『あんな弱小のチームでやっても今までのことが無駄になるだけや!絶対に外部のチームに入って、部活は陸上部に入れ!』て言われた。」

なぜトトのことなのにお前が決めるんだ??とまた怒りが湧いてくるのを必死で抑える。

「・・・そうなんや。
トトはさ、パパのことはどう思ってるの?」

「・・・怖い。めちゃくちゃ怖い。絶対に逆らえない。」

やっぱりな、と思った。

「パパのこと好き?」

「好きでも嫌いでもない。ただ怖いし逆らえない。」

「ママはトトに自分で決めたことをやってほしいと思ってるし、トトは野球しか自分にできることがないと言ったけど、絶対にそんなことはないよ。

これからだってまだまだやりたいことやれる時間はいっぱいあるし、トトが夢中になれることが他にあるかもしれない。

ずっと野球をしてたから、本当にやりたいことにまだ出会えてないだけかもしれないよ。

それにパパがトトにやってる暴力のことはママは絶対に許せないし、やめさせなきゃならない。
だから、このことはもう一度学校の先生に相談しようと思う。いいかな?」

「えーーー! パパに知れたら絶対に怒られる!」

「そこはパパに分からないようにするから。このまま暴力が続くのは嫌やろ?」

「それはそうやけど・・・
わかった。じゃあ今日話したことも絶対にパパには内緒にしてな」

「もちろんやで! トト、ちゃんと話してくれてありがとう。」

そして最後にもう一つ、大事なことを聞いておいた。

「もしさ、パパと離れて暮らすってなったら、トトはどう思う?」

「全然いい。その方がいい。」

意外とアッサリと返事が返ってきた。

「わかった。」

こうしてトトから話を聞くことはできた。

フツフツと沸き起こるアノヤローへの怒り。
そして私の中では、ある行動を起こす決心が固まっていた。

早くしなければ、トトへの暴力はどんどんエスカレートしかねない。

次の朝一番に小学校へ連絡して、トトの担任の先生にアポイントをとった。

トトの6年生時の担任は、去年学校での話し合いをした時にまとめ役になってくれた学年主任の先生で、6年生でトトの担任になってくれたことをとても心強く思っていた。


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