見出し画像

トト#5:もう死んだほうがいいかも…

小学5年生になったトトは、父親S男から放課後にやる自主練習をどんどんと増やされていった。

友達と遊びたいトトは自主練習をサボって遊びに行っていたが、S男にバレてしまい、自主練習をする時間になるとS男から電話でチェックされるようになった。
そしてトトは放課後に友達と遊びに行くこともできなくなってしまった。

・・・

学校から帰った後、自宅での自主練習をS男(父親)に電話で監視されるようになってから、トトは家でもイライラすることが増えていた。

心配になって声をかけても「大丈夫」と答えるが、やたらと家じゅうの壁を殴ったり、物を叩きつけたりするようになった。

そりゃイラつくだろうと思った。
家での自由な時間が、どんどんと奪われているのだから。

そんなトトの思いは置き去りにされ、S男の圧力は日を追うごとに強まっていった。

ある日、S男が居ない時にトトが私に言った。

「もうマジで辞めたい・・・
小学校の間は続けようと思ってたけど、もたへんかも・・・」

それでもトトはS男には逆らえないでいた。
言ったところで、逆に怒られて余計に嫌な思いをすることが分かっているから、S男の顔色を見て我慢して従っている方がマシだと考えているのだ。

どうにかすることはできないのか・・・。
毎日そのことばかりを考えていた。

そんなモヤモヤした日々を過ごしていたある日。

トトが担任の先生に連れられて学校から帰ってきた。
びっくりしていると先生が話してくれた。

「最近学校でトト君の元気が無いので、気になっていたのですが。
今日休み時間にいろいろと話をして、野球のことやお父さんのことで悩んでいることを話してくれました。それで、トトくんが『もうこんな生活が続くなら死んだほうがいいかも・・・』と言っているのを聞いて・・・。お父さんから叩かれたりもしているとも聞いたのですが、実際にそういうことはあるのでしょうか?」

ああ、トトは本当に悩んでいたんだな、と思った。
私に言っても解決できないと分かっていたから、先生に助けを求めたんだな。頑張って話したんだな。とも思った。

それからしばらく担任の先生と話をして、これまでの野球のこと、現在トトが父親にやらされている自主練習のせいで遊ぶ時間がほとんど無くなったこと、父親との練習の時には父親から手が出ることがあることも伝えた。

先生は真剣な顔で話を聞いてくれた。

「・・・そうだったんですね。
今回の話は学校に持ち帰って、他の先生達とも話し合ってみます。」

「よろしくお願いします。」

もしかしたら、このことでトトの状況が変わるきっかけになかもしれない!
私は期待した。

そして次の日の朝、学校から電話がかかってきた。

▼水面下での計画

電話の相手は小学校の学年主任の先生だった。

「朝早くにすみません。昨日、トトくんの件を担任から話を聞き、内容的に学校はこの事態を重く受け止めています。そこで、急ではありますが、お母さんから一度詳しい話を聞きたいと思いますので、学校へ来ていただくことはできますでしょうか。」

もちろん私の答えは決まっていた。

「分かりました。今日にでもうかがいます。」

その日の午後に学校へ出向き、主任先生、担任、他数名の先生が集まる場で、これまでの経緯と現在トトが置かれている状況について説明をした。

学校側が一番重く受け止めているのは『父親による暴力』の部分だった。
トト自身からの告白もあり、私もその事実を目撃している。
学校としては放置できないということだった。

そこで父親のS男に学校へ来てもらい、学校側から厳重注意をしたいという要望をもらった。

もちろん、そうしてもらえることはありがたいが、私には懸念すべきことがあった。

まず、トトが学校の先生に助けを求めたことをS男が知ったらどう思うか。
十中八九怒るにちがいない。

そして、自分が暴力を振るっていることをバラされ、先生達から注意されることになったら、S男の怒りを買い、その後トトや私がなにをされるか分かったもんではない。
やり方を間違えればとても危険だと思った。

そのことを先生達に伝え、先生達も納得してくれた。
そして、どうすれば父親S男にうまく学校に来てもらい、穏便な話し合いの元で解決に導けるかを一緒に考えてくれたのだった。

その後、私と先生達の間による3回の話し合いを重ね、ようやく話し合いに向けてのシナリオが完成した。

いよいよ父親S男と学校の先生との話し合いの場を設ける準備が整ったのだった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?