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トト#6:学校での話し合い【前編】

父親S男から放課後の野球の自主練を監視され、自由に遊ぶ時間もなくなってしまった小学5年生の長男トト。

そんな時、トトが学校で担任に「もうこんな生活が続くなら死んだほうがいいかも・・・」と言ったことが発端となり、父親S男からの厳しすぎる指導や、”しつけ”という名の元に行われる暴力が明るみになったことで、学校側からS男に対して注意喚起を行ってくれることになった。

ただ、いきなりS男を学校に呼びつけて注意だけしても、S男の怒りを買う事となり、トトや私がS男から報復されかねない。
そうならない為に、学校側と私との間で水面下での打ち合わせを何度も行われた。

・・・

打ち合わせの結果、S男から反感を買うことなく、落ち着いて話ができる状況にするために導き出された答えは

●大前提としてS男の気持ちに寄り添い共感しながら話し合いを進める。
●現状のやり方ではトトが益々追い詰められ、最悪の事態を招く危険性があることを伝える。
●トトを近くで見ている他のきょうだいにも良くない影響を与えていることを伝える。
●専門的な立場からの意見として、通級学級の担任からトトの特性や得意なこと不得意なことを説明する。
●最終目標として、S男自身がこれまでのやり方を振り返り、気付いたり考えたりできるきっかけに繋がるような話し合いを目指す。

というものだった。

そして、話し合いの日程も決まり、いよいよ話し合いに向けて動き出す。

まずはS男に自然な形で一緒に学校へ行ってもらう為、事前に先生達と打ち合わせしていた通りにS男を誘い出す作戦からスタートだ。

「ねぇ、トトの担任から連絡あってさ。
最近学校での様子がいつもと違うみたいで、授業中も集中できてないみたいやし、ちょっと気になることもあるから一回家の人と話がしたいって言われてるんやけど、一緒に行ける日ある?」

それを聞いたS男は

「何や? トトが何か言うたんか? あいつ先生に余計な事言ったんちゃうやろな?」

と、つっかかってくる。
明らかに後ろめたいことがある奴のセリフだ。

「トトからは何も聞いてないし、先生からも具体的な話は聞いてないから行ってみないと分からないよ」

と伝えると、S男はちょっと焦った様子で

「学校から呼び出されてるんなら、早く行かなあかんやろ・・・」

ということで、数日後に学校へ行くことになった。(作戦成功だ!)

▼決戦の日

話し合い当日。夕方6時。
どれくらい話し合いの時間がかかるか分からないので、4人の子ども達も一緒に連れていくことにした。
(この日までにS男がトトに何か言ってくるかと心配したが、それはなかったので安堵した)

シンと静まる真っ暗な学校へ家族全員で入っていく。
下足室まで入ると先生が出迎えてくれ、4人の子ども達は別室へ。
ちゃんと相手してくれる先生が付いていてくれるので安心だ。

S男と私は案内の先生に連れられて、会議室へと入る。
中には既に5人の先生が待っていた。
案内の先生も含めて、総勢6人の先生を前にしてS男は明らかに動揺している様子だった。

もともと気が小さい上に、権力にも弱いのだ。
もう秋も深まっているのにめちゃくちゃ汗をかいていて顔に緊張感が走っていた。

先生達が順番に自己紹介した後、全員が席に着いたところで話し合いはスタートした。
進行役になってくれたのは、以前朝に電話をくれた学年主任の先生だった。

最初にトトの担任から今回の話し合いの発端となった件についての話があった。

「最近のトト君が学校で元気がなく、表情も以前と比べて暗いことが気になっていたので、休み時間に本人を呼んで話を聞きました。
その時に、野球がしんどくて『こんな生活が続くなら死んだほうがいいかも・・・』と言っているのを聞きまして・・・。
『死』という強い言葉が本人から出ていることを踏まえ、学校としてはお家の方から直接お話をお聞きしたいと思いまして、今回は来ていただきました。
トト君のお家での様子を伺いたいのですが、よろしいでしょうか?」

S男に向けての先生からの質問に、S男が少し声を振るわせながら答える。

「・・・トトが入っている野球チームで、最近監督からトトが怒られることが多くなってまして・・・
それでトトは萎縮してしまっていて野球に対してナーバスになっているんだと思います。
たぶんそれが『死にたい』と言った原因じゃないでしょうか」

あくまでも自分は原因ではない、といった口ぶりだった。

「家での自主練習や夜の練習もしんどいみたいですが、それについてはどうですか?」

続く先生からの質問に対しては

「監督からの宿題で素振りを毎日300回以上やるように言われていて・・・
自分で310回やると決めたんで自主練習時間は増えてると思いますね。
でもやると言ったのはトトですしね。
夜の練習では集中できてなかったり、ちゃんと言ったことができない時には厳しめに言ったり、たまに小突くことはあったかもしれません。
でも最近は(小突くことは)無かったと思います。」

と額に汗を浮かべながら話していた。

「お母さんから見て、トト君の様子はどうでしたか?」

私にも先生からの質問がきた。

「高学年になり、試合に出る回数が増えてきてから、明らかに父親のトトへの指導は厳しくなったように感じています。
自主練習と言っても夕方に父親から電話で連絡が来てサボってないか、ちゃんとノルマの回数をこなしているかを毎日のように確認され、できていないと怒られます。まるで父親に監視されているみたいです。
最近は小突いたりはなくなったと言ってましたが、今も物を投げつけたり、棒の様なものを身体に強く当てたりなどをしているところは見ています。」

私がそこまで話した後、ずっと話を聞いていた学年主任の先生が

「分かりました・・・」

と言って話し出した。


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