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目的は「父親の夢を叶える」為?悪夢の始まりとなる習い事は息子が生まれた瞬間から計画され準備されていた!?

幼児期から極度の場所見知りで、新しい環境に慣れるまでに数ヶ月はかかってしまう長男トト。
環境への対応力の低さに加え、視覚情報が優先され「人の話が聞けない」「集中力がない」といった特性も併せ持っていた。

そんな長男トトが小学校に入る前の冬。(幼稚園年長時)
父親のS男が「長男に野球をさせたい」と言ってきた。

S男自身も中学時代から野球をしていて、一時はプロも目指していたほどの野球好きだ。
夢は叶わなかったが、社会人になってからも地元のチームに入って活動しているくらいなので、いつかそう言いだすだろうとは思っていた。

「トトが興味あるならやるのはいいけど、もうすぐ4人目が産まれるし、私は他の子たちの世話や家のこともあるから野球には付いて行けないよ」

最初に釘を刺しておいた。

少年野球と言えば、週末は早朝から親も駆り出され、送迎に運営サポート、監督のお世話などやることが普通の習い事とは一線を画すと聞いている。

新生児がいる上に、家事の全てを私がしているので、ここは絶対に譲れないと思っていた。

S男もそこは理解していた様で「野球に関してはS男が全て担当する」ということで話はまとまった。

そしてトトはS男が探してきた少年野球チームに入団することになった。

・・・

はじめての野球チーム入団

長男トトが少年野球チームに入ってからは、トラブルの連続だった。

トトは「初めての場所を極度に怖がる」という特性を持っている。
幼稚園入園時の登園拒否もひどかった。

初めて入った野球チームもトトにとっては「全く知らない怖い場所」だ。
当然毎週末、泣いて嫌がるのをS男に引きずられて連れて行かれていた。

それを見ていた私はというと

「野球を習うこと自体は悪いことではない」(新しい経験ができる)
「最初に嫌がってしまうのはいつものこと」(幼稚園も最初は嫌がっていた)
「慣れれば楽しくできるようになる」(これまでの経験上)

という思いから、見守ることにしていた。

思っていた通り、野球チームに入って2ヶ月目くらいからは、泣かずに行けるようになっていた。

S男は非常に熱心にトトに野球を指導していた。

良い野球道具を買い、チームでの練習以外でも自分と練習する為にいろんな道具もどんどんと増えていった。

トトも大好きな父親が自分の相手をしてくれるのを素直に喜んでいた。

・・・

チーム移籍、もっと野球ができるチームへ

最初に入った野球チームは「野球以外のこともできるように」と低学年のうちは野球以外の遊びやスポーツを積極的に取り入れながら指導し、厳しさより褒めて延ばすことを大切にしている新しい考え方のチームだった。

私はそんなチームをとてもいいな、と思っていた。
野球が好きになるかどうかはトト次第であり、先のことは分からない。
他のことに興味が向いて、やりたいことが見つかれば、より自分が好きだと思える方を伸ばせばいいと考えていた。

でもS男の考えは違っていた。
チームに入って2年目、S男は言った。

「チームを移籍することにした」
「今のチームは全然野球をやらせてもらえない。もっと野球ができるチームに移る」

せっかくトトもチームに慣れて、何の問題もないように見えていたのに、寝耳に水だった。

小学校低学年のトト自身は、まだ自分の意志を持っておらず、S男に言われるがままに従っている様子だった。

今のチームがトトには合っていると思えていたので、移籍は正直不本意だったが、野球に関してはS男に任せていたので、この移籍についても見守ることにした。

S男が新しく見つけてきた2つ目のチームは、今までのチームとは正反対の昭和的パワハラ指導のチームだった。

このチームは全くトトが受け入れることができず、初日の体験に入った次の日からトトは怯えて車から出ることも出来ず、グラウンドに入ることもなかったらしい。

さすがに最初のチームとの落差が激しすぎたことを感じたS男が次に探してきたのは、厳しさも残した昔ながらの指導のチームだった。

このチームでは、トトの特性による最初の場所見知りはあったものの、徐々に慣れることができていった。

小3から小4にかけてトトはこのチームに所属していた。

・・・

トトの異変、野球拒否

チームを移籍し、小学校低学年から中学年になるとS男のトトに対する野球の関わり方も徐々に厳しくなっていった。

週末に朝から夕方までチームの練習や試合に行くのは変わらないが、それ以外の時間でもS男が家にいる時はほぼ毎日トトに野球を教えていた。

トトが自分の言う通りにできない時は怒鳴ったり、厳しい口調で指導することも増えてきた。

S男が家にいる時は、黙って父親と練習するトトだが、父親がいなければ自分から野球をすることのないトトを見ていると「野球を楽しんでいるんだろうか?」という疑問が湧いてくる。

トトは「極度の場所見知り」に加えて「視覚情報が優先される」「耳から聞いた情報を記憶しにくい」という特性も持っていて、小学2年生から通級教室に通っている。

小学校に入る前からS男に教え込まれていたので、ボールをキャッチすることやバッティングは周りの子どもよりも上手いと言われていた。

でも試合になるとミスが多く、監督から同じことを何度も注意されるとも聞いていた。

そもそも「情報を集めて、集めた情報の中から自分で答えを導き出すこと」が苦手なのだ。
それはトトの努力ではどうしようもないことだと通級の先生も言っていた。
1つ1つの動作の前に考えなくてはならないことが多い「野球」というスポーツが、トトに向いているとは私には思えなかった。

S男と私はこれまでに何度もトトの野球について話し合いをしていた。

「先にあれこれ言いすぎじゃない? トトの特性のこともあるし、もっとトトの好きにさせて、トトが教えて欲しいと望んだ時にだけ教えてあげる方がトトが野球を楽しめるんじゃない?」

と私が言うと

「野球を知らんやつが口出しするな! あいつは自分で考えないんやから、俺が教えな上手くならんやろ! 上手くないから楽しくないんや!」

野球の話をすると必ずケンカになった。
トトが野球を始めてから、私とS男との間の溝はどんどんと広がっていった。

トトが4年生になった夏。
最初の異変は起きた。

土曜日の朝。いつものように野球チームの練習に行く準備をするS男とトト。
出かける直前になって、トトが泣き出した。
練習に行きたくないと言っている。

引きずって連れていくS男。
初めてのことではないが、ここまで嫌がるのは野球を始めた頃以来だった。

次の日の日曜日の朝もまた同じことが起きていた。
他のきょうだい達も心配そうにしていたので、見かねて止めに入った。

「何やってるの? 泣いてるやん」

私がきたことに、あからさまに嫌な顔をするS男。

「ほっといてくれ! そうやって甘やかすから、いつまで経ってもコイツは逃げてばっかりおるんや! おい! 行くぞ!」

S男はトトを引きずって家を出ていった。

トトからちゃんと話を聞かなければ…。と思った。

・・・

トトの告白、父との対峙

野球のことについて、ちゃんとトトの言葉で話を聞く為に二人で出かけられる用事をつくり、帰りにお茶をした。

そこでトトに野球のことについてどう思っているか、聞いてみた。
トトはしばらく考えてから話し出した。

「僕な… 今までワケ分からんままに野球してたけど、最近気付いてん。
好きじゃないって。全然楽しくない。辞めたい。」

はっきりとそう言ったトトの言葉を聞いて、
ああ、やっぱりそう思ってたんだ。
ちゃんと自分で気付いて、気持ちを言えて偉いな、成長したなと思った。

「分かった。じゃあ一緒にパパに言おう!」

父親に自分の気持ちを伝えると言ったトトの気持ちを支持し、私はトトに協力することを約束した。

その週の金曜日の夜。
トトから最初は私からS男に言ってほしいと言われていたので(こういうところがトトらしい気の弱さだ)私から話を切り出した。

「トトが野球を辞めたいと言ってるから、話をちゃんと聞いてあげてほしい。」

一瞬で顔が引きつるS男。

「・・・おまえ、ホンマなんか?」

「・・・うん」

「おまえな、まだ何も結果を出せてないやろ? 今辞めたら逃げ癖がつくだけやぞ。将来仕事してもすぐに辞める人間になる。それにおまえが辞めたらチームにも迷惑かけることになるんやぞ。」

S男の言葉はまだまだ続く。

「これまでにどれくらいの金と時間をお前に使ったと思ってるや!」
「何も結果を出せてないうちは絶対に辞めさせないからな!」
「辞めるようなやつはいらん!(家から)捨てる!」

畳みかけてくるS男に詰められ、涙目になっているトト。

なぜそこまで言うのか私には訳が分からなかった。
そもそもお金のことなど、トトには全く関係ない話だし、野球をやるもやらないも決めるのはトト自身のはずではないのか??

その後はたまらず私が反論をブチまけ、夫婦喧嘩が勃発したが、トトの意志はS男に届くことはなく、結局野球を辞めることはできなかった。
トトもS男に逆らい続けることはできず、諦めてしまった。

こんなのはおかしい。
S男の考えは間違っている。
だけどS男には全くこちらの話が通じない。

そしてこの後も、S男によるトトへの野球の執着は益々エスカレートしていくことになるのだ。


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