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トト#4:監視の中の自主練習

父親S男の夢「プロ野球選手になる」を背負わされ、小学1年生から野球を続けてきた長男トト。
小学5年生になったトトはある朝、練習に行く前に泣き出して玄関から出ようとしなかった。

泣いて嫌がるトトを引きずり連れて行こうとするS男を止め、その日は練習には行かなかったものの、S男はトトをどこかに連れて行ってしまった。
そして翌週からは何事もなかったように練習に行き出したトト。

その後しばらくしてトトは夜中に起きてきて、私に「野球を続ける」と言った。
視線は合わせず、なにもない表情で。

トトの本心からの言葉ではないことはすぐに分かったし、S男に言わされていると直観した。

でも本人がそう言っている以上、私には何もできることがない。
私の心にモヤモヤしたものが心に広がっていった。

・・・

▼増える平日の自主練習

せめてS男が家にいない時間は、トトの好きなことをさせてあげたいと思っていたが、そんな小さな息抜きもS男は奪おうとしていた。

「おまえはもっとやらなあかん! もっとやる気を見せろ! 同じチームのやつはもっとやってるぞ!」

そう言ってトトに平日学校から帰ってからの自主練習を課してきたのだ。

●ランニング町内2週
●縄跳び200回
●素振り300回

トトはランニングと縄跳びは毎日ちゃんとやっていた。
でも友達とも遊びたいトトは、素振り300回の回数を減らして友達と遊びに行っていた。

私はトトが素振りの回数をごまかしていることは気付いていたが、ちゃんと自分から自主練習しているトトに「頑張ってるな!偉いな!」と思っていた。

ところがある日の晩ご飯の時

「トト、お前今日は(自主練を)何時に始めて何時に終わったんや?」

突然S男に聞かたトトは、思わず目を泳がせてしまい、すぐに答えることができなかった。

「ちゃんと正直に言ってみろ!」

S男に厳しく詰められたトトは、素振りの回数を減らして友達と遊びに行っていたことを白状した。

「そんなんで上手くなるわけないやろ!!」

その後夕食が終わるまで延々とお説教は続き、その日以降、トトは自主練を始めた時間と終わった時間を紙に書いてS男が帰ってきたら見せるように約束させられた。

そしてS男は他のきょうだいにも「トトがちゃんとやってるか見といてくれ」と監視役を頼んでいた。

▼まるで囚人…どうかしてるとしか思えない…

S男に自主練を始めた時間と終わった時間の報告をさせられるようになってから、トトは真面目に自主練に取り組み、素振りの回数もごまかなくなった。

最初はなんとかごまかして遊びに行こうとしていたトトだったが、S男はトトがごまかせないよう、自主練をしている夕方の時間帯に毎日電話をかけてくるようになったからだ。

トトが自主練習しているであろう時間になると、S男は仕事場から私のスマホに電話をかけてきて「今どこまでやったんか?」と確認してくる。
素振りの数をごまかしてそうだと思えば「この時間にそんな回数まで進んでるわけないやろ!」と文句を言ってくるのだ。

どうかしてるとしか思えない。

こうしてトトは学校から帰ったらすぐに自主練を始めるが、日が落ちるのが早くなったこともあり、全てをこなす頃には真っ暗になってしまう為、遊びに行くことができなくなってしまった。

これではまるで囚人のようだと思った。

そんなある日、いつもの様に学校から帰ってきたトトは、すぐにバットを持って出かけていった。

しばらくして外に出てみると、家の前で自主練をしていると思っていたトトが玄関の横で座り込んでいた。

「どうしたの?」

と聞くと、うつむいたままトトが言った。

「今日友達に遊ぼうって誘われてるのに、自主練やってたら行かれへん・・・」

最後の方は聞き取れないくらいの声で、ほとんど泣いてるようだった。

「遊びに行けばいいやん!」

「でもパパから電話かかってくるし、ちゃんとやってること言わな怒られるし・・・」

「今日はいつもより学校が早く終わって、ちゃんと全部やってから遊びに行ったってことにしよう!ちゃんとママがパパに言うとくから大丈夫やで!」

「・・・」

少し考えてから、トトはバットを置いて、代わりにドッジボールを抱えて公園の方へ走って行った。

子どもに友達と遊ぶことを我慢させてまで、やらせないといけないことなんてあるんだろうか??
私には全く理解できなかった。


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