いまさら聞けないクルド人問題 読了まで10分
来月 川口市に行って クルド人の人に話を聞く機会があります。その前に今さら聞けないクルド人についてまとめてみました。冒頭のイラストは、クルド人の日本での生活ぶりをAIに描いてもらったものです。なお以下の情報は、ネットからと書籍の知識をまとめたものになります。
一言でいうと
クルド人問題は、クルド人の歴史的、政治的、文化的な背景と、現在の地政学的状況が絡み合った複雑な問題です。
祖国を持たない最大の民族
クルド人は、中東のクルディスタン地域に住むイラン系の山岳民族です。以下に、クルド人の主な特徴や背景をまとめます。
居住地域
クルド人は、トルコ、イラン、イラク、シリア、アゼルバイジャン、アルメニアなどの国にまたがる地域に住んでいます。この地域は「クルディスタン」と呼ばれますが、クルド人は独立した国家を持たず、各国で少数民族として生活しています。祖国を持たない最大の民族と言われるゆえんです。
人口
クルド人の総人口は約4600万人とされており、トルコに約1430万人、イランに約480万から660万人が住んでいます。
言語と文化
クルド人はクルド語を話し、イラン語派に属します。クルド語には多くの方言があり、地域によって異なります。また、クルド人は歴史的に半農半牧の生活を営んできました。
宗教
クルド人の大部分はイスラム教スンナ派を信仰していますが、シーア派やヤズィーディー、キリスト教、ユダヤ教、ゾロアスター教など、さまざまな宗教を信仰する人々もいます。
歴史と政治
クルド人は長い歴史を持ち、多くの英雄を輩出してきましたが、独立国家を持つことはできませんでした。20世紀以降、特にトルコ、イラク、イランでは独立運動や自治獲得運動が活発化しましたが、しばしば激しい弾圧を受けています。例えば、イラクではイラン・イラク戦争中に化学兵器で大量虐殺が行われました。
現在の状況
現在、クルド人は各国で少数民族として生活しており、独立を求める運動や自治権の獲得を目指す動きが続いています。イラク北部にはクルディスタン地域政府という自治政府が存在し、一定の自治を享受しています。
クルド人の苦難の歴史と自由を求める闘いは今も続いています。
各国でのクルド人対応はまちまち
トルコ
トルコでは、クルド労働者党(PKK)が1980年代から武装闘争を続けています。トルコ政府はPKKをテロ組織とみなし、厳しい弾圧を行っています。クルド人の権利向上を目指す運動も展開されていますが、トルコ国内の政治情勢や国際社会の動向によって進展は一進一退しています。
イラク
イラクのクルド自治区(KRG)は、1991年の湾岸戦争以降、半自治的な地位を確立しました。2017年には独立を問う住民投票が行われ、賛成票が多数を占めましたが、イラク中央政府や周辺国の反発を受け、実現には至りませんでした。現在もKRGは高度な自治を維持していますが、イラク国内の政治的緊張や経済問題に直面しています。
シリア
シリアでは、2011年の内戦勃発以降、クルド人勢力が北部で自治を宣言しました。シリア民主軍(SDF)は、イスラム国(IS)との戦いで国際的な注目を集めましたが、トルコの軍事介入やアサド政権との対立が続いています。クルド人自治地域は、今後のシリアの政治的解決において重要な役割を果たすと見られています。
イラン
イランでもクルド人は少数派として長い間抑圧されてきました。クルド人政党や武装組織は活動を続けていますが、イラン政府の厳しい取り締まりが続いています。経済的な困難や人権侵害が報告されており、クルド人地域の安定には課題が残っています。
国際社会の対応
クルド人問題は、各国の内政問題として扱われることが多く、国際社会の介入は限定的です。しかし、特にイラクやシリアにおけるクルド人の役割は、地域の安定やテロ対策において重要視されています。国際的な人権団体やメディアは、クルド人の権利侵害を報告し、改善を求める声を上げ続けています。
日本では川口にコミュニテイ
クルド人の集住と社会的課題
埼玉県川口市を中心に、多くのクルド人が集住しています。
トルコ政府などによる迫害から逃れるため、多くのクルド人が1990年代以降、観光ビザなどで来日し始めました。
特に1980年のトルコでの軍事クーデター後、多くのクルド人文化人や知識人が国外に逃れました。その一部が日本にも来たのです。
川口が選ばれた理由には以下のようなものがあります。
チェーン・マイグレーション:
最初に来日したクルド人を頼って、次々と仲間や親族が日本に移住するという連鎖的な移動が起こりました。
埼玉県南部、特に蕨市や川口市周辺に「ワラビスタン」と呼ばれるクルド人コミュニティが形成されたことで、新たな移住者を引き付ける要因となっています。
偏見の少なさ
川口や蕨には そもそも 外国人が多かったという点で偏見が少なく、受け入れる余地があったということでしょう。
難民申請制度の利用:
多くのクルド人が日本で難民認定申請を行っています。認定されるケースは少ないものの、申請中は一時的に日本での滞在が認められるため、これが長期滞在につながっています。
クルド人難民が日本に来るためのルート
観光ビザでの入国:
多くのクルド人が、まず観光ビザを取得して日本に入国します。1990年代以降、政治的迫害から逃れるため、観光ビザなどで来日し始めたケースが多く見られます。
第3国経由:
直接トルコから日本に来るのではなく、イランやその他の国を経由して来日するケースもあります。特に初期の段階では、イラン人の経路を利用したケースがあったようです。
異文化による軋轢も
クルド人を巡る課題には次のようなものがあるとされています。
地元住民との軋轢
ゴミ問題などの生活環境の課題
言語や文化の違いによるコミュニケーション
在留資格と就労
日本で生まれ育った子どもたちの問題
日本で生まれ育ったクルド人の子どもたちが、在留資格の問題により将来の不安を抱えています。
日本政府の対応
日本政府の対応としては、以下のような取り組みが行われています:
改正入管法に基づく「監理措置」制度の導入予定(就労可能になる見込み)
難民認定審査の実施(ただし、認定率は低い)
課題と提言
専門家や関係者からは、以下のような課題と提言が挙げられています。日本が直面する外国生まれの人との共生を巡る課題といえます。
日本語教育制度の充実と予算の確保
共生政策・社会統合政策の徹底
入国管理のより厳格な実施
クルド人側の日本語・文化習得の必要性
国際的な文脈
クルド問題は国際的な背景を持ち、トルコをはじめとする周辺国との対応もまちまちです。日本政府はこうした国際的な文脈も考慮しながら対応を検討する必要があるでしょう。
埼玉×クルド人に今何が?「取り締まり強化」対象は?多文化共生は可能か考える。
クルド人問題を理解するための参考資料です。
書籍
『クルド人を知るための55章』(山口昭彦 編著)
この本は、クルド人の歴史、文化、政治状況など多角的な視点からクルド人について解説しています。現代の国民国家の枠組みでは捉えきれないクルド人の実態を、様々な分野の研究者が詳細に解説しています。
URL: https://www.akashi.co.jp/book/b431767.html
『国家を持たない最大の民族「クルド人」を知るための入門書』
この本は、クルド人の基本的な情報から現在の難民問題まで幅広く扱っており、クルド人問題の入門書として適しています。
URL: https://honto.jp/booktree/detail_00018955.html
映像資料
クルド人問題に関するドキュメンタリー
クルド人問題に関する有名なドキュメンタリー映画として、以下の2作品が挙げられます:
『東京クルド』(監督:日向史有)
この映画は、日本に住む2人のクルド人青年を5年以上にわたって取材したドキュメンタリーです。日本での難民問題や入管制度の現状を描き出し、クルド人の日常生活や直面する課題を丁寧に追っています。
『マイスモールランド』(監督:川和田恵真)
この作品は、日本で暮らすクルド人の女子高生を主人公にしたドラマですが、2年近くにわたる取材に基づいて制作されており、ドキュメンタリー的要素も強い作品です。クルド人家族の日常や、入管収容所の実情など、リアルな描写が特徴です。