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起業の天才に見る、日本の検察の捜査手法

江副浩正を取り上げた本。前半は、その独創的な起業のドラマを、後半は未公開株提供をめぐるリクルート疑惑の内幕に迫っています。人物が生き生きとしています。

特に江副に対する検事の捜査には、違法性があったと著者は匂わせています。ここに書かれていることは、過去の捜査の例からみても事実ではないでしょうか。私も一連の報道に、記者の端くれとして加わったっていたので、取り調べの手法をまとめてみます。



心理的圧迫と威圧的な態度


取り調べでは、検事が強い言葉と態度で江副氏を追及しました。

言葉の威圧


「立て、一つ!横を向け!前へ歩け!左向け!」と指示を連呼し、壁に向かって立たせるなど、身体的にも精神的にも圧力をかけました。さらに、「バカヤロー!俺をバカにするな!」と怒号を上げ、圧倒的な権威を示しました​。

身体的な威圧


江副が座る椅子を蹴り飛ばし、「俺に向かって土下座しろ」と強要する場面もありました。これにより、被疑者に極限の心理的ストレスを与えることを目的としていたと考えられます​。

虚偽情報を利用した揺さぶり


検事は取り調べの中で、江副の証言を崩すために虚偽の情報を伝えました。

例: 実際に起きていない証言の捏造
「お前はウソをついていた!真藤(NTT会長)はさっき落ちた(自白した)!真藤はお前から直接電話を受けたと話している!」と、江副氏が否定する内容を虚偽情報として断定し、揺さぶりをかけました​。

自己否定を促す心理操作


「お前は忘れているだけだ。実際に真藤に電話している」と繰り返し主張し、記憶の混乱を引き起こすことで自白を誘導しようとしました​。

自白を引き出すためのマインドコントロール


検事は江副に対し、繰り返し同じ主張を押し付けることで自白を得ようとしました。

断定口調


「真藤に電話をしている。これに間違いない」と言い切り、江副氏自身がそのような行為をしたのではないかとの不安感を抱くよう誘導しました​。

調書への署名を保釈と引き換えに提案


「これに署名すれば2日後に保釈する」と条件を提示することで、心理的な追い詰めを図り、容疑を認めさせようとしました​。

組織体制の解明と捜査の難航


リクルート社内の組織や権限分担について詳細な解明を試みましたが、リクルートには明確な組織図が存在せず、これが捜査を困難にしました。リクルートは、既存の概念では理解できない社風があったのです。

検事は社員たちへの取り調べで情報を引き出そうとしました。しかし、この特徴が捜査を長期化させる要因となりました​。江副への苛酷な取り調べの一因になったともいえるでしょう。

捜査手法の評価と問題点


検事たちの手法は、リクルート事件の全貌解明を進めるために重要な役割を果たしました。しかし、その中には問題点が指摘されています。最後にまとめてみましょう。

心理的圧迫
「切り違え尋問」や「なし割り」と呼ばれる手法は、心理的圧力を伴い、被疑者の人権を侵害する可能性があると批判されています​。

虚偽情報による自白誘導
検事が虚偽情報を利用し、被疑者の記憶や判断力を操作しようとした点は、捜査の正当性を損なう行為とされています​。

今だったら録画されているので、検事の捜査の違法性が裏つけられるでしょう。惜しむらくは、江副は晩年、アルツハイマーになってしまったようで、捜査の違法性を訴えることができませんでした。

この問題は、以下の本にも出てきます。

取調べの透明化は、国際的にも進んでいます。アメリカでは取調べの録音・録画を義務づける州が出ており、イタリアでは録音・録画しない調書は裁判で使用できません。

日本では、2019年6月に刑事訴訟法が改正され、裁判員裁判対象事件や検察官独自捜査事件について、身体拘束下の被疑者取調べの全過程の録画が義務付けられました。

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五味洋治 Yoji Gomi
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