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朝鮮半島で戦争が起きる可能性は?

音声で語っています。

北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記の発言が過激度を増している。


韓国を「主敵(主要な敵)」と位置付けたうえ、関係を全て断絶し、韓国を「軍事平定」「焦土化」するとまで言い出した。一方で巡航ミサイルの発射も繰り返している。

なぜ、祖父の遺訓である統一を放棄しようとしているのか。その原因や狙いは何なのか。

世界の目はウクライナとパレスチナに集中しているが、その間隙を衝いて本当に戦争に乗り出すつもりなのだろうか。私なりに分析してみた。

韓国とは敵対的な関係と宣言


 発言がエスカレートしたのは昨年末からだった。正恩氏は昨年12月26日から30日まで開催された労働党中央委員会全員会議(以下「全員会議」)での報告で、南北朝鮮の関係を「韓国との関係はもはや同族ではなく、敵対的な2国間関係、交戦国の関係として完全に固定化された」と強調した。


今年1月15日の最高人民会議で正恩氏は、こうも語っている。


「私たち共和国の民族歴史から統一、和解、同族という概念自体を完全に除去してしまわなければなりません」「南北を同族とみなす言葉を使わないように」

北朝鮮の 金正恩氏は2月8日、軍創建76周年に合わせて国防省で演説し、韓国は「不変の主敵」と強調し、「有事には占領する」と威嚇した。

北朝鮮に厳しい姿勢をとる韓国の保守、 尹錫悦 政権が「銃口を突き付けている」とし、「敵が武力を使うならば超強力な武力を動員する」と激しい言葉でけん制した。

統一政策の大転換か?

韓国と北朝鮮は双方とも、相手を正式な国と認めておらず、自国の一部だとしている。ただ、そんなギスギスした中でも、両国の指導者は繰り返し首脳会談を開いて、関係改善や将来の統一への道を探ってきた。

北朝鮮は1950年、「祖国解放」と銘打って南進し、朝鮮戦争を始めたが膠着状態となり、休戦となったままだ。その後は、平和共存を目指し1972年には、韓国と「自主、平和統一、民族大団結」の3大統一原則を明記した南北共同声明を電撃的に発表した。

金日成氏はさらに1980年、一民族、一国家、二制度の「高麗民主連邦共和国」を提案した。この「連邦制」もまた「建国の父」が打ち出した重要な理念であり、3大統一原則とともに「遺訓」に位置付けられ、北朝鮮の住民に伝えられてきた。

1991年12月には南北基本合意書が締結され、南北の平和共存、交流が確認された。

1994年に後を継いだ正恩氏の父、故金正日総書記も、基本的にこれらの路線を踏襲してきた。
金正日総書記は、「わが民族同士」を合い言葉に、2000年に平壌で開き、金大中大統領を平壌に招き、初めての南北首脳会談を開いた。

この会談の合意文書には北側の「低い段階の連邦制」案と南側の「連合制」案に共通性があることを認め、この方向で統一を目指すことが盛り込まれた。ちなみに私はこの時、ソウルで勤務していた。合意を伝える記事の見出しは、この統一を目指す部分から取った記憶がある。

北朝鮮南西部の開城に工業団地をつくることでも合意。04年末から操業させると、約120の韓国企業が進出し、約5万3000人の北朝鮮の労働者が雇われた。

開城工業団地に象徴される南北経済協力を通じて得た外貨は、北朝鮮経済を立て直す一助にもなったが、同時にここからの収益が武器開発に使われているとの批判も起きた。

一方、開城工団は働いただけ賃金を貰える資本主義を、住民に味あわせる機会となった。たとえば北朝鮮側の従業員は熱水でシャンプーを使ってシャワーもできた。北朝鮮側の警戒も強まった。結局、朴槿恵政権時代に開城工団は閉鎖されてしまった。

北朝鮮は2023年から、韓国をそれまでの「南朝鮮」ではなく韓国と呼び出し注目を浴びた。

その後の正恩氏の一連の発言は、その経緯を全て否定し、ひっくり返してしまった。
 

危険な威嚇行動も


危険な行動にも出ている。今年に入って北朝鮮は海の境界線(NLL)にある延坪島に向けて、砲撃訓練を実施した。

北朝鮮は2010年6月、この島に砲撃を加え、民間人を含め4人が犠牲になった。民家のある陸地への本格的な攻撃で、本格的な戦争一歩手前まで行った。

北朝鮮は、韓国との関係を断ち、回復不能なレベルにしたいようだ。韓国統一省の対話相手だった祖国平和統一委員会を廃止し、南北間の連結通路だった京義線には地雷を敷設して封鎖してしまった。

1月下旬になって「祖国統一3大憲章記念塔」が撤去された。この像は、平壌市内にあった巨大なアーチ状の建物で、南北統一のシンボル的存在だった。

正恩氏は「敵が手を出してこない限り。一方的に戦争をしない」とも言っているが、緊張は高まるばかりだ。
正恩氏の一連の発言や行動について米国の著名な専門家たちは懸念を強めている。朝鮮戦争を引き起こした祖父、故金日成(キム・イルソン)主席のように「戦争への戦略的決断をしたと考える」と警告している。

多くの訪朝経験を持つ核科学者のジークフリード・ヘッカー氏らだ。ヘッカー氏らによれば正恩氏は、トランプ前米大統領との交渉決裂に大きく失望し、中国やロシアへの接近にかじを切ったとしている。

1950年に始まった朝鮮戦争も、ソ連と中国の支援を受け、強気になった故金日成主席が決断したものだ。当時と今の状況はよく似ている。

本当の理由は朝鮮内部にある?

韓国と戦争を辞さない強硬姿勢を見せている北朝鮮。実際戦争を起こすのかと聞かれれば、ノーと答えるしかない。確かに北朝鮮は核ミサイルで武装しているが、国内は国際的な経済制裁で疲弊しきっており、戦争どころではない。実際に戦争をすれば、自滅が待っている。

韓国への「超強硬姿勢」は、北朝鮮内部的な理由が大きいと考えるのが自然だ。

今、北朝鮮政権の最大の悩みは、若い世代が韓国ドラマをはまって韓国への憧れを募らせていることだ。この影響で、正恩氏に対する忠誠心が弱まっている。
このため、20年12月には韓国映像物を流布すれば最大死刑に処する「反動思想文化排撃法」を制定した。さらに23年1月には韓国風の言葉の使用を禁じる「平壌文化語(標準語)保護法」を制定した。
 
ちょうど英国の放送局BBCが最近、ある映像を放送した。屋外スタジアムで、韓国の映像を見た16歳の少年2人が、数百人の学生を前に手錠をかけられ、叱責される場面だ。

映像のナレーションには「腐った傀儡(かいらい)政権の文化が10代の若者にまで広がっている」と批判していた。2人は若者向けの労働収容所に送られ、5年間は外に出られないとみられる。

北朝鮮は現在、4代目の後継者となるキムジュエ氏を大々的に宣伝し、後継者として育成している。若者の目をジュエ氏に向かせるためにも、韓流取り締まりは欠かせないはずだ。

今年になってジュエ氏に関する報道が増えている。正恩氏は、韓国との緊張を高め、ジュエ氏への権力委譲を加速化させる気かもしれない。

エリート層の脱北者が増加


北朝鮮は昨年、スペインやアンゴラなど少なくとも7カ国の在外公館を撤収した。閉鎖に伴い、外交官など駐在員と家族は平壌に戻らなければならない。
また、コロナが終わり、昨年から海外の長期滞在者も帰国命令が出ているが、そのまま脱北する人もいるという。

韓国統一省は、昨年韓国に来た北朝鮮外交官と海外駐在員、留学生などエリート層の脱北者が、10人前後になったと明らかにした。2017年以降のエリート層の脱北者数としては最大の数字だった。

昨年入国した脱北者196人のうち20、30代が99人で過半分を占めていた。これは、北朝鮮の体制に対する拒否感と韓国に対する憧れが背景にある。
韓国統一省が最近発表した脱北者の意識調査でも、北朝鮮の住民は金一族の支配に批判的になっている。


韓国敵視でコンテンツ阻止?

 エリート層や若者の脱北を防ぐには、韓国を完全な敵対国にして、交流を断絶するのがてっとり早い。正恩氏の狙いはこんなところにあるのかもしれない。ただ、平和統一の旗を降ろしたことについては、北朝鮮国内でも混乱が起きているという。

 もちろん、こういう殺伐とした雰囲気が続けば、偶発的な小競り合いが起きる可能性もある。今年、は4月に韓国総選挙と、11月には米大統領選がある。北朝鮮が存在を誇示するため、どこかの段階で核実験を行う。無人機を韓国側に侵入させる。サーバー攻撃を行うなどの見方もある。

逆にトランプ氏が米大統領に返り咲けば、北朝鮮の核を容認し、韓国にも核武装を勧め在韓米軍の縮小を図るのではないかとの見方もある。

今年、朝鮮半島は波乱含みになりそうだ。

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