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狂言「鱸包丁」:「第5回香川靖嗣の會」

狂言「鱸包丁」
シテ・山本東次郎
アド・山本則重


演奏至難をもってきこえる大曲「朝長」の前に置かれた狂言の演目は、これまた語りを中核とし、アイロニーに富んだ難曲「鱸包丁」。まず選曲に見識の 高さを感じずにはいられない。だが拝見すれば改めてこうした曲は山本家の狂言の素晴らしさを堪能するにはうってつけの作品であることを認識するのだ。 アドである甥のたくらみは開曲して間もなく明らかにされるが、それを見透かした伯父の戦略が作品そのものの形式的な構造をかたちづくり、山本家の狂言の 様式的な美しさが作品の佇まいを鮮やかに示すのである。那須与一のような仕方話のパロディかと思わせるような見事な語りと語られる内容の落差がおかしみを醸すが、 これも高度な語りの技術に支えられて初めて可能になるものに違いない。この日の東次郎さんの語りはこれぞ名人芸と呼ぶに相応しい、圧倒的なもので、 大病から恢復された後とは思えぬ素晴らしさ。所作の様式美もいつものことながら印象的で、それがおかしみを一層増幅させる。棹尾に至って、 一瞬のうちにそれまでの語りをいわば括弧に入れて「接続法化」する東次郎さんの切り返しも鮮やかだが、それをうけてあっさり降参する則重さんの受けも見事で、 何ともいえない余韻が舞台に残る。観終えてずっしりとした手応えを感じさせる充実の一番だった。

(2011.4.17初稿, 2024.11.16 noteにて公開)

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