ファイヤープロレスリングワールド GWF奮闘記 3-1:早き冬の始まり
「おやっさん、どうにかならんかの?」
「こればっかりはな」
「マジか……」
GWF、社長室。現社長兼レフェリーの久松 門左衛門とレスラーの代表である小暮、マッスルの三人は顔を突き合わせていた。
「しかし、どうしたぞな?動画収録ができるようになったはずやけん、これから興行を打ち出すって時にしばらく興行を取りやめるって」
「俺も小暮と同意見だ。納得がいかねえぞ、じいさん」
「お前ら、社長と……まぁ、いい。今はそれどころじゃないしの」
久松は茶をすすると肩を落とした。
「このご時世、赤字でも興行を打ち出すべき。と思った。だが、思ったより赤字がひどい」
「そんなにかよ」
「ちなみに、この前のジュニアヘビー級トーナメントでさえ、これじゃ」
と、二人の前に収益表を見せる。小暮とマッスルはしばらく覗き込んで喉から絞り出すような声を出した。
「……満員じゃなかったのかよ」
「満員じゃ。ただし、ちゃんとルールを守った上での話。このまま続けたら、いくら会長からの金が潤沢とはいえ、これでは会社としてなりたたん。会社である以上、儲けを出させねばならんしの」
「しかし、レスラーの皆は試合したいぞな」
「分かっておるさ、小暮。だからこそまた『出稼ぎ』にいってほしい。こちらからは、売り出しはかける」
「試合が無い時はどうすんだ」
「幸いにも立花だけでなく、島津も帰ってきた。また柔術や空手、レスリングの体験道場などを開き、それに当てる。また、食堂の店員としてまた雇用は確保しておく」
「またかよ、キツいな。いいか社長、耳かっぽじって聞いてくれ。レスラーはリングに上がってなんぼだぜ」
「そうじゃの……すまんな、マッスル」
「分かってる、社長だけが悪いわけじゃねえって事はよ。だが、ジュニアヘビーのベルト戦はどうすんだ。ジョーカーはあれを楽しみにしてこっちに帰ってきたんだぜ」
「今月末に道場マッチを行う。一試合だけじゃが有料配信を行ってみようと思う。後は色々な配信をして、GWFの灯は消さぬようにはしたい」
「そうぞな。必ずアシたちは生き残ってみせるぞな」
「で、再開はいつ頃予定だ?俺はそっちが聞きたい」
「……早くて今年の冬。遅くても来年開けてじゃ」
「よし、分かった。それまで、待ってみようじゃねえか。俺だってな、この団体好きだからよ。ただ、レイヴンズの連中の首切るような真似は」
「せんわい。それは、正規軍も同じじゃ」
「頼むぞな」
「あぁ、すまんの」
久松は頭を垂れる。小暮はぎゅっと目を閉じて、マッスルは茶を一息で飲むと天を仰いだ。
「はぇぇ冬が来ちまったな」
「まだ、残暑も残ってるのにのう」
夜、それぞれに二人を通して、連絡があった。何とか、団体を辞めようという者はでなかった。
ただ、叫ぶ者、泣く者、うなだれる者とそれぞれがいた。
それでも、皆何とかレスラーを続けようと思った。
「……で、皆は残ってくれると?」
「えぇ。ありがたい事に。ただ、やはり試合がしたいそうですわい」
「だよねぇ。私もスカウト止めて、まだ日本に帰ってないメンバーに話してみるよ」
「すみませんな、会長」
「なーに。私は経営を追い出された身だからね。できる事はやらないと。あ、でも、まひろちゃん達スタッフ陣はどうすんの」
「儂と一緒に他団体へのオファーにかけてみようと思いますわい」
「オーケー。じゃあ、コンテンツ整備とかはこちらでやっておくから。皆がオファーかけられるようにやってみるよ」
「ありがとうございます。……会長は日本には?」
「うん、まだ南米にいる。ちょっと、どうしても連れて帰ってみたい子がいるしね」
「分かりました。では、お気を付けて」
「叔父さん、私も会長じゃなくて一人の姪として言うけど体は気を付けてね」
「……すまんの」
そういうと久松は電話を切った。蒸し暑さはだいぶ涼しくなったがやはり、冷房はかかせない。それでも虫の涼やかな鳴き声が響いていた。
「儂も出来る限りやってみるかの」
久松は窓から星を見上げた。答えるものはないが、静かに輝きを放っていた。