ファイヤープロレスリングワールド GWF奮闘記最終回:これから
桜が散り、葉月の頃。
GWF社長の久松門左衛門は慣れない手つきでメールを送り、そっとPCの電源を落とした。首を上げ大きく、ため息をつく。
「……これで、あらかた整理はついたわい」
「お疲れ様です、私の方も各所の方に手続きをしておきました」
専務の高杉まひろが白湯を持ってきた。最近はお茶よりこちらの方が口に合うようになってきたのは老いてきたのかもしれないと静かに感じるようになった。
「はーい、こちらも海外勢に契約書とポートフォリオをネットで送っておいたから。どの団体でも活躍できるようにしたから後は選手次第かなぁ」
姪である久松樹(いつき)がスマートフォンを片手に不敵な笑みを浮かべていた。
「樹、その……何じゃ、ポートフォリオって?」
「まぁ、叔父さんの世代で言ったら、履歴書、職務経歴書の類かなぁ。
後は私の紹介状付きってトコロ」
スマートフォンをスーツの懐に入れると、樹も白湯を静かに飲む。
「……誰もいなくなったねぇ」
「まぁ、仕方あるまい。この経営状態では成り立たんしこの籠よりか広いところに飛び立てるかもしれんしの」
「それでも、全員GWFに籍を置くって普通では考えられませんよね」
「まぁ皆ワケあり、もしくは私も揃って馬鹿だからね。どこかで地に足をつけて置きたいのかもしれないよ、高杉ちゃん」
樹のスマートフォンが軽快な音を鳴らした。見ると天兵がアメリカの小さな総合格闘技の大会で勝利したニュースだ。
また鳴った。次は八坂と陣内がアジア圏のプロレス団体でチャンピオンになったニュースだ。
そして小暮が、梶原が、長田が、マッスルやタフネスたちが、火神が、海外勢がそれぞれ勝った負けたの報告をしてくる。
「……律儀じゃのう」
門左衛門が老眼鏡を外しながら、樹のスマートフォンを見ている
「まぁ、何にせよどっかでこの団体が好きなのだろうさ……結局ブラジルの彼も祖国が好きだからってオファー蹴られたしねぇ」
樹は肩をすくめ、改めて門左衛門に向き直る
「改めて問おうか、叔父さん。あなたに取ってプロレスとは?」
門左衛門は眉を少し動かして
「……格闘技の一種。古いかもしれんがその考えは変わらん」
ため息を吐くように門左衛門は息を吐いた。
「そうだね。私はエンターテインメントの類と考えてた。それが私が社長の座を追い出された原因。それを否定するために世界を回ったけど……」
樹は舌を出して
「どうでもよくなっちゃった♪」
「は!?」
「いやー、何か色んなところの回ってプロレスの在り方見てたらさ。
叔父さんとケンカしたのが馬鹿らしくなっちゃってね。それなら色んな手を打とうと思って帰国して休眠会社手続きとかしてたり、さっきの……
まぁ叔父さんの世代で言う職務経歴書かな?すぐ作成して手渡したワケ」
「成程な……何か変わったのぅ」
「ま、でも根っこのところは代わって無いから。ただ、叔父さんの考えも有りかなって思った」
「……そうじゃの、それぞれの在り方とプロレスで最高を競う。
それが我が団体の理念じゃからな」
高杉が白湯のお代わりを自分のと一緒に持ってきた。
「それじゃ、私デスマッチ好きなのですが……」
「意外だねぇ、高杉ちゃん。まぁ、アレ規制が厳しいからやり方考えるよ」
樹は白湯をゆっくり飲むと天井を見上げ小さくつぶやいた。
「-これから、だね」
ファイヤープロレスリングワールド二次創作
GWF奮闘記 完