ファイヤープロレスリングワールド GWF奮闘記 1-3 頭領とボスの武者震いと苦悩
「オメェんとこはどうなんだよ…」
マッスルが一言、呟くと小暮は顔を向けた。
「何が?」
「いや、オメェんとこのチームはどうなんだよ、正規軍は。頭領様は担がれてるのかよ」
小暮は首をかしげしばらく考えると
「考えたことないけんなぁ…」
と小さくつぶやいた。マッスルがため息をつくのが、マスク越しにも分かった。
「あ、なんなんよ!アシだって苦労してることぐらいあるぞな!」
「少なくとも、オメーよりかは俺の方が苦労してるよ。外国人の面倒みないといけないし、弟分のタフネスは今一つだし」
「タフネスは、頑張っとるぞな」
「頑張ってるってーのはみんなそうなんだよ。結果なり、お客さんに何か、これって訴えられるものがあってこそ、プロレスラーだろうが」
小暮は口を閉じると考えてみた。やはり、自分には足りないのだろうか。思うままにやってきただけあってそのような事は頭にない。難しい事はみな、昔からの付き合いである梶原に任せていたからであろうか。
そんな事を言っているとゴングがなった。
「……嬢ちゃん達の戦いが始まったか」
「どっちが勝つかのう」
「ぼーっと見てても始まらねぇよ。にしても、オマエその貧乏ゆすりなんとかならねぇか?」
言われてみて、両膝が震えているのが分かった。
「こ、これは……武者震いやけん」
「武者震い?まぁ、相手が桜神と城戸真絃だからっていって、俺たちがビビる事はねぇだろう。城戸にいたってはてめぇんトコの太田が別のリングだけど、何回か勝ってるだろうが」
「そういっても、アシらには初めての相手ぞな。怖くもあり……その、楽しみにでもないか?」
「楽しみねぇ」
かたや九州福岡で自主興行を続け、各リングでインパクトを残しているレスラー。そして、もう一人はプロレスも総合も行ける帝王と呼ばれる選手。どちらにしても、エースというのはああいうのを言うのだろうと小暮は思う。怖い。でも、楽しみだ。それがマッスルには分からないのだろうか
「……二試合目が始まったな」
「あぁ、皆楽しみにしとる。特に天兵は今回の試合に選ばれたのが楽しみらしいよ」
「こちらはランディが日本に残っててよかったよ。カード誰にするか、久松のジジイも悩んでたしな」
「ランディ、アメリカに帰ってなかったん?」
「……まぁ、あいつは家族と色々あるからな」
「それは」
「聞くなよ、小暮。それぞれ、色んなモノを持ってるのが人間だろうが」
小暮はまた、口を閉じた。自分でも分かる程、貧乏ゆすりは、否、武者震いは強くなる。せめて、プロレスをやっている時は、または自分の周りの人間だけは幸せになってほしいというのは自分のわがままなのだろうか。
両膝を見た。震えている。さすった。震えている。軽くたたいた。それで、ようやっと震えは止まった。
「……出番のようだぞ」
「分かった」
小暮は立つとリングにむかった。道場には他のレスラーやスタッフがマスクをつけて、消毒作業を終わり、ふいていた。漆黒のエプロンに大きくロゴが描かれている見慣れたリングがやけに大きく見えた。
「行くぞ、小暮。ヘマやったら投げ飛ばす」
「それはこちらのセリフぞな、マッスル」
小暮はゆっくりとリングへと向かった。