ファイヤープロレスリングワールド GWF奮闘記 1-4 ボス、怒る(前)
※前回の試合のネタバレになりますので、お気を付けください。
何なのだろうか、あの技は。否、技ではない。威力や鋭さが違っていた。これが、全国をフリーで回っているものの違いなのだろうか。切磋琢磨する頭領がタップを奪われた時、マスク・ザ・マッスルは自分の眼を疑った。自分のライバルといったヤツはこんなのだったろうかと。否、そんなのでは無い。相手が、強いのか。
相手、桜神と城戸真絃は確かに強い。桃炎隊というチームを結成して、互いに結ばれた絆があるからなのか、相手を信じている。それは互いに切磋琢磨してきたからでもあるのだろうか。合体技などはあまりなかったが、個々の強さと連携があるようにマッスルは思えた。
或いは、自分をボスと慕ってくれるレイヴンズのメンバーなら勝てるだろうか。確かに、前の試合では全てレイヴンズが勝っている。だが、それだけで足りるだろうか。
―頭にきた。
小暮がゆっくりと立ち上がり、肩で息をし始めている中。
背後でクラッチをしっかりとって。
「でぇぇぇいッ!!」
―投げた。
リングに鈍い音が響く。小暮は、どうだ。よし、それでも意識はあるようだ。そうでないと困る。
久松、茫然としている。そうだよな。
桜神、城戸。何が起こったか、分からないといった顔だ。
マイクを取り、小さく息を吸う。マイクが入っているのが分かると、マッスルは
「言ったよな、小暮。ふがいなかったら投げ飛ばすと。言った通りにしてやったまでだ。おい、桜神、城戸。これで終わりと思うなよ。こちらも血よりも濃い、絆がある。お前ら桃炎隊に負けない程の絆がレイヴンズには、GWFにはあるんだよ」
マイクを離し、少し息を吸う。負け惜しみのように聞こえるが、仕方ない。
「GWF正規軍、こんなのでいいワケないよな。悔しいか、それなら、いつでもいいからかかって来い、レイヴンズ。勝ったからってまだ、おごる事はねえぞ。これからだ、これから、徹底的に正規軍を絞りあげ、他の団体、他のチームともやりあっていくぞ」
ロープの向こう側に桜のように燃える男がいる、近くでは鍛え上げた肉体を持つ、虎のようなヤツがいる。面白い、こうでなくてはいけない。同時に、腹が立つ。
「いいか、画面の向こうのレイヴンズの同志、正規軍のファン、GWFを見ている奴ら。こっからだ、ここからだぞ」
小暮の肩を持つと、マッスルはリングの向こうへと去っていく。久松が改めて、桜神と城戸の手を挙げていた。城戸のBGMが鳴ると、視界がにじむ。あの、漆黒のリングを取られたようでマッスルは悔しかった。
「……マッスル」
「何も言うな。言ったら、ぶん殴る」
小暮の重たい体をひきずるように持ち、互いに支え合っていく。出口の向こうには、梶原と御堂筋がいる。梶原に小暮を投げ渡すと、御堂筋が肩を軽くたたいた。
「条さん。レイヴンズもまだまだだな」
「きっつい事いうなぁ、ボス。ウイッチも儂らも勝ったんやで」
「分かってる、分かってるけどよ」
「まぁ、しゃあないわな。ウチらはそーゆーもんやからな」
御堂筋のウチというのがGWFを指すのか、レイヴンズを指すのか分からないが強さを求めるのが、客に見てもらうために必要か、よく分っていた。
「……シャワー浴びてくる。桜神と城戸はどうする」
「せっかくやから、一泊してほしいけど相手次第かなぁ」
「まぁ、仕方ない。人気者だからな。せめて、寮の温泉と食堂の飯を振舞ってやってくれ。温泉入ってくだけでも、違うからな。後、飯が間に合わなかったら、タフネスに弁当作らせて持って帰らせてやれ」
「分かった……マッスル、今度はウチらが技のフルコースをごちそうしてやらんとな」
「そうだな」
―ここからだ。
正規軍も分かっているだろう。ここからだと。マッスルは静かにマスクを脱ぐとシャワー室へと入っていった。