見出し画像

ラピスラズロゥ星空保護区【短編小説・フリー朗読台本】

 ラピスラズロゥ星空保護区は、その名の通り、星空が保護された草原地域です。まさに宝石のラピスラズリのようなので、それを元に名付けられた保護区です。

 人の技術と文明が栄え、夜でも街が明るくなったことにより、多くの星が、その真上で生きることができなくなり、消えてしまいました。

 星が減っていることに気付いた人々は、残っている美しい星空を守るべく、いくつかの保護区を設けました。この夜空の下では、星が参ってしまうような明るく大きな光は禁止されています。もし大きな光を持ち出す人がいたのなら、保護区の職員がすぐに駆けつけるでしょう。

 保護区の職員は、星空を守る者。星を癒す者。
 彼らがもっとも忙しい時期は、夏でした。

「北Aブロック、Fブロック、落下確認!」
「南Gブロック上空、落下中です!」
「――流れ星、全部で二十三個確認! うち、七個は落下している様子を確認できましたが、どこに落ちたかわかりません! 行方不明星担当の方、お願いします!」
「了解! 行方不明星、七個! ほか落下地点が確認できた星はすぐに回収へ!」

 夏は太陽が一番元気な季節。
 太陽が沈んだ夜でも、残り香のように、太陽の熱が空を漂っています。
 その熱にあてられ熱中症になった星が、地上に落ちることがあるのです。紺碧の空に弧を描いて、気を失った光は落ちていきます。
 夏は、流れ星が一番多い季節。星が落ちやすい季節なのです。
 この星を保護し、夜空に帰すのも、保護区職員の仕事です。

 落ちた星は、そのままにしておけば死んでしまいます。星は夜の生き物。太陽の光に照らされては死んでしまいます。
 また、星の輝きは宝石よりもずっと美しいもの。装飾品として狙う密猟者も存在します。
 職員は、太陽の光から、そして密猟者から、星を守らなくてはいけません。

「北Aブロック、星三つを保護!」

 職員達は、小さな光を手に、草の根分けて落ちた星を探します。夏の夜の暑さに、額を流れる汗も、なんのその。

 星は結構見つかりやすいものです。熱中症で地上に落ちたといえども、うっすらと輝いていますから。
 両手で包めるほどの、大きな金平糖。これが星です。熱中症の星は、触れると少し熱っぽいです。

「全部でいくつの落下を確認したと言いましたっけぇ? 現在行方不明星、六個発見しました!」

 職員は通信機でやりとり。

「全部で二十三個……うち、行方不明星は七個です……あと一つ、どこかにありませんか?」
「……東にはなさそうです。ですがあと一つですね! 絶対に、助けないと!」

 暑さがまるで無数の糸のように絡まる夜。それでも職員は、星のために駆けずり回ります。
 みんな、星を、星空を愛していますから。

「――ありました! 樹のうろに入ってました!」



 無事にすべての星を見つけ出したのなら、本部へ保護します。

 保護した星は、みんな暑さに参っている状態です。職員達は砂糖水のプールを用意して、星を浮かべてあげます。
 しばらくすれば、大きな金平糖のような輝きは強くなっていき、やがてプールの中をすいすい泳ぎ始めます。
 冷たい砂糖水は、星にとって自分の身を冷やし、栄養となるものなのです。

 たっぷり浸かった星は、並べられたタオルに上がれば、少しの間眠ります。沢山栄養も取って、涼んで、最後は休息をとるのです。
 職員はこの際、オルゴールのぜんまいを巻いてあげます。心地の良い音楽は、星にとってはとてもよい子守歌となります。

 熱帯夜に、星のためのちょっとしたビーチが出来上がるのです。
 けれどもそのユートピアも、太陽が昇るまで。
 星は夜の生き物ですから、朝日が昇る前に、職員は星を夜空に返します。

「みんな、元気になってよかったね! できる限り、涼しいところで夜を過ごすんだよ!」

 うっすらと端が明るくなり始めた夜空の下。職員達が星を手放せば、星は夜空の高くへ昇っていきます。そして朝日に追われるように引き始めた夜とともに、空から去っていくのです。

 これが、星空保護区職員の、夏のお仕事です。

 ……お仕事が終わった職員達は、朝から皆ぐったり。すぐにお風呂に入る者もいれば、そのまま寝てしまうものもいます。
 そして次の夜を待つのでした。


【終】


この作品は、朗読台本としてフリーで使用可能な小説作品です。
詳しくはこちらの「朗読台本として使用可能な作品について」をご覧ください。

※他サイトでも公開しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?