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処方妖精【短編小説】

 真面目に働かなくちゃいけなかった。失敗もしないで、完璧にこなさなくちゃいけなかった。

 でも最近、それができなくなった。ミスばかり。焦ってばかり。

 いままでできていたのに。だから病気を疑った。病院で薬をもらえば、また元のように頑張って働けると思った。

「働きすぎ、頑張りすぎですね。きっと見えるでしょうから、妖精を処方しましょう」

 妖精? そういう名前の薬があるのかと思ったら、本当に「妖精」が処方された。

「やはり妖精が見えますね。この妖精は基本的に二週間ほどあなたのお手伝いをします。食事などは必要ありません。常に連れていてください。必要がなくなれば、妖精は見えなくなり、妖精自身も勝手に去ります」
「よろしくね」

 まさに絵本に描かれているような妖精が、私の後をついて回るようになった。
 いったいこいつが、どうやって私の悩みを解決してくれると言うのだろうか。
 でも処方されたのだから、と信じて日々を過ごすことにした。

「そんなに頑張らなくてもいいんじゃない? 所詮仕事だよ?」

 私は真面目に、そして頑張らなくてはいけないからこそ、妖精が処方されたのだと思ったけれども、大間違い。

「なにこれ! つまんない仕事じゃん! そもそも必要な仕事なの? これ頑張る意味ある? もう適当にやっちゃいなよ!」

 妖精はどうやら不真面目な性格みたいだった。

「はい! お仕事おしまいの時間! えっ、仕事が終わってない? 残業する? 頑張りが足りない? いやいやそもそも終わらない量の仕事をやろうとしてたんだって。終わらないのが当たり前だって」

 私は頑張りたいのに、すぐに妖精が文句を言う。握りつぶしてやりたい気持ちがあった。

「失敗した? そんなのよくあることでしょ、なんで気にしてんの?」

 こんなのじゃ、私は真面目な頑張り屋さんに戻れない。
 でも、この妖精にも、真面目なところがある。真面目というには、こだわりが強いというのが正しいのかもしれないけれども。

「お風呂はもうちょっと長くはいらなきゃ!」

 お風呂に長く入ったところで時間の無駄なのに。

「ご飯それだけ? ダイエットでもしてるの? もとから痩せてるじゃん! もっと食べた方がいいよ、ほらこれとか絶対おいしいじゃん」

 余計なものを買うと、その分出費するっていうのに。

「えっ、家で資料作ってるの? もう寝なよ! 日付がまだ変わってないって? いやいや変わる前に寝た方がハッピーでしょ!」

 やらなくちゃいけないこともたくさんあるのに。
 頑張りたいのに、全然頑張れない。

「――もういい、もういい、わかった」

 ある日私は、妖精のことがめんどくさくなった。妖精にあれこれ言われ、それに対してあれこれ言うのも疲れた。大人しく妖精の話を聞くことにした。

 仕事はもう頑張らない。ミスしてもそれでいいやと思う。
 お風呂は長め。食べたいものを食べて、眠い時は我慢しないで寝る。

 そんな日々を過ごす中、私は突然気が付いた。

 部屋が汚い。ゴミがいっぱい転がっているし、ものも散らかっている。
 随分前からこうだった。でも、気付いたのは「今」だった。

 片付けようという気持ちになれた。冷蔵庫を開けたら、もう消費期限の切れた食べ物もあった。ゴミを整理する中で給与明細を見つけた。私はそんなに、お金をもらっていなかったことを思い出した。

 それからたくさんのハンドメイドの材料を見つけ出した。レジンや粘土、ビーズに布。

 忘れていたけど、私はアクセサリーを作るのが大好きだった。
 魔法道具みたいなアクセサリーや小物を作るのが大好きだったんだ。アイデアメモもそこにあって、全部がきらきら輝いて見えた。

「どれから作ってみる?」

 いまなら何でも作れる気がして、妖精に尋ねてみたけれども返事はなかった。

 気付けば処方されてから二週間以上が経っていた。二週間以上どころではなく、一か月以上が経っていた。けれども妖精はまだそこにいて、今日、ついに見えなくなってしまったらしい。私がいろんなものに気付けた代わりに。

 もう少し早く私が気付いていれば、あの小生意気な奴に、何かかわいいアクセサリーを作ってあげられたのに。


【終】

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