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死んで欲しい。12 君と僕

早歩きでレジに向かった彼の後を視線で追って 私は彼の椅子も丁寧に戻し、少し時間をかけてレジへ向かった。 ちょうど精算が終わって彼が振り向く。 微笑んでる。 私も微笑み返して、エレベーターに向かった。 もう会話は要らない。 ここで何か発言してしまうと、現実に戻ってしまいそうだった。 そのまま私達は長い廊下を歩いて部屋に向かった ちょっと私は彼の後ろを歩いた。 レースのカーテンがかかった部屋は陽の光で十分に明るかった。 夜でもなければ、お酒も飲んでるわけでもないのに。 何に

    • 死んで欲しい。11 君

      「ゼンブバレタゴメン」 スマホの振動でいつの間にか寝てしまっていた私は 握りしめたままの携帯の画面をみた。 今まで二人の間で使ったことのない、ダイレクトメッセージからだった。 私の体は心臓だけが残ってるのではないかと思うほど 心臓の音だけが鳴り響き、生唾を飲み込んだ。 半角カタカナの一言。 それだけのメッセージでその後いつ来るかわからないメッセージ、連絡を 私はただ待つしかなかった。 昨夜、いつものようにオンラインで楽しく会話していた時、彼が急にやばいっといって、すご

      • 死んで欲しい。10 停止

        15歳離れた妻とは、再婚だった。 もちろん僕が惚れたわけで、愛していたしその証の子供も授かった。 いつからだろう、歳の離れたバツイチの僕と一緒になってくれて申し訳ないと、何もかも遠慮していたのかもしれない。  子供が生まれたからは夫婦の営みもめっきりなくなり、一年に数回、ほぼ愛情表現の営みではなく、性処理に近いSEXだった。 家族とはこういうものなんだろう。 夫婦も男女の愛から家族愛に変わり、僕の性欲は自己処理のみ、このまま気力も機能の低下していく、それを老いなんだと受け止

        • 死んで欲しい。9 再熱

          たまらなく、君が欲しい。 部屋に入ると、強く君を抱きしめ僕たちは強く激しく求め合った。 君はお酒の力を借りていたんだろうか、前より求めていたように感じた。  君と重なり合うたびに、体の奥そこから脳まで電気が走るような快感を得る。これまでそれなりの女性経験がある方だと思っていたが、こんな女性がまだ僕の人生に出会えるとは思っていなかった。 もう僕は確信した。 この女(ひと)、君に出会うために僕は生まれてきたのではないか? そして最初に出会った時に抱いた懐かしさと、君を守りたい、

          死んで欲しい。8 確信

           二度目は君の住む町であった。 君は意外とあっけなく、何事もなかったかのような 接し方で僕との距離をとっている感じだった。 君の気持ちを確認したいけど、はっきり確認するのは怖く、君のスタンスに合わせていた。 以前から決まっていたゴルフコンペで、僕たちは同じチームだった。 君はだんだん緊張もほぐれてきたのか、ゴルフの調子もよくなってきて 普段の君、普段以上のプライベートな君を垣間見れて本当に楽しかった。 でも君の後ろ姿や、体が触れるたびに僕は前回の君との思い出がよぎり 正

          死んで欲しい。8 確信

          死んで欲しい。7 始動

           いつものように朝起きて、犬の散歩をして子供たちを見送って 午前中仕事を調整し、君とお昼を食べ、コーヒーを飲んだところまでは、 いつもと変わらない日常だった。 変わっていた事があるとしたら、日常にはない君との顔合わせのお昼にちょっと心躍らせながら行ったことだ。  その後のたった数時間の出来事で、僕はタイムマシーンにでも乗ってどこかの世界に行ってしまったように、もう元の世界には戻れない、違う世界の時間が始まってしまったのだ。  僕はどうやって仕事に戻ったか帰り道、あまり覚え

          死んで欲しい。7 始動

          死んで欲しい。6 西日

           部屋に入った僕は君を抱き寄せた。 リアルな君は想像していたより小さくて、ぼくの僕の腕の中にすっぽりおさまった。  僕は勢いよく君の服を剥ぎ取ってツンと立っている片方の乳房を口に含んだ。 君の声が漏れる。 僕の鼓動は高まり、荒々しい呼吸で一気に体中が熱くなった。  これまでの抑えていたの気持ちと、欲望を一気に君にぶつけた。  何度も何度も、年甲斐もなく、何度も君へぶつけた。  愛の形は男女愛から家族愛へ、人間愛へと変わっていくという。 僕も家族愛、人間愛へと代わっていき、男

          死んで欲しい。6 西日

          死んで欲しい。5 コーヒー

          コーヒーのお代わりがふたりのカップに注がれていた。  さっきのお店で飲んだお酒のせいか、君は普段よりおしゃべりだったようだ。 話は仕事の話から、君の恋愛話に変わっていった。  女子会で恋バナをしているかのように、元カレの話や振られた話、最近の女子恋愛事情を話していた。  僕はちょっと複雑で、なんで他の男の話をするんだと、ちょっと怒りのような感情を抱いていた。  完全に嫉妬ではないか。落ち着かせるためにコーヒーを流し込んだ。    どうしたら彼氏ができるの?もう諦めて仕事の人生

          死んで欲しい。5 コーヒー

          死んで欲しい。4 左側の顔

          駅で待ち合わせなんて久しぶりだ。 僕は初めてのデートをするような緊張感と高揚感で待っていた。 君はペコっと会釈して、ニコッと笑いながらこっちに向かって走ってきた。 あー僕にはデジャブなんだけれど君は気づいていないよな。 「久しぶり、元気? オンラインでは合ってるから久しぶりな感じはしないけどね。」 内心、リアルの方が断然いいよと心の中で言いながら 僕らはお店へ向かった。  老舗の料亭で昼御膳を食べた。 君は昼間っから贅沢だと言いながらビールも飲んでいた。 飲まない僕はちょ

          死んで欲しい。4 左側の顔

          死んで欲しい。3 あの時の君

          僕はおしゃべりだけど、君も僕に負けないくらいおしゃべりだ。 僕たちはいつも話し始めるタイミングが同じになることが多く、 どうぞお先にとよく言っていた。 君との話は終わりが難しく、次の予定がなければいつまでも続いてしまう そんな感じだった。 ある程度社会的に、年齢も地位も高くなる僕の年頃になると 誰も意見したり、否定したりしなくなっていく。 そこに君は年齢も立場も関係なく、ある時は先生のように諭し、兄弟のように励まし、親友のようにはしゃぎ、時には母親のように話してくる。 そ

          死んで欲しい。3 あの時の君

          死んで欲しい。2 僕が僕であることを

          君と出会った(再会)日から僕の毎日は少しずつ変わっていたった。 目の前には15歳も離れた若く美しい愛する妻、二人の愛おしい子供が目の前にいる。 僕は家族のために必死に働き、自分のやりたい事は一つずつ諦めていく、それが家族を愛することだと思って疑わなかった。 あの日君と出会ったあの瞬間、僕は君を守らなきゃと家族と同じように 君を愛してしまった。 僕の愛の全ては家族に注いでいたので、君への愛はその愛を削るしかなかった。 最初は自分自身でも気づかないくらいに少しずつ少しずつ削

          死んで欲しい。2 僕が僕であることを

          死んで欲しい。1 「再会」

          もう誰か好きになったり愛したりしないと思っていた。 そもそも僕には愛する家族があって、これ以上愛を注ぐ人がこれからの自分の人生に出てくるなんてこれっぽっちも思ってなかった。そんな欲望もなかった。 人生も折り返し、特に不満もなく平日は仕事をし、週末は家族と過ごす、穏やかなありふれた日常が毎日繰り返されていた。あの日もそのうちの同じ1日が繰り返されるはずだった。 そんな中、君はふっと僕の前に現れたんだ。 君に会った瞬間、僕しかわからない暖かい懐かしい風が頬をかすめた。 えっ?

          死んで欲しい。1 「再会」

          嫌われてしまいたい。

          君のことを忘れなければならないのなら タバコも吸うよ。 何度も同じ話をするよ。 夜更かしもする。 黒い靴も履くよ。 髪も切るよ。 だって君は タバコが嫌いな人。 何度も同じ話をするのを嫌がる人。 夜更かしが嫌いな人。 黒い靴が嫌いな人。 長い髪は好きっていたよね。 だから君が嫌いなことを全部するんだ。 君から嫌われてしまえば この悲しみも苦しみも終わるんだ。 君への想いは行く宛がなくなって消えてしまうはずなんだ。 君を愛してることをもう二度と君に伝えられないなら 君に

          嫌われてしまいたい。