「軽さ」に振りきったレンズ。Sonnar T* FE 35mm F2.8 ZA
Sonyから出ているzeiss銘の広角単焦点レンズ、Sonnar T* FE 35mm F2.8 ZA (SEL35F28Z)の話です。
このレンズ、見た目は地味です。でもよくよく考えてみると、けっこう尖った設計思想だと思うのです。
重量は120g。
初出が2013年なので、発売から既に10年以上経過していますが、Eマウントのフルサイズ用AFレンズとしては、いまでも最軽量だと思われます。「軽さ」と「小ささ」を優先し、邪魔になるものは潔く捨てたミニマル志向の設計です。操作部はフォーカスリングのみで、絞りリングやスイッチボタン等も一切ありません。
今どきの新作レンズでも軽量さとコンパクトさは謳われますが、「圧倒的な描写力!旧モデルが1kgだったのが新作では880g!」みたいな感じですよね。まず超高解像ありきで、その上で軽くしよう、という発想です。
このレンズはもっと振り切っていて、おそらく120g達成が第一優先目的。 当時のメーカーの意図としては「ボディとセットで550g以下を目指す!」みたいな目標だったのではないでしょうか。
ミラーレス界は既に大口径と高解像に舵を切ったので、この重さのレンズが今後Sonyから出ることは、考えにくいかもしれません。だからこそ、このレンズは10年経った今もラインアップに残り続けているのかも。ロングセラーを支えるのは際立つ個性です。
でもその割にはレビューは多くないし、勧めてくれる人も多くない。本当に謎なレンズです(笑)、結構気に入ってるんだけどなー。
描写はシャープです。色も濃く出るし、コントラストが高いので、クッキリ見えます。そのかわり、オシャレでふんわりした画は苦手です。
どちらかというと、ストリートスナップとか、ドキュメンタリーフォトに向く、ストイックなレンズだと思います。
そもそも焦点距離35mmにF2.8という組み合わせでは、ボケ感とか立体感とかは控えめです。背景をボカすために被写体に近づこうとすると、こんどは最短撮影距離35㎝がアダになります。結果的にシャープな写真が多くなります。そのシャープさだってマクロレンズやサイズの大きいレンズには敵わないでしょう。
AFについては最新モデルのような「爆速!」ではないけれど、特筆するような不満もありません。
細かく見れば描写性能もサイズゆえの限界を感じます。万能ではありません。けど、このレンズはとにかく「軽い」のです。軽さだって大事な機能のひとつです。「軽さのために、君はどこまで捨てられる?」と、使い手に問いかけてくるレンズなのです。
このレンズを使い、「この描写でいいじゃん!」と感じられれば、しめたものです。目的が明確でないお散歩に、なんとなくカメラ+レンズ1本だけ持っていける。カバンの隙間にだって入る。機動性はシャッターチャンスを自然と増やしてくれます。このメリットの効果は計り知れません。
zeissで35mm、F2.8と言えば、名機CONTAXのT3などが思い浮かびます。レンズ構成は微妙に違うので同一視すべきではないと思います。
ただ、フルサイズフォーマットをコンパクトカメラ的に持ち出せるという点ではフィルムカメラに近い撮影体験ができるのかもしれません。大口径レンズの持つ威圧感もありませんし。
このサイズと重さのまま、F2になって、最短撮影距離20センチになったらな〜なんて思う時もあるのですが(笑)、気軽なフルサイズ用レンズの選択肢として、今後も何かと持ち出しそうです。
お付き合いいただき、ありがとうございました。
※スマホ撮影の一部を除き、このポスト中に出てくる写真はSonnar T* FE 35mm F2.8 ZA で撮ったものです。