「好き」は伝えないままで
年下の彼とのお話。
この日は、私の大遅刻。
この日珍しく早起きしたにも関わらず、1時間も遅刻してしまった。
早起きをしたため、朝には余裕があった。荷物の用意を終え、時計を見ると家を出るまでに少し時間があった。ゆっくりしようと一息つくと寝転がった。それがいけなかった。いつの間にか寝てしまっていて、気づいて時計を見ると、もう家を出なければいけない時間。
まだいいやと後回しにしていたメイクは、やはりしていない。急いで洗面所へ。ゆっくりする暇もなく手早くメイクを済ませた。
スマホを確認すると、メルカリで購入の連絡が来ていた。タイミング悪いよと思いながら手早く発送の準備。乗りたい電車にギリギリ間に合うかなという時間になっていた。車を走らせ、駅の駐車場へ。
駐車場に止めた頃、電車がホームに着いてしまっていた。駐車場から改札は近いと言っても地下道を通る、切符を買う、連絡橋を通るがある。今、走ったとしても間に合わない。
ホームから出ていく電車を車中で見つめながら、彼に連絡することにした。田舎に住んでいるため、もともとあまり本数はなく、多い時間で30分に1本、お昼ごろは1時間に1本しかない。残念ながら、私が乗れる電車は1時間後にしかなかった。結果、1時間の遅刻となった。
遅刻した私だが、彼はやさしかった。近くのパン屋に入り、アプデがあったゲームをしていたらしい。ゲーム好きの彼らしいし、待っている間にやれることを持っている彼でよかったと本当に思う。
暑い夏というのに、本日の予定は外の散策。
今思い返せば、ちょっとねじが外れているなと思う。
と、その前にお昼時だったから近くでランチ。私が行ってみたいと言っていたカフェを覚えてくれていて、目的地の近くだから覗いてみようと声を掛けてくれた彼は本当に出来ている。私を喜ばすのが得意なのか。
人気なカフェだから席が空いてないかもと不安だったが、訪れたタイミングがとてもよく、1席空いていた。そのあと、何人も訪れてきてやっぱり人気なんだなと感じた。
私は、日替わりランチにした。和食で、副菜が何個もあり一つ一つがとてもおいしかった。食べられるのだけど、昔から苦手意識がある茄子もとてもおいしかった。
そして、散策。名前は一応伏せるが、大きな庭園に行った。
チケットを買う機械に苦戦してしまった私だが、彼が教えてくれて無事に買えた。やっぱり機械に弱いのかな、私。
和傘がレンタルで借りられることは、ラジオで聞いていた。
入り口の門をくぐると、傘立てに2本の傘があった。
内心でばんざいをして、1本借りることにした。服装的にはあまり和傘は似つかわしくない気がするのだけど、和傘に触れられることがうれしくて仕方なかった。
会った時から手は繋いでなかった。雑木林を歩いていた頃、彼から手を繋いできた。やっぱり私は慣れなくて、照れてしまい顔が見られなかった。
彼は面白がるようにのぞき込んでくる。
ずるい。
そのまま手を繋いで、たまに離して、でもまた繋いでを繰り返していた。
小川を渡るとき、石の階段を上るときは「落ちないようにね」「こけないようにね」とやさしい声を掛けてくるけど、ちょっとからかっているのが目にわかるから「着替えないからしないもん」、「こどもじゃないもん」なんて反発してしまう。
「着替えあったらするの?」なんて、芯をつくような返事が返ってくるからたまに気に入らない。口で勝てないことが見てとれてしまうから。
年齢では確実に私の方が上なのに、知識とか言動とかは彼の方が上にみえてしまう。「年上だもん」と反発するが、反発できていないかもしれない。
散策終わりごろ、和傘をくるくる回したり、指に乗せて歩こうとしたりと遊び始めた私。こういうところが幼いのかもしれない。
彼は、なんだかんだ言って手を繋いでくれていた。つなぐ手が緩くなったら、握り直してくれた時は何となく心がきゅんとしてしまった。不覚。
この後の彼とのお話はまた後日。
この関係は、傍から見たら恋人に見えるだろうか。手を繋いでいたら見えるか。お互いの気持ちは把握しきれていない。私自身がよくわかっていないのだから。
この関係は長く続けるべきではないことはお互いに理解している。
ただ今だけは、と思ってしまう私は、弱いのかもしれない。
いつか終わりが見えてしまうかもしれない関係よりもこの関係は安心だ。
けれど、前には進めないと思う、現状維持でしかない。
私は彼のことをどう思っているのか、自分の中できちんと整理しないとおけない。彼の好きなところも、彼に不満と思うことも知っている。
ただお互いに「好き」は言わない。
安心するこの関係をいつか終わってしまうかもしれない関係に発展させるのは怖い。お互いの思いを確認をするのが怖い。「好き」と返ってこないことが怖い。
おたがいずるいもの同士だ。
「好き」と伝えないままで、いつまでこの関係は続くのか。
いつか終わりは来てしまうというのに。