【連載小説③】人生をもう一度選べ
前の記事はこちら
メゾン・ド・プラージュを管理していたのは、全国規模で賃貸物件を扱う大手の会社だった。「もう入居者は募集していない」という担当者に強引に頼み込み、オーナーにつないでもらう約束を取り付けた。
「高齢なので、期待した返答が得られるかわからない」と渋る担当者に、どういう状況でも構わないからと、すぐに連絡をつけてもらえるように伝えて電話を切った。
しん、としたリビングで電話をにぎりしめている自分に気がついて、私はようやく落ち着きを取り戻した。メゾン・ド・プラージュの入居の可否を問い合わせて、一体何がしたかったのだろうか。
ただサロン・ド・ニースの看板を見た瞬間、私の目の前には今と違うもう一つの選択肢が現れたような衝撃があった。今にも消えそうな入口ではあるけれど、それは確かに存在するものとして私に選択を迫った。
「人生をもう一度選べ」と。
放心しながらそんなことを考えて小一時間ほどが過ぎ、折り返しを迫ったことも忘れてようやく仕事をしようと立ち上がりかけたとき、スマホが鳴った。
知らない番号だった。でも表示された市外局番は、幼いころから見慣れた故郷のものだった。
次の記事はこちら
一話はこちら👇
ありがとうございます! サポートはすてきな写真を撮りに行くために使わせていただきます。