スイ

2023年はたくさん書いてつながりたい。から揚げと焼きそばと写真が好きです。

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マガジン

  • メゾン・ド・プラージュ

    結婚7年。ついに理解し合えることのなかった夫との関係を解消し、故郷の海辺で人生を生き直す女性のストーリー。「赦し」をテーマにした再生物語です。週1回更新しています。

  • 40代を生きていく

  • 写真

    文章を書ききれていない写真をまとめています

  • 言葉のはなし

    言葉について書いたコラムをまとめました

最近の記事

【連載小説⑩】夫からの着信

前の記事はこちら 夫からの着信に気がついたのは、アウトレットモールの駐車場に車を停めたときだった。予想以上に早い連絡に心臓が跳ねるのを感じながら、それでも家を出てまだ2日。事務的な連絡なら別居に触れずに話ができるかもしれない。 そう判断して電話に出ると、慌てたような間があり「ダスキンモップの交換が来てて…」と夫のうわずった声が聞こえた。 集金に来ているなら2,000円の使用料を支払い、今後必要ないならストップするように伝える。 「必要ないっていうのは…」と言い淀んでい

    • 母はずっと壊れていた

      「全部あんたが悪い」と、母はくり返した。 私とのケンカで娘が不安定になっていることも、弟夫婦が離婚直前であることも、向かいに住む夫婦の仲が悪いことも。 娘が不安定になっていることまでは自分事に思えたが、弟夫婦と、さらには母の向かいに住むご夫婦までが登場した下りで「これヤバいやつだ」と逆に冷静になった。 事の発端は私と長女との親子ゲンカ(?)だった。 ASDの傾向があるせいか、子育ての責任を負わず逃げてばかりいる夫が、「お前は怒ってばかりだ」と私を茶化したとき、珍しく長

      • 【連載小説⑨】与えられた船室

        前の物語はこちら カギについていた「C2」を頼りにメゾン・ド・プラージュの中庭に足を踏み入れると、突き当り一番右にある1,2階がC棟であることがわかった。2階の玄関に「C2」の表示が出ている。レンガの階段を上がりドアを開けると、想像していたより広い部屋が広がっていた。奥にある大きな窓の向こうは海だ。 車からニトリで買った荷物を運び、カーテンをつけたら部屋はすぐ住める状態になった。 築43年だけあって人が生活した痕跡がいくつもあるせいだろうか。心地よい気配にホッとしながら

        • 【連載小説⑧】メゾン・ド・プラージュC2号室

          前の記事はこちら 新幹線の駅近くにあるカプセルホテルに泊まり、翌朝10時にメゾン・ド・プラージュの近くに住むオーナーを訪ねた。 電話でのやり取りはあったが初対面なので手土産を渡し、改めて最後の入居者が退去するまでのあいだ、住まわせてもらうことへの感謝を伝えた。 「県外から来られたの?」と不思議そうにしたオーナーには、昔この近くに住んでいてよく海に遊びに来ていたことや、幼心に垢ぬけた建物がとても印象的だったことを話した。 すでに取り壊しまで決まった建物に住みたいと必死で

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        記事

          【連載小説⑦】新生活はおひとりさまで

          前の記事はこちら ハルとのおしゃべりがひとしきり済んだあと、ダメもとで家主に電話をかけてみると、「ちょうど今日クリーニングが入ったばかりだから」と明日入居の許可が降りた。日割りで家賃が発生するかもしれないが、新居で生活をスタートできるのはありがたかった。 ハルには「またすぐ会おう」と伝えた。これからは車で15分ほどの距離にいられる。学生のときのようにしょっちゅう会えなくても、今はこの距離が心強かった。 強気で出てきたつもりでいたけれど、そうでもないのか。 家具の量販店

          【連載小説⑦】新生活はおひとりさまで

          【連載小説⑥】これからは、いつでもお茶とかできるんだ

          前の記事はこちら 突然の訪問にも関わらず、ハルはいつもどおりに私を迎えてくれた。 私の行動力には驚いていたが、夫に気持ちがないことは以前から時々伝えてあった。 思い返すと結婚前からおかしな言動はあったこと。2年ほど前にそれが発達障害によるものであると気づいたこと。世間一般の専門家はこの障害でトラブルになっている夫婦に対して、本人が変わることはないという理由で別居か離婚をすすめていることを私はハルに話した。 診断を受けたわけではないが、私は夫が発達障害であることを疑って

          【連載小説⑥】これからは、いつでもお茶とかできるんだ

          【連載小説⑤】別離と出発

          前の記事はこちら ショッピングモールでの”事件”が起こったのは、メゾン・ド・プラージュへの入居を3日後に控えた休日だった。 私は夫に何一つ相談せず、着々と転居の準備を進めていた。 注文した食事を待ち続ける私を前に、自分の料理を平らげた夫を置いて店を出た私は、一旦バスで自宅へ戻った。 夫からは何度もLINEで「どこにいるのか」とのメッセージが届いていたが、私はプレビューだけを見て返事は返さず、仕事道具と数日分の着替え、外泊用のポーチが入ったバックを持って自分の車に乗り込

          【連載小説⑤】別離と出発

          【連載小説④】スタートの場所

          前の記事はこちら 電話はやはり、メゾン・ド・プラージュのオーナーからだった。高齢であることは感じられたが、声にはハリがあったし応答もはっきりしている。 「空室があるか知りたい」という私に、オーナーは不動産サイトにあった通り、老朽化のためにもう入居者は募集していないこと、2年後には更地にする計画があることを告げた。 すでに入居者のほとんどは退去し、16室あるテラスハウスには3人しか残っていないという。ならば、と私は「その3人が退去するまででいい。最長で2年、あのテラスハウ

          【連載小説④】スタートの場所

          【連載小説③】人生をもう一度選べ

          前の記事はこちら メゾン・ド・プラージュを管理していたのは、全国規模で賃貸物件を扱う大手の会社だった。「もう入居者は募集していない」という担当者に強引に頼み込み、オーナーにつないでもらう約束を取り付けた。 「高齢なので、期待した返答が得られるかわからない」と渋る担当者に、どういう状況でも構わないからと、すぐに連絡をつけてもらえるように伝えて電話を切った。 しん、としたリビングで電話をにぎりしめている自分に気がついて、私はようやく落ち着きを取り戻した。メゾン・ド・プラージ

          【連載小説③】人生をもう一度選べ

          【連載小説②】海辺の町とサロン・ド・ニース

          前の記事はこちら 10代後半まで住んだ町を、Googleマップで見つけたのは2週間ほど前のことだった。 漁村だった海辺の小さな町はすっかり姿を変えていた。 夏、週末になると水着の上にワンピースをかぶり、浮き輪をかついで出かけた砂浜は、何年も前に護岸工事が完了していた。タコ壺がいくつも並べられたバラック小屋は、コインパーキングになっていた。 考えてみれば当然のことだ。 目の前にある島との間につり橋が架けられて、周辺も姿を変えていた。橋の完成と時を同じくしてこの地を離れ

          【連載小説②】海辺の町とサロン・ド・ニース

          【連載小説①】すれちがいと最後の食事

          ごちそうさま、と夫は席を立った。 ランチに入ったレストランでオーダーから35分。私の前にはまだ何の皿も置かれていない。 恐らく、店の人は忘れているのだろう。夫はその間、自分の目の前に置かれた食事を一度として私とシェアすることも、連れの食事はまだかと尋ねることもなく食べ終えた。 同じことはこれまで何度もあった。無神経な夫に不満をぶつけたこともある。 けれど今の私に怒りはなかった。いつもと同じことが起こることを確認して、むしろスッキリしていた。 私は夫がトイレから戻るの

          【連載小説①】すれちがいと最後の食事

          次女と2人、本気でスポーツクラブに関わることにした

          子どもが生まれたとき、私にはやりたくないことがいくつかあった。 そのうちのひとつが保護者ありきのスポーツクラブ。 女の子と聞いたとき何よりもうれしかったのは、「サッカーと野球をやらせなくていい」ことだった。 休日をつぶして、炎天下や極寒のグランドで1日中子どもたちを見ているなんて絶対ごめんだ。 長女を妊娠してから15年間、その思いはまったく変わらなかった。 最初に気持ちが揺らいだのは、尊敬するライターさんの投稿記事を読んだときだ。 その方には小学生の息子さんがいて

          次女と2人、本気でスポーツクラブに関わることにした

          「子どもがあなたの寿命をのばした」なんてウソだ

          「出産によって子宮系疾患のリスクは○割、授乳によって乳ガンのリスクは○割低下する」という情報を真に受けていた。「だから女性の平均寿命は長い」と。 ネットの記事だったが、新聞社が出す記事があやしいだなんて思わないくらいにはボケていたのだ。 2人目の出産から10年、私は子宮を失った。 いや本当は、失ったなんてドラマチックな感情はない。本音は生理がなくなって、心の底から清々している。でも何か納得できない気持ちもずっとある。 自分の出産と育児に、自己満足以上の何かは求めていな

          「子どもがあなたの寿命をのばした」なんてウソだ

          さよならの小鳥

          娘と一番仲のいい友だちが、「引越しする」と聞かされたのは昨日のことだ。 お母さんの生まれ故郷である鹿児島の離島へは、遅かれ早かれ移住することが決まっていた。 それなのに10歳の娘と同じように私も、ともに過ごす時間は無限にあると思っていたのだ。 夏休みが終われば、またいつもの日々が続くはずだった。 私には、「友だちの母親っぽい言葉」が見あたらなかった。 挨拶に来た彼女のお母さんは、いつもと同じように穏やかで礼儀正しく、私の方がよほど不安を持て余していた。 ここより

          さよならの小鳥

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          夏の記憶 ② 2019

          夏の記憶 ② 2019

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          夏の記憶 ① 2019

          夏の記憶 ① 2019

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