文字だから恋した
小学生のころ、4月のクラス替えでカッコいいと思っていた男の子がプールの授業でおぼれかけているのを見て毎年失恋した。
書かれた文章があまりにもステキでうっかり誰かに惚れてしまいそうなときは、そのことを思い出すようにしている。
ときどき本当にうっとりするような文章を書く人がいる。
ラブレターでもないのに言葉に色気がある。
その時点ですっかりイメージはでき上っているのだが、まずはプールの授業を思い出す。
50m走ではあんなにカッコよかった彼だって、とんでもない顔で水から飛び出てきたではないか。
すでにメールの向こうには佐藤浩市が見え隠れしているが、向かい合ったら出川哲郎かもしれない。
それはそれで人間味があるが、プールサイドでは失恋をくり返した。
ギャップには幻滅しがちな性格であることを肝に銘じておかなければならない。
仕事だけでなく、インターネットでのやり取りだけで事足りることが増えた。
家族でも親しい友人でも、ましてや恋人でもない人と会うことは少なくなった。
きっとヒグマみたいな人だって。
文字にはめっぽう惚れやすい自分に言い聞かせながら、こんな言葉を選べる人ならヒグマでもいいと思ったりしている。
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