「子どもがあなたの寿命をのばした」なんてウソだ
「出産によって子宮系疾患のリスクは○割、授乳によって乳ガンのリスクは○割低下する」という情報を真に受けていた。「だから女性の平均寿命は長い」と。
ネットの記事だったが、新聞社が出す記事があやしいだなんて思わないくらいにはボケていたのだ。
2人目の出産から10年、私は子宮を失った。
いや本当は、失ったなんてドラマチックな感情はない。本音は生理がなくなって、心の底から清々している。でも何か納得できない気持ちもずっとある。
自分の出産と育児に、自己満足以上の何かは求めていない。でもついているはずのおまけがなかったような、期待を裏切られた感が消えない。
「出産や育児は、ボーナスステージが用意されていないとやり損だ」と、私は思っていたのだろうか。
そんなにおまけが欲しかったのかと自分に驚く。
「お腹に直径3cmの子宮筋腫がある」と診断されたのは5年前。
アラフォーには珍しい話ではなく、悪性でもなかった。出産も終え3人目も望んでいなかった。しかし「手術をせずにやり過ごせるかも?」と経過観察し続けた筋腫は、5年かけて直径10cmを超えた。時間をかけて形成された異常は、気づかぬうちに、でも思った以上に体に負担をかけた。
昔読んだ記事が本当なら、自然分娩で出産した私の子宮疾患リスクは低いはずだった。がんばった(?)分、いいことが待っているはずだった。しかし結果は惨敗。清々はしたが、良いことが起こったとは到底思えない。
どこにでもある出産と、誰もがやる育児のはずなのに、子育ては自分の全てを費やしても「まだ足りない」と私の人生を貪った。不要だったとはいえ内臓まで捧げたのに、ボーナスステージは始まらない。
子どもたちは10代になって、私は40代になった。
2人の娘は楽しい話し相手となり、穏やかに過ごせる時間も増えた。しかし思春期の子どもたちの存在は、寿命をのばしてくれるものではない。
今さらボーナスステージに期待はなく、「子どもが母親の寿命をのばすなんてウソだ」と納得してからは、心の霧も晴れた。
子どもの存在は希望だと美化したり、振り回されてばかりだと悲観したりすることなく、捧げることを前提に生きていきたい。「悟り」とか「諦め」が、40代のボーナスステージなのかもしれない。
肉体的に若く元気でいたいとか逝くときはいっそポックリ逝きたいとか、まだまだ惑わされている。でもそれは子どもが理由じゃない、ということだけは、40代の今ようやく理解している。