フリーハンド図の救いの神 ~改造家ツール ピックアップ ①
こちらが請け負う手すりの工事は、ほとんどが介護保険を利用するものである。
そのための介護保険担当課への申請手続きには、必要な書類が多々あるのだが、その中でも、手間をかけるつもりならいくらでもかけられるのが、その手すり等の位置を示した図面である。
法律では添付を定められているわけではないが、手すり等をどのような理由で付けるかの理由を書かなくてはいけない以上、移動動線を明示するために、図面はほぼ必須となる。
この仕事がまだ軌道に乗る前、他の設計事務所の手伝いなどと兼業でやっていた頃は、時間をかけて二次元CADで書いたりもしていたが、年間200件弱の相談ペースになり、それを1人で回すようになると、さすがにそれは時間の無駄だなと考えるようになった。
何せ、ミリ単位の正確な寸法を追うための図面ならまだしも、必要なのは、間取りと、手すりなど改修部位の明示にすぎないのだ。CAD製図などオーバースペックである。
なので、できるだけその時間を省こうと考えた。
ではどうしたか。
現地調査で間取りのメモをとって、それをそのまま生かして利用したのだ。
と書くと、こいつは建築士だからもともとスケッチが上手なんだろう、と思うかもしれない。
自慢でないが、自分にスケッチの能力があったら、もう少し建築設計の世界で粘っていたかもしれない。お世辞込みでもそのくらいのレベルである。
だが、道具をうまく使えば、それなりに見られる画が描けるということがわかったのでやっている。
なので、そのレシピを書いてみる。住宅改修事前申請、添付の図面に苦労している勢の皆さん、パクられたし。
1、現地調査で間取りを描く
フリクションの黒で、間違いを恐れず、壁は2本線でワシワシ描く。間違えたらゴシゴシ消す。全体の間取りが入るようにレイアウトすることだけ注意。
ただし、プライバシーの問題もあるので、理由書で必要がないところはサイズだけ一本線で適当に描く。これなら時間も節約できる。
ここで、ご利用者様の苗字と調査年月を図の右下あたりに入れておくと、調査が重なってパニくるとき、図面を取り違えずに済むのでお勧め。
2、現地で手すり等の位置を描く
赤色推奨。計画している手すりなどの記入。あまり細かい情報は書かない。段差の大きさや手すりの長さは、メジャーを当てた撮影画像に任せるつもりで。引き出し線は後でやる、あくまでその位置だけプロットする。
現地調査での下ごしらえはここまで。
3、カラーコピーを取る
この時、間取りが紙の上下左右に寄りすぎている場合、レイアウトを調整する。少し濃い目推奨。
ちなみに、我が事務所では最初期を除き、代々ブラザーのA3複合機が活躍中である。
4、コピーに室名を描く
青色推奨。見積書で記入するのと同じ室名をフリクションで。ぱっと目に入るよう、四角囲みにして。
5、見積を作成する
図面と画像を見ながら、齟齬のないように。
6、手すり等の引き出し線と説明を描く
個々の見積番号とその部位の解説を簡潔に。赤色推奨。自分は番号と手すりの向き程度しか書いていない。
長さ?画像に線を書いてあるし、見積に約何mmって書いてあるでしょ?なスタンスである。図に必要のない情報は書かない。あくまで見積上のどれがどこにあるか、それが判ればいい。
また、段差を書き込むとえてして読めなくなるので、必要な場合は画像で説明するか、描き方を各自工夫する。
7、壁に薄墨を塗る
たぶんここが重要ポイントである。
あくまでも薄い色で。筆ペンはコシがある細いものがお勧め。はみ出ない方が格好は良いが、はみ出てもそれは味だと言い張る。
ちなみに、このレシピの肝がここだと思う。薄墨最強。
これが黒筆ペンだと途端に目に痛くなり、下手くそに見えてしまう不思議。
8、描かなかった壁にも薄墨を塗る
調査時にシングルラインで描いた部屋の大きさを示すライン上に、他のものと同じ位の幅で、薄墨色を載せる。他に比べて気持ちアバウトに。
開口部かもしれないところは、ちょっと細めに。事実かどうかはともかく格好が大事。
これをやることで、間取りの調査が部分的にしか出来ていない(していない)ときでも、図面の描きかけ感が薄まる。
9、カラーコピーを取る
だいたい4枚、適切な濃度を見つけてカラーコピーを取る。事前申請書、控え2部、お客さん用である。
大事なのは、9、でコピーを取ったもとのやつが第二原図になること。これはしっかり保管しておくと、追加の依頼があったときに、引き出し線などの赤を、フリクションのお尻側でゴシゴシ消してそこから描き足せるので、次の手間がたいそう省ける。
10、まとめる
それぞれの書類に混ぜ込んで出来上がり。
この方法で、何とか過不足ない情報量かつ、役所やお客さんに見せてもそれなりにハッタリの効く図面が描けるようになってきた。ちなみにこれ、事務所に戻ってからの作成時間は5分くらいで済むのである。
ポイントは調査の時に慌てず、しっかり原画を描くこと、そしてフリクションボールは0.38mmでなく0.5mmを使う方が、ほどほど太い線でかっこよく見えることか。
でも説明を書くには細い線のものも有効なので、2種類あるといいかもしれない。
でも、どこかの市町村(保険者)にてCADで図面起こせ、って指定があった時は、なんでやねんとツッコミたくなった。法的根拠とは。
が、そんな不条理なこともあるので、そこそこCADで描ける程度の能力だけは残しておきたいところ。
なので、たまに友人の設計者より図面の手伝いなどを請け負うと、肥満の身体でフルマラソンを走るかのようで、締め切りに追われて辛い。でも技術は錆びさせてしまうと使えなくなるので、そこは頑張りたいと思っている。
なお相見積案件で、お宅は図面手描きだったけど他社さんのはCADで綺麗だったから、という理由で負けたりもする。しました。世の中はときどき、世知辛い。
そんなときは、図面の綺麗さが計画の質や施工レベルを保証するわけじゃないのだ、と負け惜しみをチラッとひとりごとにして、また次の利用者さんに向かって立ち上がるのである。