車いすと歩行器の境界線 ~福祉用具の隠し技④
介護保険の仕組み上、福祉用具の貸与品にいろいろな制約があることは以前に書いた。
でも、どんな世界でもその境目にこそビジネスチャンスがあると考えるのは自然なことである。どっちの用途も、一つで賄いたい。よくありがちなニーズではあります。各社、それをどう攻めたのか、の歴史と現状の話です。
まずこちらを御覧ください。
一見おしゃれな車いす、なのだが、こちらすでに残念なことに廃盤品である。TAISコード00160 - 000133、軽量車いすAY18-38。ちなみにハンドリムなしの介助用もありました。車いすの雄、カワムラサイクル製である。2021年9月末に販売終了、お疲れさまでした。まだ中古品がディスカウントされて売っているみたいで、購入しての利用はできるかも。
これの特徴は3WAY、つまり車いす(自走)としての使い方がメインで、介助用車いす、そして歩行補助具としても使えるようにデザインされていたところであろうか。でも正直、バックサポートが身体に当たるので歩行器とは書きにくいのだけれども。実際に、介護保険制度では車いすに分類されていた。
狙いはわかる。要介護度が重め、でも回復期にある利用者さんで、歩行レベルが上がりそうな利用者さんに対して、歩いて散歩に出かけて、車いすで帰る、といった用途を想定していたはずである。
そして、その境界線を逆から攻めた製品が、こちらである。
カタログPDFのリンクはこちらに。
https://lappo.com/wordpress/wp-content/uploads/2022/12/202210NNP.pdf
neo NOPPO、カルバオン(株)製。介護保険では歩行器に分類されています。
カルバオンさん、旧社名をカナヤママシナリーというそうで、富山県黒部市の会社さんでした。本業はアルミ加工関連のようですね。
富山県、かつて黒部の開発により電力がお安くなったことで、アルミ産業が発展したのです。アルミは電気で精製するからね。ちなみにその原料のボーキサイトは赤土が究極に痩せて、アルミと鉄が残り風化したものだそうで。
それを電気分解して引っ張り出すのですね。
以上雑学。動画は自分用メモとして。あとで観よう。
ちなみに、以前の機種がNOPPO(乗っ歩)といい、2006年発売、2019年に新型に切り替わってます。
新型では前輪が大きくなってます。少し段差に強くなっている。
外出用の4輪歩行器は、段差乗り越えのために車輪大きめ、また疲労時に座れるように工夫されたものが多いのです。押しているときはカバン置きになるし。そしてこちらの製品はそれを一歩進めて、簡易フットサポートを付けているということですね。
このように、座面に座った状態で介助者が押せる。疲れて動けなくなるなど、介助のもとでの散歩のときの非常時に便利です。
また、パーキンソン特性のある方などは突進してしまうリスクがあるので、スローダウンブレーキも取付可能です。そのぶん操作が重くなるけどね。
福祉用具の担当さんと話していて、やはりこれが第一選択肢になる場面はあるとのことで、大手メーカーさんのように強力な営業力がないところから、18年のロングセラーになっているということは、こちらは現場のニーズに沿っているのでしょうね。
また、このニッチ狙いの福祉用具が、それぞれ生き延びられたかどうかの違いは、たぶん介護保険制度に引かれた境界線も関係している。
車いすは原則要介護2以上、歩行器は要支援1から借りられるという違いである。わかりやすいことに、その境目の上と下で、介護認定者の数がおおよそ半々になる。つまり、歩行器は(ADL想定は合わないことは置いておく)数の上では車いすの倍のユーザーを想定できるということになる。そりゃ有利だよね。
製品開発の際は、対象となる人が多いほうが競争において有利、なので制度の境界線の有利側を読め。当たり前の結論ではありますが、そういう事かもしれません。
さて、ここらへんで話をまとめようか、と思ってTAISコードの検索をしていたら、こんなものがHITしてしまった。
ヤバいやつ来た。という印象である。黒船かもしれない。
https://www.techno-aids.or.jp/PDFFile/02037000007_1.pdf
これのなにがヤバいか。自立性の高い方への電動車いすというだけでなく、歩行器として痒いところに手が届く、欲しい機能が賄われていることと、TAISコードにおける歩行器分類にすでに登録されているところ。
つまり介護保険法における福祉用具の境界線の、より広く届く側にすでにアクセスしてきているということである。
現状、テクノエイド協会は電動車いすとして貸与の対象、という対応としているが、歩行器としても使えてしまうのなら、いわゆる介護ロボット政策で開発された、こういったセンサーや電動アシスト制御のある製品との境目が曖昧になっているはずだ。
ちなみにこちらは歩行器としての福祉用具貸与対象品である。モーター組み込みに見えない赤い後輪がお洒落。
さて、こういう製品がメジャーになる時代はすぐそこにある。そのとき、国産介護ロボット開発をあれだけ推した国は、台湾製のヤバいヤツに対して、どういうリアクションをしていくのでしょうね。生暖かく眺めていこうと思います。
というわけで、いま現在もこの境目は激戦地なのだな、ということを改めて学ぶ機会になりました。記事って書いてみるものですね。