いったい建築士ってなんぞや 〜ケアマネと建築士の相似性 ・前編
※この記事は壮大な前フリです。
「ケアマネージャーは、介護における建築士の仕事である」
という説明がかつて使われていたこと、ご存知の方はいるだろうか。
自分の話で恐縮だが、2000年に介護保険が始まる少し前から、看護師であった母は介護福祉養成校の教員になっていた。
なので、建築設計や施工管理(いわゆる現場監督ですね)という、畑違いの分野にいた自分にもそちらの情報が入りやすかったということもあり、介護保険という仕組みについてちょっと興味が持てた。
だから、ケアマネージャーという新しい職種についても、割にリアルタイムに知ることなになった。その時に使われていた、その職能の説明が冒頭のフレーズだったのである。
ただ、建築士がいったいなんの仕事をする人か、世の中の皆様にちゃんと知られているかは心許ない。実際に知る立場からすると、上の例えはじつは適切でなかったということもちょっと感じるし。
法的な独占業務としては、一定の建築物の設計と工事監理(管理ではない、ここ重要)なのだが、それでもまだ漠然としているので、解説が必要だと思う。だが、自分に真面目で正確な解説は望まれていない自覚はある。
なのでここでは、それを「プラモデルづくり」に例えたい。
1、箱絵作成
まず、格好の良い箱絵を描く、これは誰でもできる。なので、これの担当は建築家でも建築デザイナーでも良し、好きに呼んで呼ばれて良い。この仕事は設計ではないのだ、法的には。なので、有名な建築家の事務所でも、ボスが一級建築士でないことは稀によくある。
でも、ここでお客さんの欲しいものが描かれていないと、仕事にならないのです。とても大切、かつ差別化が必要なところです。なのでお客さんの話を聞きながら、絵をブラッシュアップできることも大事ですね。
2、縮尺図作成
次に、寸法のしっかり入りうる、縮尺に沿った姿図。立面図とか諸々です。
絵が図になりました。ここからは設計図書作成で、建築士の独占業務。これは基本設計と呼ばれ、作り上げたいものの仕様や形を表現したものなので設計になる。また、ここで確認申請など、許認可のための図面がつくられるが、これらも基本設計図がベースになる。そして確認申請等の許認可に使う図面全てに、以前は設計に責任を負う建築士の記名押印が必要だったので、ハンコ押しが超面倒臭かった。だが河野太郎の思いつきが、その苦行から建築士事務所の所員を数年前に解放したらしい。目出度い。
3、組立マニュアル作成
だが、これだけでは建物は建たない。プラモデルなら、まず組み立て説明書を見るはずだ。最近のあれ、凄い懇切丁寧で、わかりやすいですよね。
それをつくる仕事が、実施設計。超苦行。だがここに建築士の職能が詰まっている、と個人的には思う。生産物が、いわゆる設計図という感じになるのはここからである。紙図面のときはここから縮尺が大きくなっていったが、今はCADでつくるので脳内は常に1/1の原寸図になる。いまの設計職の皆さん、スケール感ってどう鍛えているんだろう。
4、部品(ランナー)製作図作成
そもそも、これって量産品ではないのだから、箱の中に納まるパーツをつくるための図面だって必要だろう。じつはそれも実施設計。模型製作でいうと実は既製品の組み立てでなく、部品をイチから外注で作らせる、スクラッチの仕事なのでした。準量産品はハウスメーカー等の戸建住宅ですね。
ちなみに部品まで自力でつくるひとは、大工の棟梁さんですね。そういう役割の方のための、木造建築士という資格もあります。極稀に鉄筋コンクリート造を自力でつくっているような人もいますが、高知のコレは違法建築。独学で建築を学ぶ、って本来こういうことだよな。
脱線しました。
ゼネコンや大手の設計屋さんなどは、この辺の作業を、すべてモノと対照できるように3次元モデルとしてデータ化しています。これをBuilding Information Modeling(ビルディング インフォメーション モデリング)、略してBIMと呼ぶそうな。これ、次の段階と密接に関わってきます。
ここからすかさず第2ラウンドです。まだ設計も終わってない。
この実施図面をもとに、仕事をやってもいいよ、という施工会社を探して、見積の依頼をかけます。なんとこのプラモデル、他所に部品の組み立てをお願いする必要があったのでした。
基本的に、大工の棟梁さん以外は、設計は施工と分離して責任を明確にしましょう、というのがいまの建設関連の制度設計である。総合建設業(ゼネコン)の皆さんなどは設計部も持っているのだが、あくまで別部署です。
で、この膨大な実施設計図を読み込んで金額を入れる作業、失神しそうになりますよね。ここに施工会社の真髄があるのでしょうね。
で、施工会社よりぶ厚い見積書が出てきましたよ。今はペーパーレスの時代だから、PDFファイルかな?
5、製作外注先との交渉
ここで、予算との戦いが発生します。必ずお客さんの想定を超えてくる。なので、施工業者さんと見積を突き合わせながら、減額できる要素を拾い出して変更案をつくる。お客さんにそれを適宜伝えて、譲れないところや予算的に増やせるラインも確認しつつ調整です。
めでたく落とし所が見つかったら、それで実施設計図、場合によっては基本設計図も修正、確認申請などの許認可がすでにでている場合はそれらも修正が必要になるはず。失神しそうになりますが、ここが踏ん張りどころです。それらのハードルをクリアすると、ほぼ設計は一段落、です。
で、まだ半分残ってます。監理の話が。
工事監理とは、設計図書通りにちゃんと建物ができているか確認することです。つまり、建設会社が勝手にアレンジしたりしないための仕事、ということになります。だが現実は厳しい。そんな完璧な設計図書など、どこの宇宙に存在するのであろうか。
6、製作部門との技術的調整と仕上がり具合の確認、ダメ出し
頑張って見積が調整されて工事の契約がお客さんと建設会社の間で結ばれます。でも、工事が始まり、建設会社の各業種にその図面が回ると、
「こんなんどうすんの?!」
の嵐が質疑書になって戻ってきます。なので詳細図をつくったり、建設会社がつくる、施工図と呼ばれる製作図を承認したりして、毎週の定例会議などでそれに誠実にお答えします。これ、現場始まってから当分つづきます。
この齟齬、本来は実施設計でちゃんと潰されているという建前なんですけどね。
この段階の、細かい苦闘は省略。話が終わらなくなります。
そしてめでたく3次元の完成品が出来上がる。お疲れ様でした。めでたしめでたし。
とはならず、だいたいしばらくは初期トラブルなどの対応に追われがち。頑張りましょう。
さて、ここまで書いてきて、ケアマネの仕事が建築士と同じ、と思えただろうか。こんな回りくどいことしてませんよね。
実は、ケアマネの仕事は、もっと現場に近い。ケアプランに入れる事業所さん、ちゃんと顔が見える関係ですよね。棟梁もそうです。各社へのお金のお支払も、介護保険という制度を挟んでいますが、間接的にまとめてますよね。棟梁もそうです。
なので、
「ケアマネージャーは、介護における大工の棟梁である」
くらいが妥当なのではないかな、と思うのであります。建築士に例えるなら、木造建築士ですね。例えてもナニソレ、になって通じないだろうけど。
さて、これがなんの前フリかというと、資格の更新の話につなぐのです。
以下次号。
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