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ウッドデッキ×物干し=介護保険? ~「自立した日常生活」に必要な段差解消


「ウッドデッキをつくりたいのだけど」

介護保険を使った住宅改修の調査にお伺いしたときに、そんな利用者さんからの要望をいただいたとき、こちらは笑顔を保ちつつ、実はちょっと身構えている。

介護保険をつかって行う住宅改修は、給付対象になる内容がそもそも限定されている。手すりの取り付け、段差の解消、床材の変更、扉の取り替え、便器の取り替え、それらに伴う付帯工事。

ウッドデッキ、場合によっては段差解消になるのである。しかし。

以前もいくつか記事にしたが、介護保険では「要介護状態等の軽減又は悪化の防止」に資する、「その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができる」のための住宅改修に対して、支給限度額20万円までの給付が受けられる(自己負担分がそこから差し引かれるが)。


さて、そのウッドデッキ、何に使うのか。そこがポイントになる。

トップ画像のような、昼下がりにのんびりお茶でも、という雰囲気のウッドデッキ、果たして住宅改修費の対象になりうるのだろうか。


ひとまず、こちらでお世話になっている自治体(保険者)の資料を見てみる。

介護保険で行う住宅改修は、日常生活動作(入浴や外出など)を助けることで安全性の向上や介護者の負担軽減を図ることを目的としており、生活する上で現に必要な改修と認められるもののみが対象となります。
趣味や仕事等、本人の生きがいや生活を充実させるための改修や、リハビリ、リフォームを目的とした改修については、対象とはなりません。

https://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/kaigo-j/kenko/fukushi/kaigohoken/jigyosha/documents/2023kaigohokenjutakukaisyunotebiki.pdf


ちなみにこのさじ加減、保険者によって違いがあるはずです。ウチで行った改修でも、こっちの市だと通っちゃった、こっちだと行政を説得困難、みたいなことはやっぱりあります。
これを読む限り、豊かなティータイムのため、は論外。さてどうする。


でも、自立した日常生活に必須の動作を行うことに資する、と理由が書ける用途がないわけではありません。それは洗濯物干し。

あくまで、現況の困難状況に対して給付が受けられる形になるので、現在の物干しの位置とそのための動作に、何らかの問題が発生している場合、しっかりと介護保険法の趣旨に沿った改修になりうるわけですね。




いくつか事例を見てみましょう。まずはこちら。

よくありがちな掃き出し窓と縁台です

寝室の掃き出し窓から、縁台を経て建物の裏に回り込んで物干しを行っていた事例。娘さんは同居でしたが、就労しているため洗濯機を回せても、物干しまでは対応できず、お母さまである利用者さんが干しています。
まず縁台の昇降が怪しくなってきたので、最低限として扉枠に縦手すり、あと実費で高さ150mmのコンクリートブロック×2をおいて様子見。でも、洗濯物を持って出入りして、昇降することが体力的に厳しくなってきていたので、この動線そのものを利用し続けることが難しい。

なので、小手先対応で終わらず、こうなりました。

掃き出し窓レベルからほぼ平坦に

1畳に満たない広さの、1階床レベルとほぼ揃えたウッドデッキ、そこに立った状態で物干しができるように金物を2階バルコニーから吊っています
(物干し金物は自費での対応になります)。
また奥の方の既存物干し側に、先に買ってきたコンクリートブロックを据えて、昇降する場合の階段にしています。資源は無駄なく再利用。




こんなのもありました。

チャレンジングすぎる物干し台

「oh…」という、全国18万人のケアマネのつぶやきが聞こえてきそうな、そんな物干し台を自ら作られて、がんばって暮らしているケース。ビールケースだけに乗ると微妙にフラフラします。

市役所に相談したところ、この市はウッドデッキはダメよ、の一律対応だったため、1階床と同じ高さでは対象外になってしまうとのこと。


それならば。

これはあくまで踏み台です、とても大きい踏み台

「では、大きな段差を割る形で、中間の高さに台があるのはOKですよね」
「その広さ、利用者さんの生活動作に沿って決めていいですよね」

みたいな理路で説得し、このように安定した形のデッキを。この途中に立てば、物干し棒にハンガー類が掛けられます。
ただ、独歩だと手すりなしでは危ないのも事実。そこで、ある程度の広さがあることが効いてくる。手すりが必要になったときは、レンタル用の外部手すりを置けばいい、という割り切りです。




ラスボス級のやつも。

手前の鉄棒に注目

昭和初期の古い木造住宅、90代高齢の女性の独居。柱に手をかけ、縁側から身を乗り出して、物干しハンガーを軒下の針金に引っ掛けております。さらに、布団は手前の鉄棒状のところにて干しているとのこと。ブロック3段積みの踏み台を使われているけど、これ高さ30cmですからね。
離れて住むご家族も、実態を知ってなんとかならないか、とのご要望。

このケース、市役所と結構揉みました。どこが合法ラインになるか。

階段の踊り場、ということにしています

注目したのは、手前側の丸くなった大きな沓石。それ、もともとは階段と解釈できるな、と。なので、
現状の布団干し等のためにはここからの昇降が必要、そこに降り立つための上の1段目をつくります、そのための手すりもつくります、それで動作の安全を図ります。これでなんとか介護保険の給付対象になりました。

でも、手すり名目のデッキの柵の高さは、庭の鉄棒と合わせております。つまりここで布団は、干そうと思えば干せる。また、新たな階段の上段に立ち止まって、今まで通り、軒下に物干しハンガーを掛けられる。

結果的に、今までの物干し動作が、転落リスクを減らしてできるように考えてあります。庭に降りずとも。


なんだか回りくどい話をいっぱい書いておりますが、常々そのように粘っこく役所とやり取りをして、介護保険を使ったこういった物干しのためのウッドデッキ状の段差解消仕事もしております。


ちなみに優雅なトップ画像も実は介護保険を使っております。お若い共働きの利用者さんが、脳梗塞を罹患して片麻痺になり、パートナーが就労中に在宅での家事を担うことになりました。
なのでバルコニーを平坦にして(先端の柵の高さが1100mm以上確保できることを確認したうえで)そこにハンガー掛けをおいて、段差無しでそこまで干しに行くために必須だったのですね。

利用者さんのADL、家族を含めた生活の実態、それらをきちんと読み込めていると、こういった物干しを楽にするための工事も介護保険で対応できる、かもね?

という本日のお話でした。

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