、
ここまでユニバーサルデザインの申し子のような、推しの椅子の話を書いてきた。
だが、このVELAのノーマルタイプ(手動昇降型)は、なぜか介護保険の給付対象ではない。
20年前にこの椅子に出会ったとき、10年前に確認したときもそうで、さすがに最近は給付した事例もあるかも、と思って、販売代理店のアビリティーズさんに確認したら、状況は全く変わっていなかった。
ただし、以前からただひとつの例外がある。電動昇降機能付きタイプである。
これは現在までずっと介護保険で使えることになっている。なぜか。
これは、介護保険の貸与品目における、「移動用リフト」の扱いなのだ。
以下定義。
例えばベッドから乗り移りの時は座面低め、キッチンの流しを使うときには座面を上げる、確かにリフトである。
先に書いた、充実したユニバーサルな椅子機能を全く無視した上で、電動で座面高さが変わりキャスターで移動できる、その1点で介護保険法の壁を突破している。
蛇の道は蛇、そんなフレーズが思い浮かぶ解決法である。
こちらの利用者さんでも、実際に高さ調整が生活上必要な方にこの椅子をお勧めし、代理店であるアビリティーズ社に繋いで継続利用していただいている。
レンタルであれば、バッテリーの劣化などもカバーされるので、メンテナンス面でのメリットもあるのだ。
ちなみに、こちらが最新鋭タイプとのこと。
でも、なぜ介護保険でユニバーサルデザインの椅子を全面的に使えないのか?という問題は残ったままである。
そこで法的根拠を漁ってみる。親切にも、厚労省が自らまとめを作っているので便利。
福祉用具に関する法令上の規程について
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12301000-Roukenkyoku-Soumuka/1109-s1.pdf
まず、介護保険法は、むしろそれを許容しているように読める。
自立支援の道具であるこの椅子ならこの定義はクリアだろう、ではどこに壁があるのか?
たぶん後半の太字のところだ。それは具体的にどうなっているのか。
大臣告示、というやつである。
まずはここで、3種の車いすに限定して貸与することができる、という枠組みが決まっている。
決めているのは厚労大臣ということになっている。専門家会議で実際は揉んでいるが。
さて、この告示文では、「車いすとは何か」問題が持ち上がる。要はその定義にVELAのワークチェアが含まれれば、介護保険で借りることが可能になるはず。そこを定めているのが、告示に関する解釈通知である。
めんどくさそうな言葉の定義がきた。JIS規格である。仕方なくたどる。その内容を、概略が載っているサイトから引用する。
ここは自分用メモを兼ねているので、長いので読み飛ばしてください><
太字が介護保険の対象となるようだ。
VELAの手動昇降タイプがこの中に分類される可能性があるとしたら、自走用特殊型、介助用室内型、介助用特殊型のどれかとなる。ただし、「駆動」がハンドリムの操作に限定されるのであれば、自走用の車いすにはハンドリムのないVELAの椅子は該当しない。だが、介助用室内型・特殊型は介護保険の解釈通知から漏れている。
どうやらこの辺が、VELAチェアが福祉用具貸与で使えない理由だと思われる。口惜しい。
厚労省(介護保険)と経産省(JIS規格)の連携プレイである。
だがしかし。
この4輪の「椅子」は介護保険の給付対象である。自在4輪、背もたれと肘掛けがあり、介助用ブレーキもある。VERAのものと本質的に何が違うのか。
これ、「入浴用いす」なのである。ベッドから浴室まで移動し、濡れてもOKのやつ。つまり介護保険法では特定福祉用具の「入浴補助用具」となる。
こちらの解釈通知はこれ。
これだけかい!とツッコミを入れたくなる。仮に座面35cm以下のものでも、概ね、と書いてあるので逃げ道まである。そしてこちらは、JISを引用していない。なのでいろいろな形態のものが給付の対象になっている。
大臣告示以下の法令のアヤで、車いすに分類されたものとそれ以外は、ここまで結果が分かれてしまうのである。そして、その隙間を調整する動きは見えない。
でも、ユニバーサルなワークチェアを使える利用者さんが、座面のみでのターンができないなど使い方に制約の多い、既存の車いすしか給付が受けられないというのは、ユニバーサルデザインの理念に逆行しまくりである。
障害者向けに作られたトイレを見て、その疎外性からユニバーサルデザインの着想を得た、車いすユーザーのデザイナーでUDの父、ロナルド・メイスもたぶん同じことを言うだろう。
なので、先の大臣告示を、
くらいに修正し、せめて糊しろを追加してほしい。先の「概ね」という単語と同様に。
ユニバーサルデザインに沿った用具がぎちぎちの枠組みで門前払いにならないような、法令の整備をお願いしたいところである。大臣告示なんだから国会での法改正は不要だし。
そうでないと、ユニバーサルデザインで世界で勝負できるイノベーティブな車いすが日本から出てきても、これでは国内で潰されてしまうよな、と思うのです。
何が介護ロボット推進だおい。
たとえば。
WHILL モデルF。介護保険で使えない、軽量折りたたみ式の電動車いすである。
この、ワンタッチで畳んで車の後席の足元に積める電動車いすが、どれだけ歩行困難者の行動範囲を広げることだろうか。
だがメーカーさんに確認したら、TAISコードという、介護保険レンタルに必須の番号を取っていないし、貸与品にする予定もないそうな。
(C2という、これより高性能の機種がレンタル対応しているから、かもしれないけれど)
もっとも、こちらの会社はハナから国内だけでは事業が成り立たないと見切り、海外目線でやっていらっしゃいますので、それほど困っていないのかもしれない。
でも、国内でこれを使いにくいのは勿体無いし、なんかヘン。
WHILLのことはまたどこかで書きます。この項、ここまで。
※2024.5.24追記
けっこう頑張って書きました。