手すりが避雷設備になる?! ~関西万博のリングの雷対策について
以前から生暖かくウォッチしている関西万博関連のニュースで、手すり屋として見逃せないネタが落ちてきました。
こっちの画像の輪っかではない、大屋根の輪っかの方の話題です。
雷予報で立ち入り不可。さもありなん。
ちなみにこの建物の高さは?とチェックすると、上の大林組のリリースによれば、最高高さは24.7mあるそうなので、下の法律に引っかかる。
(大部分は制限のかかる20mより低いようだけれども、周囲にそれより高い建物がないので、安全上なにかしらが必要になりますね)
つまり、避雷設備というのは、「雷撃によつて生ずる電流を建築物に被害を及ぼすことなく安全に地中に流す」ためのものです。
建築物が、雷が直撃して燃え上がるようなことがあってはなりませんからね。
そして、先程の記事の中にこんなくだりが。
手すりにこんな利用法があったとは。驚きである。
常識的には、人が触れていたら落雷時にはもれなく通電するので、そんな使い方はしないと思うのだが、逆転の発想である。素人ではこの発想は出てこない。
ちなみに以前の記事で、自分はこう書いたのだが、
流石にここは画像がほしいので、読売新聞さんの記事から引用。
ちなみに手前側の黄色いロープは仮設のやつです。
この素っ気ない手すり、むしろ触れてはいけない電撃手すりでした。手すりの定義とはいったい・・・。
まあ、転落防止サイン、くらいの役割なのでしょうね。なのであんなデザインで良しとされた。完成時には手前側に植え込みができて、人は近づけなくなるのでしょう。腑に落ちました。
さて、避雷設備も、自分が設計事務所で仕事をしていた、はるか過去の基準(保護角法)からブラッシュアップされておりました。こういうツッコミ記事を書くと、自分の勉強になってしまうのがいいところです。
建物の側面の屋根角に、水平導体を仕込んでおくと、こういった形で周囲に保護部分を設定できる。そして頂部は図のように突針をつけて保護区域を設定するのがセオリーのようですが、それが難しい場合(たぶんこの大屋根ではデザインとして難しいはず)、メッシュ法というやり方で、決まった間隔で導体をその屋上部分にメッシュ状に配置することでクリアできる、らしい。
さて、これでこの大屋根は落雷の被害から守られる。手すりを利用した水平導体と、その他の避雷設備のおかげです。
でも、ここまでお読みの皆様はお気づきであろうと思う。
建築基準法の避雷設備、その屋根の上にいる人間の安全のことなどハナから考慮しておりませぬ。というより、そんな危険なことは論外である、という扱いでしょうね。
で、自分が気になったのがこれ。
この大屋根のデザイナーさんいわく。
そして、トップ記事にあった運営側の対応とは、これ。
「ご安心ください」
建築家が社会からどんどん乖離していく理由は、こういう言葉の意味をずらし、ないがしろにする不誠実な態度が一因だと思うのです。
天候急変時、この屋根の上にいる来場者の皆さんの安全の話とは無関係の「ご安心ください」、その意味をここからどれだけの人が読み取れるだろうか。
正直、この仮設の輪っかは機能的な煮詰めが足りないまま、デザイナーの妄想を誰もストップできず、暴走した結果として出来上がったものだと思います。ま、発注者の無知が決定的に悪いのですが。
そして、以前はそういった問題を指摘する人がそれぞれの組織にも、いたんじゃないでしょうか。でも、組織がおかしくなると、そういううるさ型の人は櫛の歯が抜けるようにいなくなる。そしてアホな企画が走り続け、暴走していく。この万博のいまの有り様は、そのような今のこの国の状況を的確に表現しているように思えてなりません。
幸いなことに、この大屋根は1年3ヶ月後には解体され、なかったことになります。自分はこの施設が残らないことについては賛成ですが(耐久性を考えたら、無塗装の集成材は悲しいことになります)、こういった手すりにまつわる驚きの事件が教訓として忘れられるのはもったいない、ということで、手すり屋として記事に残してみましたよ。