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「右脳でリサーチを考えることは必要ない」

前回の投稿からちょっと時間が経ってしまいました。
この期間に開催させていただいたセミナー報告も併せて、今回のnoteでは『右脳刺激から「考える」アプローチ』について考えてみたいと思います。

セミナー振返り

先週末、「右脳から考える」ことをテーマに、日本マーケティング・リサーチ協会でセミナー登壇させていただきました。リサーチ職務の方やメーカーで活躍される現場マーケターの方々との対話形式(リモート参加含めて)での時間は、参加いただい方の協力もあって活発なディスカッションとなりありがたく思っています。

その中でも一番、私が興味深い質問をいただいたのは、今回noteのタイトルにも使わせていただいたある某リサーチ会社の社長からの問いかけでした。まさに私の師である野中郁次郎先生の「知的コンバット」という時間を持つことができたのですから、こんな嬉しいことはありません。実はこういう場合に質問内容も当然大切なのですが、このお互いに意見を吐き出すという行為こそ意味があるのです。

「右脳でリサーチを考えることなど必要ないではないか」
「リサーチというかマーケティングにおいて、クライアント相手にいくつかの提案を行い反応をみることについて疑問がある」

今回のセミナーで私がお伝えしたかったことは、決して右脳へ偏重しましょうということではなく「右脳と左脳の連動(行き交い)が”知のイノベーション”に繋がり、リサーチ方法も変わる」ということでした。当然、これまでの左脳に代表されるようなロジカルシンキングを捨てろという意味ではありません。ここを是非理解してもらいたいと思ったのです。

「センスメイキング理論」視点から

私がこの場で何度もお伝えしている「センスメイキング理論」において、知覚することや感知する力というのは、単に熱いとか冷たいとかの「感覚」(sense)のことではありません。右脳による「知覚」(perception)とは、対象の意味を理解することを意味します。

ご存知の通り「情報から作る」意味は、人それぞれ違いますよね。
組織心理学者のカールワイクの「センスメイキング理論」は、外界の意味を「感じ取り」(Sense)、その中から固有の「意味」(Sense)を作り出す行動モデルであると解釈しています。つまり自分ごとで考えることにおいて、知覚力、感知力が極めて重要だということです。

裏テーマとして

さて、私が今回のセミナーでリサーチャーの方にお伝えしたかったことをもう少しだけ補足してみます。いわゆる私が設定していた裏テーマです。

①なぜ日本の労働生産性や投資が低水準で、成長率がこの20年伸び悩んででいるのか。
②日本において「知のイノベーション」が生まれない要因が、組織の縦割り構造で、かつ過剰なるコンプライアンス重視であることへの懸念。
③何故 DXや、CXがうまくいかないかの根本要因とはなんなのか。

例えば、③のDXの” X”(トランスフォーメーション/変容)に関して、ご相談がきた場合に私はあえて遠回りと思われることを覚悟でご担当の方に「未来をどのように創造したいか」というところまで一旦戻ることをお勧めし、提案しています。
理由としては、何よりも「自分ごと」にしてもらいたいということがスタートであると思うからです。ビジョンやミッションというと企業の経営層や経営企画室が作成しているケースがありますが、大切なのは”自分がそこに腹落ちして取り組めているか”ということだと思います。

「自分達は、何の為に存在するのか」
「自分達が本当に達成したいものは何か」
と自問自答する目的構造分析をすると、 “X”つまり変容すべきことがだんだんと明確になってくることでしょう。

また、リサーチ業界が関与すると見做されていたエリアはどんどんと拡大しています。もしかしたら関与する部署が一番広いのでは?と私は感じたりしています。だからこそ率先して右脳を使ってもらいたいな、と。

“イノベーション”は、実は現在の”ゆらぎ”から出発するのものです。とはいえ、これまでのリサーチだと、まずは集団を捉えることから始まっています。なのでこの小さな動きに反応ができません。故に、n=1にフォーカスするエスノグラフィーといったエクストリーム(辺境者)手法にも視点を持ってほしいなと思うのです。
n=1からn=∞にスケールさせる為に、個々の現場の「ゆらぎ」を「つなぎ」へ、そして、全社の業務プロセスそのものを「ずらす」ことが、必要になってきます。これが今、日系・外資系問わず異業種クライアントの方たちと向き合いで感じてきたお伝えしたリサーチ方法での変化です。

まとめの代わりに

皆さんは「b8ta(https://b8ta.jp/)」という企業をご存知ですか?

11月15日に、私のオフィスがある渋谷にオープンした「体験価値の場として食品」を中心に展開している企業です。とても素晴らしいコンセプトであると視察に行ってみたのですが私が見る限り、残念ながら今の段階ではプロトタイプをチェックしているリサーチ方法はしていないのかもと感じました(もし違うぞー!!という視点をお持ちの方は教えてください)。まだこれからなのでしょうか。
また、C Xなどでカスタマージャーニーの評価で、NPS指標を使っているSAAS企業でも、見える化しているリサーチ方法は、従来型のロジカルシンキングを活用しているように見受けられます。もしかしたらここら辺に次なるチャンスがあるかもしれません。

参考情報

最後になりますが、最近気になった右脳開発鍛錬によいと思う展示会についてご紹介しておきます。

民藝の100年@東京国立近代美術館:「ローカルであり、モダンである」

柳宗悦は、美の本質に迫る為には、思想や嗜好や慣習を介在させずに「直下に」(じきげに)物を観ることが大切であると説いています。日本の民藝の基礎を作ったセンスメイキング理論の実践者だと、私は考えます。

②「見て 嗅いで 驚き発掘」大英博物館ミイラ展:エジプト猫のミイラのにおいの再現

参考)「開高健さんは、嗅覚の作家である。長編小説「輝ける闇」では、「匂いの中に本質がある」と書いています。嗅覚は五感の中で最も記憶の奥底に残ります。」(楠木建一橋ビジネススクール教授)

(完)