源氏物語に対する予定調和から脱却することで「光る君へ」のコンセプトが作られたのでは
【はじめに】
前回は「現代におけるリーダーシップとは何でしょうか?」
という視点から、地位や役職ではなく、【相互主観の場作り能力】と、【物語力】と結論付けてみました。
リーダーシップとそれに適した企業などの組織の在り方がテーマでした。
今回は、リーダーシップや組織のその体制での重要なる目的に当たる新しい知を生み出すこと、言い換えれば、独創的コンセプトを生み出すにはどうしたらよいのかを考えてみます。
このnoteでは、コンセプトに関してはすでに過去何回か書いてきました。
従来のロジカル思考におけるコンセプトワークが、効率化を重視してなかなかイノベーションを生み出しにくく、同じようなコンセプトしか生み出さないことを経験した方は多いのではないでしょうか!
ワークフレームが、当たり前の事実の列挙からの組み合わせだけでは、ありきたりすぎて、顧客には感動を持って伝わらない。
どうしたら、"ストーリーメイキング" "物語り力"が、顧客に伝わる、共感する、共鳴するコンセプトになり得るかを考えてみたいと思います。
キーワードは、「予定調和からの脱却」
まず"違和感"を抱くことです。
今回は、違和感を引き起こすストーリーメイキング術として、螺旋翻訳術、異なる文化で昇華する、集合知により昇華させる、などの事例を取り上げてみます。
1.コンセプトの本質とは、新しい観点の変更
今更ですが、コンセプトの本質とは何でしょうか!
仮に従来型のリサーチをしても、そして既存データを分析して積み重ねても、イノベーティブで独創的なコンセプトへと昇華するのは大変だということがよくあります。
顧客が共感しない、感動しない、伝わらないケースは、数多くあるのではないでしょうか。
マーケティング部、R&D開発、販売セクションと横断的な合同プロジェクトをしていて、顧客が発言した言葉がわかっても腹落ちしないことを体験したことはありませんか!
顧客が発言したその言葉の背後にある、例えば、言葉になる前の漠然としたイメージの状態(左脳で形式知になる前の段階)からその想いを共有化することが今重視されています。
本来、コンセプトとは、言葉になった事実だけではなく、事実をベースとしながら、【真実】として、目に見えない・形にならない【暗黙知】が重視されています。(知識全体で、言葉や形で、目に見える形式知は約20%で、茫漠として言葉になる前のイメージ、目に見えない暗黙知は約80%)
それがインサイトを理解したり、深みのある考え方で、共感や共鳴に繋がると言われます。
コンセプトとは、従来にない【新しい思考形式】を生み出す作業と言われます。
商品コンセプトから事業コンセプト、戦略コンセプト、更にはビジョンに至るまで、私達は、新しく【独創的なコンセプト】を生み出すことを重視しています。
コンセプトの定義を、
・私達に【新しい観点の変化】を引き起こすこと
・【物事の本質を掴み取る】ことのできるような観点
としたら、どのようにして、独創的なコンセプトは創造できるのでしょうか!
事実を見つけるだけなら、イイね!マークが付くくらいで、それほどの感動なく、客観的でおそらく大脳皮質で面白いと認識するくらいでしょう。
感動するのは、大脳辺縁系の血流が動いて情感に繋がる。大脳辺縁系 感情、右脳まで刺激されて、【共感から共鳴】領域、いわば自分が溶けて、相手と一体になるくらいのところに行き着くということでしょう。
感性と理性、主体と客体との間を相互に考え合わせる。
一回形式知になったものを対話を繰り返しながら、暗黙知に変換して、再度形式知に再変換する。
その繰り返しのプロセスの中から様々な知と対話することで、新しい観点が生まれる事例を見てみましょう。
2.「光る君へ」のコンセプト創造は、【集合的作業】による脚本と時代考証との激しい知的コンバット
現在のNHK大河ドラマ「光る君へ」を作る作品コンセプトと物語りを例にとってみましょう。
この作品は、紫式部が"源氏物語"を創作するまでの背景が、とても丁寧に描かれています。
通常、脚本家が核になって、演出家により、時代考証などを経て、キャスティングされ、役者により演じられるものでしょう。
しかし、今回の"光る君へ"は、平安時代が舞台であり、歴史的資料が、通常の戦国時代や江戸時代に比べても少ない。
脚本家は、歴史学者や民俗学者と対話して、疑問に感じていることを解読し、作成する領域が極めて多かったと思います。
今回、注目されたのは、源氏物語が平安時代に書かれた"動機"です。
我々が昔教科書で学んだ、「紫式部の亭主 藤原宣孝の死後に、その悲しみで、物語を書くに至る。その物語の人気を利用して、道長が、自分の娘の中宮彰子を一条天皇に近づける」というプロセスではなく、
当時貴重なる"紙"という存在が、物語にはkeyで、それを当時の権力者左大臣道長だからこそ用意できたことによって、源氏物語54帖の長編が成立したこと。
したがって、紫式部と道長との接点、物語の書き始めの時期に関しては、宣孝の死の悲しみで、書くタイミングなど微妙な推察がされているようです。
さらに、この時代くらいから、漢字ではなく、紫式部が"ひらがな"の有効性を活用し(この平安時代初期は、漢字表記からひらがな表記への移行期間であったこと)
一条天皇はじめ、宮廷内の行動が、細やかに話し言葉で表現できているという視点です。
"紙"の存在を知ることと、"ひらがなの表現"であったことで、従来の我々が知る"源氏物語"のコンセプトに単に恋愛的要素以外に、藤原家内の権力闘争、光源氏を核にした女性との恋愛の在り方など・・・歴史学者の感じた"違和感"何故源氏物語が生まれたのか・・・を紐解くヒントがあるように感じます。
そのことで、厚みというか、様々の時代背景、人間模様、権力闘争、人間の心理、宮廷文化、などを鋭く描くことができたのではないでしょうか。
もちろん、大前提は、紫式部の類稀なる物語り能力があってのことでありますが。
同時代の清少納言の枕草子の中宮定子の美化した描き方と比べると、物語りに、人間の光と陰、人間の内面を描くことなどは、物語りの展開力として卓越している、感じます。
これらを8月28日のNHK歴史探偵で解明していました。
いずれにしても、再度この作品を見てみると、
・作 大石静
・音楽 冬野ユミ
・NHK交響楽団
・テーマ音楽指揮 広上淳一
・テーマハーブ朝川朋之
・テーマピアノ反田恭平
語り,タイトルバック、題字・書道指導、
時代考証,風俗考証、芸能行人,健康考証、
平安料理考証、所作指導,衣装デザイン,平安文学考証、殺陣指導,仏事指導、資料提供
と、かなりのバックアップ体制で、作 大石静を支えています。
しかも注目すべきは、歴史学者の御堂関白記など考証が、物語のストーリーを変えたり、よりリアルにしていることです。
原作があって、役者が演じるだけではなく、相互に作用して,コンセプトを作成していることが分かります。
物語りを進めながら、違和感を感じたゆえの【集合知的作業】と言えるのではないでしょうか。
3.A.ウェイリー版源氏物語による翻訳というプロセスでの魔法のストーリーメイキングとコンセプト創造の極意は、"螺旋訳"にある
1925年、語学の天才アーサーウェーリというイギリス人が源氏物語を英語に翻訳することで、源氏物語は,900年の月日を経て世界に広まっていきます。
英語にして、日本に逆輸入することで、分かりやすくなるだけでなく、キリスト教カトリックの世界観を考え合わせて、"源氏物語"の物語りがよく我々日本人に伝わってくることも不思議です。
現在、100分の名著で解説している能楽師安田登さんによれば、それは、
1.難解な敬語がなくなる
2.主語が明確化する
3.言葉がより分かりやすく置き換えられる
ということから起こること、ということです。
⭕️物語りは、翻訳など、異なる文化、他人の主観によって、昇華する。
ウェイリー版・源氏物語を能楽師安田登が解読すること自体が、やはり能をベースにして、源氏物語を昇華させていると考えられる。
言葉一つひとつには【体感知的要素】が感じられます。
能楽師安田登によると源氏物語のコンセプトと物語の関係は、能で言うならば、序、破、急の3分類の構成と説明されています。
⭕️英語で変換されたり、能の世界で分析されて、物語りは、より鮮明になるのです。
事実を全く異なるもの(文化、知識)によって変換し、昇華することで、物語りは更に進化する要素があるのではないでしょうか。
光源氏が神性を獲得する第一部(1桐壺から13明石、)
RPGゲームのように神の存在になるまでの物語りと、安田さんは解き明かします。
ーーーー 能楽師安田登の源氏物語の転換ーーー
【普通の青年から輝きのあるshinning princeは、一貴族として成長するのが導入部分】
この時期、源氏は、友人たちの軽々しくありきたりな安直な情事(女性との恋愛)には興味がなかった。
→可能性のない、ややこしい愛にのめり込む性格。
⭕️ここに、光る君の現状と
(折口信夫の解釈による恋とは乞うこと、心の底から何か足りないものを渇望するとコメント)
その女がわからなければ分からない程よいのが恋であると解釈。
源氏物語の恋のコンセプトを
①コンパッション②エンパシー③来し方行く末を見る力と安田さんの解釈ストーリーで、更に螺旋訳をしている。
ーーーストーリーメイキング螺旋訳ーーー
①空蝉(身分の低い後妻、人妻だからでなく、苦しみを共に感じる=コンパッション)に託していく。
②さらに門番の娘 末摘花を愛する源氏をコンパッション。
③謎めいた家を見つける、
夕顔にのめり込み、夕顔は、苦しみを顔にださない、
好奇心を押さえる
能動的に救済し、苦しむことをエンパシー(感情移入)
逆境の中で得たもの、
朧月夜と恋に落ち、須磨へ移る。【挫折】
夢に帝の桐壺が現れる。
明石に移る。朱雀の夢に桐壺が現れて、源氏が都に戻る。
さらに【来し方・行く末を見る力】で過去を考え、未来をみる
過去・現在・未來を源氏は、得る。
源氏は、恋を通じて、自分に欠けているものを手にする。
政治の基本は、愛であり、源氏がそれを手にする。
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「日曜日の初耳学」(TBS)で林先生と対談していた、米津玄師さんのお話、三谷幸喜さんのお話のなかでも、違和感を感じて、体感知から螺旋訳していく内容が語られていました。
こちらはまた別の機会に考察したいと思います。
【まとめとして】
最近、自分の身の周りにある気になるTV、雑誌、書籍、新聞、ネット、イベント、展示会を見直したり、自分が毎月実施しているセンスメイキング道場のテーマを考えてみています。
今こそ、コンセプトを考える、ストーリーメイキングを作るには、大きな時代の変曲点を感じたり、日本、日本人を、考え直す事が必要ではないかと思うのです。
紫式部、安田登、アーサーウェーリーには、一つのものに触発されて、次々に発想を広げていく、類推力と連想力をコンセプトを横展開しているから、
ダイナミックに面白いのでしょう。
先日8月12日で亡くなって知の巨人、松岡正剛は、日本の風土が変化に富み、壊れやすいこと(フラジャイル)にあることが背景にあると読み解きました。
デュアルモード、複眼的で、動態的に考える
一面でなく、対極概念を時間軸と空間軸に同時に考える
ことで、"日本流"(松岡正剛 ちくま学術文庫)を考えることになるのではないでしょうか。
シュンペーターがいうイノベーションに繋がる独創的なコンセプトがそこから生まれるのではないかと考えます。
最後までおよみいただきありがとうございました。
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