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データアナリストを育成する千野さんとの対談

タイトル画像:ベルクリンの弧(「音楽と生命」P138 坂本龍一 福岡伸一 集英社)

はじめに


何かを崩壊させることで新しいものを生み出す、前に進むこと。
発散ー収束ー再発散のプロセスは
動き続けている現象を見極めることにあるのではないでしょうか。

「流れこそが,生物の内部に必然的に発生するエントロピーを排出する機能を担っている。」という生物学者福岡伸一の考え方は、近代科学の分析的にアプローチではなく、
動き続けている現象を見極めることが大切であることを示唆しているのではないかと思います。

私は、この考えを知った時、ほとんどの企業が守りを中心として、崩す、壊す、崩壊することを蔑ろにしていることに新しいものイノベーションが生み出されない原因があるのではないかと考えてみたのです。

マーケティング戦略、新商品開発の考え方、戦略の思考方法、組織体制、人事体制、マーケティング体制、リサーチの方法などを崩すとまではいかなくても、変えようとしない企業には、新しいものは生み出せないのではないでしょうか!

そんな思いで、今回はデータサイエンティストを育成し続ける千野さんと対談しました。


マーケティングの現場で,データから読み解いて,新しい解決策を生み出す作業の指導をされていらっしゃる千野さんです。

(黒木)
今回は、統計学に精通されて、データサイエンティストを育成するセミナーの先生で、さまざまなクライアントのコンサルタント、教育事業に携わっていらっしゃるマーケティングバリューアップの千野社長においでいただきました。
客観的データ分析だけでなく、戦略化することにおいても、弊社は千野さんと対話を重ねて、新しい視点を生み出しております。
本日はよろしくお願いいたします。

(千野)
こちらこそ、よろしくお願いいたします。
それでは,自己紹介をさせていただきます。

私は、1987年に、システム開発を行なっている会社に入りました。
プログラム作成から入るはずが、分社化を目的にしたシステムプロジェクトに登用されました。
役員会議室で40代近いお客様と仕組みについての話を聞くことからスタートしました。
これは大変貴重な体験で,役に立ちました。

1991年に、(時代は,クライアントサーバーシステム出始め)マーケティング情報システム提案書、システム方式設計及びシステム概念立案、サーバー選定からクライアントサーバーのネットワーク構築/開発/運用・保守を担当しました。
今でいうシステムインテグレーションの仕事です。

当時は3社程度の運営をチームでしていました。
Windows3.1の出る前で、クライアントをMacとして、ネットワーク設定から、DB設定まで手探りで実施しました。

会社は,私をシステムインテグレーションとして期待したが、私自身は、
5年間のクライアント勉強会やマーケティング情報システムの経験を生かして、【データ分析〜意思決定支援】の仕事がしたいと考えて、10年目で退社。
現在IBMに吸収されたSP S Sのコンサルティングパートナーとマーケティングコンサルタントの仕事をしています。

(黒木)
千野さん、詳しくありがとうございます。
千野さんのバックグラウンドと現在のマーケティングを実践されている経緯がよく分かりました。

今回は、二つのテーマを用意いたしました。
①データから仮説を読み解くセミナーで考えられる課題
②センスメイキング理論とデータからの仮説作りの接点
です。

1.データとは、目的と活用方法と収集タイミングで意味が生まれる

(黒木)
千野さんのワークショップでは、終了前に、参加した方々がそれぞれのデータを持参して、対応方法・ソリューションを具体的に考えるという作業をされていらっしゃるとお伺いいたしました。
ところが、参加された方が、なかなか及第点が取れないと、お聞かせいただきました。
その辺りのところを少しお話しいただけますでしょうか!

(千野)
はい、及第点がもらいにくい人は、結論ありきの思考をする人が多いですね。
結論を端的に理由づけするための分析を行っているため現在の環境など含めて、なぜそのような分析結果につながるかなどの思考プロセスや得られた結果から想定できる新たな気づきとなるような部分まで発想をしていないため分析結果を見るとそれは当たり前な内容だよねとなってしまいます。

(黒木)
なるほど、予定調和的発想から抜け出られませんね。
仮説生成アブダクションのように、見たもの,感じたものを感知するという視点は、センスメイキングの第1ステップですが,それが大切ですね。

(千野)
現在はデータを持ち寄るとプロジェクトとしてうまくいかないことが多いので、最初はこちらのデータを用意して、そのデータを活用した、ソリューションを提案することを行なっています。
その理由は、第1にデータを出していただくのに時間がかかりすぎること。第2に、持ってくるデータの意図を理解している方が少ない。
どのようなビジネス課題を解決するためのデータであるかという目的や活用方法、収集タイミングなどが非常に曖昧になっており、そのデータの意図の理解に時間かかりすぎるため、本来の目的である分析からソリューションを考えるというプロセスまでに予定通りに行えないことが多くなるからです。

(黒木)
大変示唆に富んだ話ですね。
データの意味や目的を理解しないと収集すること、ソリューションにも時間かかります。
仮説を持つ重要性だと思います。
今や、以前のようにビッグデータ何でもデータを打ち込めば、なんかが出てくるというような以前の話も聞かなくなりましたね。

2. "問い続ける力"が必要になる。

(黒木)
次に以前千野さんと話した時に 前提条件を疑うことの大切さをお話しいただきました。大変興味深いお話しでした。
クライアントの前提条件に対して、仮説をどのように組み立てることを千野さんは、皆様とやられているのか,差し支えない範囲でお願いいたします。

(千野)
前提条件ですが、データの分析というのは,結論を出すことではなく、1プロセスと考えています。
理由の意味付けとなる数字は必要だが、数字が独り歩きした結論になるのはおかしい。
(削減など効率のようなものは結論になる場合もあります)

例えば、売り上げ予測の場合、経営を行う側であれば、最大値・通常・必達のような3つの数字で見ることがあります。
しかし予測モデルなどでは3つ出すよりも売り上げは、1つになることが多いです。
何故ならば,現在の売り上げから、予測モデルを作った結果なので、1つしか結果が出ないのです。

あと、実務面から考えると,売り上げ予測を知りたいというよりもその為に何をしなければならないかという部分が知りたいことが多いと思います。

結果、分析で欲しい内容は月別の最大値・通常・必達の予測ができ、各3指標を達成するためにはどのような業種を何カ月前までに攻めるべきかなどが
分かるような予測モデルになるかと思います。

このような予測モデルの活用方法を考えると、意思決定をナビゲートするまたは意思決定の理由の意味付けとなるような数字が見れることになると思います。

(黒木)
ありがとうございます。データ分析は、結論ではなく,プロセスである。
「何をしなければならないかが分かる」ことであるという視点は、大切ですね。
それは回答を出すこと以上に、問う力が大切だというのと似ていますね。

話変わりますが、直近のアカデミー賞の「オッペンハイマー」作品のノーラン監督は、映画を観た後に【観客が考え続けることの大切さ】を訴えています。
結論ではない,問い続ける。考え続けることが今要求されているのでしょう。

(千野)
話を少し戻しますと,先の何故及第点が取れないかの原因は、データ分析や予測で得られた数字を結論として見るためその結果から物事を端的に考えてしまうからだと思います。

予測した数字はあくまでも過去の結果を踏まえた予測結果です。
あくまでも1事象でしかないので、数字を現象ととらえ、その現象が起きる要因はなんであるかというように熟考することが重要だと思います。

また得られた結論には共有と共感が必要です。
共感は、価値観やある程度の知性が必要で、共有はある程度のロジックが必要になると思います。
共有として分かりやすい指標は数字であり,
数字の意味などを導き出すロジックなどプロセスを経て共感に繋がると考えています。

そのように考えてもらうと分析から得られた数字が違っていた場合でも色々と見えてくるかもしれないですね。

もしかすると属人化されているような業務プロセスを常に正しいものと思い、深く理解せずに現状通りに行っていることに慣れている方々がいるのかもしれません。

3.カオス理論(破壊)から生み出す

(黒木)
最後に、以前カオス状況から新しいものを生み出すという話をさせていただきました。
また、カオス理論から新しいものを生み出す話をお願いします。

(千野)
アイデアを出す時ですが、【発散・収束・再発散】というプロセスを行うと思います。
チームで行う場合、発散と収束は多面的な意見から行うという形で,意見を出しながら行なっていると思うのですが、【再発散】というプロセスは、【発散・収束】を行なってきたチームの思考プロセスだけでは、予定調和的な発想になりやすく、なかなか再発散ができないと思います。

よってこの再発散にカオスの状況を如何に生み出すかいうのが必要だと考えています。

自分達のアイデアを具現化するには,アイデアを鮮明にする必要があります。
極論をいうと、現在存在しているアイデア,存在していないアイデアなどと比較をして想定しているアイデアの差異化や優位性などを見つけ出さないと
いけないわけです。

そのようなことを行うためには【再発散】の部分でカオスな状況を作らないと尖ったアイデアにはならないと思います。

(黒木)
ありがとうございます。
弊社では、千野さんのいう【再発散】に相当するように、あまのじゃくキャンバスという作業をプロジェクトでやっております。
【あたりまえ】を洗い出す作業をします。
対象商品や企業コンセプトのアイデアに対して、違和感を探ったり、真逆を考える【あまのじゃく】を考える作業をします。
【あたりまえ】を創出するのは、左脳的。それに対して【あまのじゃく】は、体感知、右脳的アプローチにになります。千野さんのお話しにあった【再発散】に必要な作業に通じるかもしれません。
(cfあまのじゃくキャンバスの原型は、シカゴのDoblinというイノベーションファームによります)

まとめとして

3月12日に、アメリカアカデミー賞長編アニメーション賞に「君たちはどう生きるか」が選ばれました。
日本のアニメーションがまた世界を魅了した。


報道では、日本アニメの魅力と同時にアニメーターの待遇課題が記されています。
しかし私が注目していているのは、そのテーマである「君たちはどう生きる」です。
極めて根源的なテーマではないでしょうか!
 今回対話した千野さんは、大学で数学を学び,システムインテグレーションに精通されながら、人間の意思決定に関わる経営やマーケティングをやりたくて会社を辞めて、独自の領域を形成しています。
言い換えれば、破壊しながら創造し、再生している。
 その根源には,人間は、何故生きるのだろうか?
という問いを発していることを感じます。
千野さんのデータサイエンティスト育成セミナーにも、その気概を感じます。

日本の企業や私たちは、常に破壊しながら分解して、合成する。
ポイントは、分解が少し多い方が,つまり破壊が多い方が、前に進むという動的平衡理論です。
(cf  円の転がり落ちようとするのを均衡で保つ理論です。*タイトル画参照)

▶︎生命とは絶えず動的で,外部環境に向かった開いているものである。
物質、エネルギー、情報が出入りしている。この出入りこそが生命の流れである。

物理学の斜面である坂は、
y=tanθx−r/cosθ。θは坂の角度。
円rの座標軸の原点は(0、0)接点(坂)の座標軸は、(−rsinθ,−r cosθ)
円弧の重心mの座標軸は、(−rsinθ,r cosθ)

動的平衡 福岡伸一


現在数多くのクライアントで進行しているセンスメイキングプロジェクトの基本も、考え続けながら、壊すこと、破壊することで新しいものを生み出す作業なのではないかと考えます。
分解と合成の動的平衡モデル、発散ー収束ー再発散のプロセスは、今このイノベーションや新しい創造が必要な時代にこそ求められているように思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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