
課題解決の為の"読み解く力"とはハウツー的教養からは生まれない。
はじめに)
この一年間"リベラルアーツ塾"を実施してきました。
VTSによる絵画、建築、歌舞伎座での歌舞伎、メトロポリタンオペラ、坐禅体験などをプロジェクトメンバーと体感してきたのは、個々の教養を単に身につける為のものではありませんでした。
一つひとつを有機的に結びつけて、趣味的な嗜好を超えて、知性、感性、倫理、記憶、知識など、あらゆる人間の能力を使いながら、構想力の根底にあり、活力を与えるものと考えておりました。
ここでは、この一年間の内容と実施したことの確認をしながら、その意味を考えてみました。
A.現在のビジネス思考法の推移レビュー
(ロジカル思考→デザイン思考→ビジョン思考 センスメイキング理論)
この数年間、従来までのロジカル思考の効率重視型だけだと、分析過多、計画過多で、企業の活力を奪う。更にイノベーションが生まれにくいと言われてきました。
(でもまだまだ日本企業では、ロジカル思考が多く、かつリサーチ方法でも仮説なく、事実を知る、それを解読しない、予定調和的な仮説に終始することが多いのではないかと危惧します。)
10年以上前、2009年頃から、米西海岸のIDEOなどで提唱された【デザイン思考】が話題になりました。
これもいまだに狭義のデザイン、色や形をデザイナーが考える発想法くらいにしか捉えられていないケースがあります。
IDEOティム・ブラウンは、デザイン思考はスタイルの問題ではないと言っています。

【デザイン思考】は,顧客と顧客以外からの【洞察】を得る【人間中心の調査】をベースにして、観察オブザベーションに力点をおいているところが中核になっています。
IDEOは、日本に進出して、すぐに撤退したのは、何故でしょうか。
デザイン思考は普及したが、日本企業内部にこの手法が浸透して外部デザインコンサルティングファームへの需要減少したという説明がchatGPTでされていますが、それは本当でしょうか?
デザイン思考を単なるデザイナーの思考法という表層の色や形だけのことに捉えられて、ユーザーの価値の捉え方や意味を付与する本筋のテーマが不十分であったのではないかと、私は考えています。
私は,何度か表参道の最高級ビルである日本のIDEOの入っているルイビィトンのフロアを訪問しましたが,素晴らしいオフィスにも関わらず、そこで働いている人間には,大変失礼ながら、活気を感じてはいませんでした。
本来のデザイナー,行動科学者,マーケッター,エンジニアの異業種連携チームの稼働には至っていなかったと推測されます。
故 野中郁次郎先生は、デザイン思考が、いわゆるハウツーに回収されて,本質を徹底的に考え抜いていないのではないかと危惧されていました。

①共感→②定義→③概念化→④プロトタイピング作業→⑤テストの【デザイン思考】は、その考え方だけが、日本企業の一部の企業に導入されたとします。
その導入がうまくいったのは、デザインについての定義(Cambridge Dictionary of American English)にあるように、
「特定の問題を解決し、受け手に価値を提供する為の行動や計画である。それは、美学や機能性を超え、経験そのものに意味を与えるものである。」
この受け手に【価値】を与え、経験そのものに【意味】を与えることをきちんと出来たからだと私は思います。

コラム)
余談になりますが、
なお故野中郁次郎先生の話では、
創業の1人であるティム・ブラウンはじめIDEOのメンバーが、1990年の後半には日本を何度も訪れて、鈴木大拙の禅を学び、西田幾多郎哲学からの主観と客観をベースにしながら、デザイン思考の根本理念を作成したと聞いています。
我々が,現在さまざまなプロジェクトで重視しているナラティブ、ストーリーメイキングもその原点は、【日本流再考】にあるようです。
デザイン思考とは、単なるアメリカ西海岸のシリコンバレー・パロアルト発ではないようです。
さらにその後、デザイン思考のマイナス面であるゼロベースの商品開発ができないことをフォローして、思いやvisionを具現化する【ビジョン思考】です。
他人ゴトではなく、自分ゴトで考えながら、思いを明確にしながら、創造的ソリューションをする作業です。
更にそれと類似している、【アート思考】、これまでの既成の概念にとらわれず、個人の感情や内面からの発想を巡らせて自由な思考法が使われています。
ビジョン思考、アート思考ともに『(右脳↔︎左脳)暗黙知を形式知への変換する、見えているもの以外のinvisible領域を相互に理解し、自ら表現する』作業します。
ロジカル思考だけに頼らないで、ビジョン思考やアート思考の根底にある組織心理学も踏まえて、カールワイクにより提唱された【センスメイキング】理論があります。
①まず最初に感知scanningをベースにしてから仮説生成をする。②次に様々な解釈、意味付けをします。interpretationそして最後に③多義性を減らして、行動・好意するenactment
重要なことは、①の感知する時アブダクションと言われる演繹でも帰納法でもない第3の推論法です。
あのシャーロックホームズの使った推論法で、アメリカの哲学者チャールズパースによって提唱されました。
(センスメイキング理論、アブダクションについては、過去何回か私のnoteでも詳しく述べましたので,詳しくはそちらもご参考にご覧ください)
センスメイキング理論は、従来のロジカル思考での実証主義的な主体→客体の分離している、客観的に真実・真理は一つという見方ではなく、主体と客体とは切り離せず、互いに働きかけ,依存するという認識論的相対主義の立場をとります。
したがって、
①リサーチの方法には、エスノグラフィーという文化人類学的手法をとります。
②求められるのは、ストーリーメイキングやナラティブが重視されます。
私どもでは、このセンスメイキング理論をベースにするマーケティング戦略構築で、19行程を生み出して日本独自の方法に仕立て上げてきました。
そこで必要になったのが、感知→解釈・意味付け、ストーリーメイキングする独自の力を付けること、それは、知で言うなれば、暗黙知の高質化作業が必要になると考えたわけです。
その為に、この一年間、【リベラルアーツ塾】なるものを開催し、ファッションではないリベラルアーツ、つまり、ものごとの本質を問うこと、即ち、個々(プロジェクト参加者)の"読み解く力"の向上を目指してきました。
ここで、また野中郁次郎先生の言葉を参考にしてみます。
「リベラルアーツと言われる哲学にしても、歴史にしても、それを学ぶこと自体が目的となってしまえば、結局それはハウツー的な教養にしかならないし、生きていく上での血肉にはならないはずです。」
「生きていく上での血肉にはならない」とは、目的とした暗黙知の高質化にはならないということです。
今回のnoteは、この一年の活動を通して、どのような課題が残っているかを書き記しながら、次年度に繋がる我々が考える5つのテーマを書いてみました。
B.新しい思考を習得する為の5つのプロセス設定
<5つのプロセス>
1.善い目的を作ること 「共感」と「納得」と「情熱」が必要
2.目的を明確にした後に、【事実→問題点→課題の設定】の3ステップの明確なプロセスを踏むこと。
3.問題点を創出するポイント
4.【読む解く力】とは,【前提条件】を疑い、それを整備すること
5.課題を解決する方法とは、物事の本質を掴み取る力=コンセプト創造ではないか!
1.「善い目的」を作ること
人は目的によって駆動する。
・善い目的を作る力をつけること
・では善い目的は、個人が他者とのやりとりで直観的な想いを抱くことから始まります
・個人の主観が、互いの身体や頭と五感を通じて、直接の体験を通して他者と共有されます
・新しい"気づき"は、対話を通じて、議論を重ねて生まれます
・それぞれの想いの主観が複数形の我々の主観に変わるのが,フッサールのいう相互主観です。

「善い目的」とは、共感・納得・情熱が入っていること
2.【事実→問題点→課題の設定】の3ステップの明確なプロセスを踏むこと
昨年5月にメンバー14名全員に、この1か月で気になることを幾つでも書いて、発表することを事前課題として提示しました。
この課題の後に、その幾つかを選択して,それぞれにその原因を解明し、新たなるソリューションや解決方法を対話するつもりでした。
タイトルにある事実から問題点へのステップアップのできないケースがありました。
事実を挙げることは、極めて客観性はあるが、問題点となるとそこには主観が入る。
ここに自分ゴトで考えられたか、仮説生成する力が問われていきます。
3.問題点を創出するボイント
私の経験から言えば、問題点はひとつのテーマで大体10個くらい上がりますが、ウェートをつけると、2個か3個くらいです。あとは、一つの問題点がクリアすると、様々な問題点が連続的に解消されることがあります。全体をみての影響度を見定めることが大切です。
その問題点のウェート付け作業をバックアップするのに以下のようなことをしています。
①問題点同士の関係性を知る因果関係などを明らかにする。物事の背後にある【行為と構造の相互作用】という視点を考える
②視座の高い人・考え方の異なる人との【対話】をする
③未來からの視点バックキャスティングをしてみる
④フィールドワークとして、エスノグラフィーにより、観察することで擬似体験をする
4."読み解く力"とは、前提条件を疑い、それを整備することである
①前提条件を疑う。予定調和を外して、より多くの選択肢を考える
②前提条件の整備、解像度を上げることで、課題がよりクリアになる
【解像度について】
前提条件の整備方法・・・(馬田隆明の4つの視点を修正、加筆する)
① 深さの視点
原因や要因別に、方法を細かく具体的に掘り下げる。
→どこを深めたらよいかは意外に難しい
→目的と手段の見える化をする。ラダリング構造にする
②広さの視点
考慮する原因や要因、アプローチの多様性を確保する。
→目的にあった具体的な行動や解決策が見えるようにする
② 構造の視点
「深さ」や「広さ」の視点で見えてきた要素を意味ある形に分け、要素間の関係やそれぞれの相対的な重要性を把握する
④時間の視点
経時変化や因果関係、物事のプロセスや流れを捉える

【前提条件】とは何であるか、今起きていることを"読み解く"、解像度を上げるブレークダウンができるかどうかが必要な作業になります。
5.課題を解決する方法とは、"物事の本質をつかみ取る力"コンセプト創造ではないか!
前述1.から4.までの作業を突き詰めて考えれば、物事の本質をつかみとることの観点=独創的なコンセプトを創造することではないでしょうか!
C .全体の【まとめとして】
この一年間、"リベラルアーツ塾"を開催しながら、メンバーと共に、オペラのトスカを鑑賞し、歌舞伎座で中村獅童さんの歌舞伎を観劇し、浅草の寺で坐禅を組み、VTSでギリシャ・ローマの建築や絵画からルネッサンス絵画、バロックから印象派やモダニズムを論じ、建築から読み解く身体知を語りあったのは、それぞれの単発の知識を得るためのものではありません。
それぞれを有機的に連結させて、個々の暗黙知を高質化することが、人間にしかできない"読み解く力"をより強固にすることであったと考えています。

<AIの活用領域と我々人間による意思決定のプロセス領域を認識すること>
最近は、AIエージェンシーなる言葉が巷で頻繁に目に入ります。ユーザーに変わって目標達成の為に、最適な手段を自律的に選択してタスクを遂行する技術と言われています。
また、生成AI活用などの活用もマーケティング領域に入ってきております。
AIには、情報の発散や収束を効率よくすることにおいて、我々の意志決定の支援活動には、極めて役立っております。
しかしながら、目的を創出する、我々の体感知からの想いを作成する作業は、我々人間の作業です。
情報の発散→収束から、さらにそれをベースにして新たなる意思決定をする 5.に提示した"物事の本質を掴み取る=独自のコンセプト創造作業にまで至るのがヒューマナイジング・ストラテジーです。
次年度のリベラルアーツ塾では、その視点で、
単なるファッションとしてのリベラルアーツではなく、上記5に至る"物事の本質を掴み取る"までを皆様と共有しながら進められたらと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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