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【読書メモ】_依存症者の家族にお勧めしたい本

 依存症の治療に専門性のある医療機関では、必ずと言っていいぐらい、家族教室や家族ミーティング(スタッフが司会をして、家族同士が体験をわかちあう集まり)が行われます。当センターでもコロナ禍になる前は、毎週金曜午後に行っていて、毎回、20名近い方が参加していました。コロナ禍になってからは頻度は減ったもののオンラインで続けています。
 必須とも言える理由があります。私が家族教室で使っているスライドを使って解説します。

 家族依存症が進行すると、家族、特に同居している家族は悶々とした状態になります。

作成:垣渕 洋一

 嗜癖行動を止めようとしますが、しかし、当事者としては、家族を大事にし、仲良くしたいと考えていても、強烈な飲酒、ギャンブルなどの欲求が起きると、抑えきれず、嗜癖行動に至ります。大きな問題が起きると「二度とやらない」と約束することもありますが、また繰り返ししてしまいます。そのうち、家族に隠れて行動したり、責められると怒りで応酬することも繰り返されるようになります。治療につなげようとしても拒否されます。そういう状況を「まきこまれ」と言います。

作成:垣渕 洋一

 こういう状態を何年も続けているうち、家族は疲弊してしまいます。
 「この世の地獄を見たいなら、依存症者のいる家庭に行けば良い」という言葉があるぐらいです。
 同居に耐えられなくなって、離婚や家族離散に至ることも珍しくありません。
 私の目の前で「私とお酒のどちらをとるのか?」とパートナーに迫られる人、初回入院時には支援してくれていた家族が、再発する過程で家族が離れていき、入院を繰り返すたびに、孤立していく人を大勢見てきました。
 決して、家族が病気に追いやったのではありませんが、気づかないうちに、当事者が依存症でありつづけるためのシステムに家族が組み込まれてしまっている場合は多々あります。
 なので、依存症について正確な知識をもったうえで、我が家に、そういうシステムがあるかどうかを見極めることが大事です。そして、システムがあれば、それを変えることで当事者の行動も変わります。

 コミュニケーションの基本は以下の通りです。

  上手になると、当事者にとっては、今まで強烈で凍えるような北風が吹いていたのが、太陽に照らされるように感じるのです。

 家族のシステムを変えることは、家族も楽になり、自分のケアをできるようになることでもあります。

 当センターでの家族教室は、入院中または退院された方の家族が対象で、6回シリーズと相当なボリュームがあるので、紹介したのは極一部です。

  書籍で学びたい場合は以下をお勧めします。

 CRAFT(Community Reinforcement And Family Training コミュニティ強化法と家族トレーニング)は飲酒問題や薬物問題に悩む家族のためにアメリカで開発されたプログラムです。対立を招かずに、治療を勧める方法を学んでいきます。
 アメリカでは、このプログラムを受けた家族の場合、70%前後が治療を開始したという研究結果が出ています。
 著者の吉田精次先生(藍里病院)は、依存症専門医として、日本にCRAFTを紹介した方です。臨床の傍ら、講演や執筆も多くされていて、CRAFTに関しても本書が4冊目です。全てが手元にありますが、本書は、カラー刷りでイラストも多用され、一段とわかりやすく、ヤル気にさせる仕上がりとなっています。
 依存症は様々な愛を壊し、失う病気です。
 「CRAFTによって多くの人が、見失っていた相手の愛を取り戻します。また、なにより大切なのは、家族が自分自身への愛を取り戻し、よりよい人生を歩みだせること」(本書の<はじめに>から)というのはとても素晴らしいです。

 もう1冊紹介します。
 家族の困りごとは医療以外にも沢山あって、誰にどういう助けを求めて良いのかわからないこともあります。そういう家族のニーズにワンストップで応えてくれるのが本書です。 

 本書を編集したASK(アスク)は、当事者や家族への啓発活動を長年にわたり行ってきた特定非営利法人で、発信する情報の質には定評があります。