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文章ビブリオ Vol.1 ―「超」入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ
今回ご紹介する本はこちら。
鈴木博毅著[2012]『「超」入門 失敗の本質 -日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ』ダイヤモンド社
この本は、一橋大学名誉教授であり、防衛大学校でも教授を務めた野中郁次郎氏らによる大東亜戦争における日本軍の組織的な失敗を分析した名著「失敗の本質 -日本軍の組織論的研究」(以下、「原著」という。)を極めて分かりやすく解説した書籍である。
はじめに
私はこの本を日本の全ビジネスパーソン必読本として推薦したい。
というのも、忙しいビジネスパーソンにも短時間で読み進めることができ、原著のエッセンスをわかりやすく理解が得られるように解説してくれているからである。本書を読めば、原著を読まなくとも十分な示唆が得られると確信する。
本書では、日本軍がなぜ大東亜戦争で失敗を犯したのかについて、おもに米軍がとった行動と対比しながら指摘をおこなう形で進められ、日本軍のとったそれがいかに非合理的であったか(米軍の行動が極めて合理的であることも理解できる)を指摘していく。
さらに、これらの歴史的失敗が現代のビジネスシーンを生きる私たちにとっても共通の課題であると痛快に伝えてくれる。
はじめに、本稿の読者に、本書見開きタイトルの次ページに記載されている一文をそのまま引用してお伝えしたい。
「日本人は今こそ、過去の失敗から学ばなければならない。」
読み進めていくうちにわかっていくのは、本書のタイトルからもわかる通り、大東亜戦争における日本軍の失敗は現代の日本企業にも共通することである。このことに、伝統的な日本的文化をもつ企業に勤務する私はぎくりとさせられた。
私たち日本人はこのことを肝に銘じなければならない。
さて、本書から私が特に印象に残ったポイントは以下のとおりである。(本書ではこのほかも多様で示唆に富んだエッセンスを含む)
往々にして、私たちは目標達成に繋がらない努力をしてしまっている。
日本人は既知の指標(KPIと言い換えることもできる)を極めることに長けているが、戦いに勝つうえでより優れた指標を見つけ出すことを苦手とする。
日本人は体験的学習による偶然の成功体験に固執してしまいがちである。
印象的なポイント
それでは、1.~3.をひとつずつ見ていこう。
往々にして、私たちは目標達成に繋がらない努力をしてしまっている。
このことは、本書の第1章で最初に触れられるミッドウェー海戦のエピソードからのメッセージである。
1942年、日本軍は太平洋の覇権をかけた「ミッドウェー海戦」にて大敗を喫することとなった。
この戦いで、日本軍は米軍に先んじて25の島を占拠したが、米軍はそのわずか8島の支配により勝利を得た。このことは、日本軍に大局的な戦略が欠け、場当たり的な軍事行動(努力)を行ったことを象徴している。
「一国の軍事行動で、そんなことあり得るのか」と思うかもしれないが、本書にはこのような"とんでもエピソード"がたくさん登場する。
他方、現代社会でも大局的な戦略を持たない活動は多数存在するのではないか。そんな身につまされるエピソードである。
日本人は、一つのことを極めることが得意だが、そのことに固執してしまうことで、より優れた技術に対応できない。
このことは、私たちがすでに実感を持っていることに強烈な示唆を与えてくれる。
オリンピックの柔道やガラパゴス携帯など、いつもルールメイクやデファクトスタンダードを主導するのは欧米である。
日本はなぜこのように他国に後れを取るのだろうか。
本書では、日本には極限まである指標(技術)を磨き上げることを美徳とする文化があると指摘している。反面、過去にその技術で成功したことに固執し、すでに効果を失った指標を追い求めてしまうと指摘している。
日本軍は、「超人的な猛特訓・練磨」により軽量で旋回性能に優れる零戦を巧みに乗りこなして戦果を挙げた。他方で、米軍は日本の零戦に勝てないと判断するや否や、即座に零戦の優位性を打ち消す新たな指標として「重装備・防弾性」と2機以上での戦闘を行う戦術を考案した。
このことにより、零戦の強みは無効化されたわけだが、日本軍はこれに対応する戦略を打てず、過去の成功にしがみつく精神論に終始してしまった。
このように、特に日本は過去の成功に固執する文化が強いと指摘している。故に新たな指標を取り入れることが出来ず他社に後れを取るのではないだろうか。
新たな指標が既存指標の成長を破壊することは、クレイトン・クリステンセン著『イノベーションのジレンマ』の主張とも重なるところがあると感じる部分であった。
おわりに
筆者が本書を手に取ったきっかけは、通学するビジネススクールで講師から推薦されたことだった。
日本軍の失敗要因とは?という斬新な切り口に興味を持ち、まずは解説書から、と思い手に取った。
感想としては、「本書はビジネスパーソンにこそ手に取るべき書籍」だと確信する。イノベーション論や組織論の根幹をなす理論が明快に開設された書籍として、興味を持った読者はぜひ手に取ってもらいたい。