「女性蔑視」と「女性軽視」
今年も『現代用語の基礎知識』の「働き方事情」を担当しましたよ。「ユーキャン新語・流行語大賞」には、その年の秋に出る、この本に掲載された語がノミネートされます。このあたりの事情は、以前、私が担当したこの記事をご覧ください。
昨日、2022年11月7日の朝日新聞「天声人語」は「ジェンダーと流行語大賞」でした。この記事に能條桃子さんと常見がコメントしています。
失礼ながら、天声人語を書いている方(人子というんですってね)は、1989年に「セクシャル・ハラスメント(注:セクハラと略されてはいない)」が新語・流行語大賞の金賞を受賞した際の紹介文を読んでいないのではないかと感じました。この紹介の仕方から。
実は、1989年のこの言葉の受賞者は弁護士河本和子さんで。「西船橋駅転落事件」の担当弁護士なのですね。
受賞の際の紹介文はこうです。
https://www.jiyu.co.jp/singo/index.php?eid=00006
↓
欧米ではすでに社会問題化していた「セクシャルハラスメント」だが、日本では“西船橋駅転落事件”の判決が出たこの年、一気にスポットライトを浴びた。この事件は、酒に酔った男性がしつこく女性にからみ、避けようとした女性がはずみで酔漢を転落死させてしまったものだが、その酔漢には、そして多くの男性の中にも、抜き難い“女性軽視”の発想があることが判決で指摘された。日本で初のセクシャルハラスメント裁判と言われ、河本は弁護人として活躍した。
実は(具体的な行為は説明しませんが)オフィス、学校でのいわゆる「セクハラ」とはやや異なり、「西船橋駅転落事件」で争点となった「女性軽視」の「発想」を取り上げているのですよね。
まず、ここを確認しつつ。
十数年前に初めてこの紹介文を読んだときには、そうか「西船橋駅転落事件」だったのかということに驚いたのですが、読み返してみて「女性軽視」という言葉が使われていたことに驚きました。
最近、「女性蔑視」はよく見かけますけど「女性軽視」は専門書はともかく、一般的にはメディアでは見かけません(と、私には感じます)。
物事はより深刻化していて「蔑視」といえる状態が多いのか、何にでも「蔑視」を使うようになっているのか。
「蔑視」と批判されると、断じられることを避けるために苦しい言い訳を主張しだすのではないか、と。
私からの建設的な提案は「女性蔑視」と「女性軽視」は使い分けよう、と。すると、問題の程度や本質がより見えるのではないか、と。
もちろん「軽視」という言葉を使うことにより、問題が軽くみられることは避けたいですが。
というわけで、改めて原文を読み返して気づいた発見と提案でした。
追記(2022年11月8日8時30分)
1.「西船橋駅転落事件」は「日本初のセクシャル・ハラスメント訴訟」ではありません。
2.蔑視>軽視かというと、必ずしもそうではないです。蔑視の方がより行為として重いわけですが、一方で、軽視は長期持続的な暴力となりえるわけで、これが人生に大きな影響を与えることは間違いないでしょう。そうであるがゆえに、それぞれ使い分けるべきなのです。