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海外中継の種明かし

コロンビアのホテルで執筆中。

今回は、私が世界約50ヵ国で取材•生中継をしてきた経験から自分なりに見出した海外生中継の裏技を大公開。

インド•バラナシから生中継

誰に向けての記事でっかー?!

まあまあ、そう言わず。


放送関係者以外からもよく聞かれるんですよ。

ジャングルだスラム街だ雪山だ、いろんなところから生中継をしているけど舞台裏はどうなってるの、と。

ナイジェリア
南アフリカ


そこで。

一体誰が興味をもつかは分かりませんが、全3回にわたり3つのポイントでまとめてみます。


1、台本が全くない生中継において、スタジオ出演者からのランダムな質問にどう答えているのか。

2、国内とはまるで違う、国際中継での音声の遅れをどう克服しながらスタジオ出演者とトークをしているのか。

3、国外の治安があまりよくない場所で、生中継前後に誰かに絡まれたり邪魔をされたりしたらどう対処するか。



今日はポイント1について。

我々がMBSで15年にわたってお送りしているアナウンサーの海外生中継というコンテンツは、台本が全くありません。

それぞれが現地で取材したこと、感じたこと、を決められた時間の中で伝える。

もちろん、事前に現場のアナウンサーがどんな話をしたいのか、それに必要なインサート(トーク中に無音で流れるVTR)はどんな物が必要か、何かの値段を言うならば分かり易い文字スーパーがいるのか、そんな打ち合わせは本社スタッフと行います。

スリランカの世界遺産•城塞都市から生中継

 ただ、基本的に生中継でのトークはアナウンサー任せなところが多いです。

これは楽しさでもあり、プレッシャーでもあります。


例えばある日の生中継において、放送2時間程前に、私が本社スタッフたちとLINEで共有した「今日の生中継で大吉が喋りたいこと箇条書き」をお見せすると、こんな感じ。


ペルーからの生中継を前に実際に私が送ったLINEメッセージ↓

中継素案•前半

•今ペルーの首都リマ
•時間、気温、情景描写
•飛行機大幅遅延
•中継できるか危ぶまれた
•ただ今日はリマがテーマではない
•直前までいたボリビア
•ある過酷な環境(高山病の話し)
•ボリビアってどんな国?
•万博PR手応えあったよ

→VTRどうぞ

⭐︎VTR終わり、スタジオとトーク

•いかに高地がきつかったか
•万博への国民の興味(街頭インタこぼれ話し)
•午後6時15分からは
•ボリビアが世界に誇るあの絶景です

⭐︎5時49分30秒厳守します!Nスタ

後半

•引き続きリマから
•あの絶景を求めて(ボリビアの絶景?クイズ)
•条件が整った時のみ見られる
•いったいどうだったのか?

→VTR

⭐︎VTR終わり、スタジオトーク

•明日はとてつもない光景を!
•二度目の挑戦!盛り上げますのでご安心を。




こんな具合です。

台本や原稿などはなく、あくまでアナウンサー発信でおおまかにどんな生中継をイメージしているのかを本社に伝えます。

もちろん、これはあくまで骨子です。

ここに言葉を足しながら、現場の臨場感や伝え手としての感情移入も意識しながら話しますし、時に本社から「出演者の⚪︎⚪︎さんが、治安に関して気にしていたので、どこかで治安に関する言及を少し入れてくれない?」などのリクエストがきたら、それを盛り込んだりもします。

このような基礎の設計図をつくることが第一歩。

その上で、生放送でのスタジオとのフリートークとなれば予想していない質問が飛んできたり、思いもよらぬ展開に話がすすんだりすることも、しばしば。

では、各国や各地域に数日しかいられない限られたスケジュールが多いなか、どのようにランダムな質問に答える準備を私なりにしているのか種明かし。


私は海外中継に行く時にお守りのように持っていく「基礎資料」なるものがあります。

それは日本の外務省ホームページ上にある各国基礎データです。

これを印刷し、ファイルに閉じて持って行きます。

最新かつ重要な基礎中の基礎データが、実にコンパクトにまとめられています。

国の面積、人口、民族構成、言語、宗教なども、自分で調べると様々なソースが溢れ、データの時期によってはバラつきがあるものも。

しかし「日本の外務省によると」の枕さえ添えれば、このホームページ情報で統一して基本情報はおさえることができます。

面積も、単に⚪︎⚪︎平方キロメートルという表記だけではなく、日本の約3倍とか、四国と同じくらいとか、イメージし易い説明もあり生中継などで自分が口にする時に重宝します。

更に、とても助かるのが略史です。

細かいことは省いた、その国の大凡の歴史が箇条書きで短くまとめられています。

例えば生中継の際に、

タレントさん
「大吉くん、ウルグアイって行ったことないのだけど、生中継の街並みを見ているとちょっとヨーロッパ風な感じで驚きました。」

なんて言われた時に、

大吉
「そうですね。街を歩いていると教会や建物も西洋を思わせるつくりが多いです。」

と言っても別に問題は無いかもしれませんが、もう一言足せたらイメージ変わると思うのです。

大吉
「そうですね。ウルグアイは1800年代にスペインから独立をしていますが、ここ首都モンテビデオには今もヨーロッパを感じさせるコロニアル調の建物が多く残っていますね。」

と言えたら、どうでしょう。

大したこと言っていませんが、説得力が増しませんか。

突然の質問に歴史的背景を年代までつけて答えている!

とても下調べしているな!

と、思ってくれる方々もいらっしゃるかもしれません。

いらっしゃったら嬉しいな。

しかし、実はこの程度のことは外務省ホームページのほんの僅かな略史情報を見るだけでも準備ができるのです。

こういうインスタント情報を、到着したばかりの国での生中継の時などには有効活用し、取材が追いついていない部分をカバーしています。

移動中に読んでおけば頭に簡単に残るぐらいの情報でかなりの武器になります。

主産業や貿易相手国なども簡単にまとめられていて、この辺りも役にたちます。

ここまでは、日本にいながらもできること。


続いては、国に到着して私がすぐに現地スタッフに聞くこと、または自分で調べることもご紹介。


テーマは物価と平均所得です。


これをどう表現するかって結構難しいのです。


それぞれの国によって、エネルギーに強い、酪農が盛ん、インフラはまだまだ、天然ガスなんて皆無、などなど得意不得意みたいなものがあります。

また同じ国でも、ジャングルで暮らす部族もいたら、タワマンに住む人もいる。

海外の大学に行く子供たちもいたら、田舎では識字率がかなり低かったりもする。

何における物価??

平均って何??

一概に日本と比べて物価はどうか?とか、平均的に国民はどれぐらい稼いでいるのか?などといった質問に限られた時間で簡単に答えるのは非常に難しい場合が多いのです。

しかし「物価ってどうですか?」「平均所得ってどんなもの?」は日本のスタッフからも含めて、めちゃくちゃ多く聞かれる質問です。

そこで。

今から私が示す返答が100点だとは全く思っていませんが、ある一つの見方、一つの側面をお伝えする意味で辿り着いた”返し”があります。

物価に関して聞かれたら先程のエクスキューズを少し説明した上で、

卵10個あたり

牛乳1リットルあたり

ガソリン1リットルあたり

ファストフード1セットあたり
(国によっては不可)の価格をザッと紹介しています。

これらは容易に日本との差がイメージできると思うので、国に入り真っ先にメモをとる情報です。

アジア圏ならば米1kgあたりの価格も参考になる数字です。


そして、平均所得。

これは、前述のとおり国によっては割り出すのが不可能な場合も多いので、あくまで一つの指標として、参考にしてもらう程度の意味で、

その国の4年生大学を卒業した公務員の初任給を伝えています。

「⚪︎⚪︎な理由で、平均の所得というのは難しいですが、例えば、、、」てな具合で。

ある種の逃げではあるのですが、その国の労働対価を知ってもらう上では、ひとつの情報だと考えています。


これらの情報を毎回、頭に入れて中継に臨んでいます。

あくまで生中継前の最低限の装備です。

ただ、ここさえ抑えておけばある程度のボールは何かしらの方法で打ち返せると思っています。

数時間前に到着したばかりの国で、深夜の空港前から生中継なんてことも何度もありましたが、何とかラリーができているのはこのおかげです。

その国に関する書籍を何冊も読んでいる訳ではありません。

山を読み、効率よく情報を選択していくのも、一つの方法だと思っています。

もちろん、ここに取材で分かったこと、行ってみて感じた空気、話を聞いたら見えてきた背景、そういうインプットをどんどん増やし、生中継の質をギリギリまで高めていくことが我々アナウンサーの仕事です。

ただまあ、こういう準備をしっかりやればやるほど、そんなこと全く聞かれず、まるで違ったところから矢が飛んでくることも。

いや、そっちの方が多いかも。

まあ、それが生放送のおもしろさ。


次回は、音声の遅れをどう克服するか。

これ、本当に涙が出るほど苦労してきました。

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