海外中継種明かし•音声の遅れ編
前回に続き、海外生中継種明かし編です。
今回はポイント2、音の遅れに関して。
放送技術の発達により、地球の反対側にいても軽装備でクリアな映像と音声をお送りできる時代になりました。
最小人数の時は、電波を繋ぐ技術スタッフ兼カメラマンが1人、本社とのやり取りや現場の仕切りを担うディレクターが1人、そして伝えて手のアナウンサー1人という計3人で海外から生中継を行っている時も。
そんな中、我々アナウンサーにとっての一つのハードルは音の遅れです。
もちろん、現場の技術スタッフ、本社の音声スタッフたちの大変な努力で、我々喋り手はスムーズなやり取りをさせてもらっていることは事実です。
その技術というのは常に進化しています。
では、そもそも音の遅れとは何か。
10年前と比べると状況は劇的に変わりましたが、やはり今も我々アナウンサーが海外の現場で話した言葉がスタジオ出演者の耳に届くまでどうしてもタイムラグが生じます。
そして我々のリポートを聞いた出演者がそれに返答し、その声が国外にいる我々に聞こえるまでもやはりまた少しの遅れが出ます。
喫茶店のテーブルに対面で座り会話をしているような軽快なラリーはできないのが海外生中継でのやり取りです。
では具体例を。
なんかアナウンサースクールみたい。笑。
偉そうですみません。
例えば私がスリランカから
「スタジオの⚪︎⚪︎さん、私の後ろ約2km先に見える大きな岩山、あれがVTRでもご紹介したシーギリヤロックです!あの麓まで今からある変わった乗り物で移動します。何だと思いますか?」
と、投げかけたとします。
先程説明した双方の遅れが故、仮にスタジオの⚪︎⚪︎さんがスピーディーに「え!スリランカだから、、象に乗るんじゃない?!」と答えてくれたとしても私の耳にそれが届くまで割と時間がかかるんです。
この”時間”が多くのアナウンサーにとっては怖いのです。
なぜか!(ここポイント。スクール感が。笑)
現場のアナウンサーの気持ちとしてはですね、
「あれ?⚪︎⚪︎さんに質問したのに、返事がすぐこないよ、、、ちゃんと聞こえていないのかな、、、質問が難しかったのかな、、、」
と、数秒の間に不安に陥ります。
生放送における無音の数秒って私たち放送人にとってはとてつもなく長く感じる魔の時間。
結果、実際はほんの僅かなのですがその無音に耐えられなくなり、出演者の声がまだ届いていないのにも関わらず我慢できずその間を埋めようと再び現場アナウンサーが喋りだしてしまうのです。
「、、、実は、私、いまから、この象に乗って、、!」
しかし!!
スタジオの⚪︎⚪︎さんは、実はきちんと答えてくれていてただ単にその声がスリランカに届くまでに少し時間がかかっているだけなので、アナウンサーのこの我慢できずに発した2フレーズ目がオンエア上は見事に⚪︎⚪︎さんのコメントに被るのです。
これが我々が言う、生中継でアナウンサーがやりがちなミステイク”お見合い”です。
皆さんも見たことありませんか?
現場リポーターのテンポと、スタジオ出演者のトークがなかなか噛み合わず、お互いの声が被りまくる状況。
私も何度もやらかしたことが。。
見ていて、大変なストレスだと思います。
じゃあ、これをどう防ぐか。
私が50カ国の生中継で見出したポイントは2つ。
「細切れトークはやめてブロック投げ」
そして
「必ずボールは返ってくると信じる度胸」です。
細切れとは。
例えば、こんな感じ。
「⚪︎⚪︎さん!」
「後ろの岩山見えますか?」
「あれがシーギリヤロックなんですよぉ。」
「今から、ある乗り物に乗って、あそこまで移動しまーす。ニコニコ。」
「なんだと、思いますか?」
この様に、細かいフレーズを間を空けながらフワフワ放つとスタジオの出演者としては、毎度何か反応してあげなくちゃいけないのかな?と気を使い、それぞれの間に何かコメントを入れて助けてくれようとします。
「⚪︎⚪︎さん!」→「はいはい!なんでしょ?」
「山見えますか?」→「よく見えてるよ!大きいね!」
「あれがシーギリヤロックです」→「わぁ、VTRで見るのと、また天気が違えば雰囲気も変わるね」
という風に。
このやり取りは、電波や回線の関係で幸運にも遅れがほぼない生中継ならば、あえて小気味良い会話を演出するに良いかもしれません。
しかし海外生中継となるとこの細切れトークは両者のコメントが何度も被りまくる可能性大のハイリスクなやり方だと私は思います。
重要なのは。
海外中継においては、アナウンサーが喋る時はある程度一気に一まとまりで喋りきる。
そのブロックの最後の文章にだけ疑問符を置き、質問を一つに絞り明確に投げる。
私はこれを徹底しています。
その上で次のポイントである「信じる度胸」です。
これすごく大切。
先程説明したやり方で明瞭な質問をすれば、スタジオの出演者は必ず何かを返してくれます。
必ずです。
そこを信じぬくハートの強さがいるのです。
現場のアナウンサーの不安な気持ちは分かります。
無音、変な間、ノーリプライ、、あれあれ?
そう思ってしまいます。
しかし、そこを踏ん張る。
一度聞いたら、グッと堪えて、返答がくるまできちんと待つ。
遅れているだけで、必ず黙っていたら返事はあります。
仮にスタジオ出演者がもしも返答に困り、返せなかったとしても、その時はスタジオにいる別のアナウンサーが必ずフォローに入り、再び違う言葉で質問をしてくれたり、一回引き取ってこちらにボールを投げ返したりしてくれます。
現場アナウンサーが怖くなって、立て続けにまた喋りだす。
これが一番よくない判断だと私は思います。
被り被りの被り祭りがおきます。
視聴者をイライラさせて、チャンネルが、、、。
もう一つ言うならば、その独特の間を待っている間の表情も大事。
不安そうな顔をして眉間に小皺を寄せながらカメラを覗きこむと、その不必要な緊張感が視聴者にも伝わり楽しい中継も台無しに。
「遅れていますが、ちゃんと聞く準備はできていますよ、今ちゃんと聞こえていますよ、私の耳に届いていますよ、聞き終えたら、また話しだしますからご安心を。」と言わんばかりの余裕の表情で構えるのです。
この時、相槌も含め声を発するとまた被るので、無言かつ笑顔でゆっくり何回も頷き”映像を通して”音声やり取りは順調であることを出演者に伝えます。
これをしておくと、出演者側も喋り終えた後に現場アナウンサーがすぐに反応しなかったとしても、うなずいている以上はちゃん伝わっているな、と安心してくれます。
如何でしょう。
完全に台本が決まっているやりとりならこんなこといっさい気にしなくても良いんです。
しかし、海外と日本で生中継でフリートークをするというのは、思いの外難しいのです。
海外生中継をやりはじめた十数年前、何度やっても”お見合い”に”お見合い”を重ねてしまい、本場終わりの異国のホテルで悔しい思いをよくしていました。
どうしたら、防げるのか研究をしました。
辿り着いたのが今日の種明かしです。
まっ、今の私には本当のお見合いが必要かも。
知らんがな。
次回へ。