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映画「TOTEM」(邦題"夏の終わりに願うこと")

監督:リラ・アビレス

夏の終わり、メキシコ。7歳の少女ソルは父トナの誕生日パーティのために祖父の家を訪ねる。祖父の家で病気療養中のトナは夜のパーティに備えて体調を整え、ソルはトナの部屋に入れない。トナの姉たちはパーティの準備をしつつトナの病状と今後の相談もしている。やがて家族と友人たちが揃いパーティが始まる。

※今回はネタバレしないと感想書けないので以下ご注意ください!

トナのおそらく最期の誕生日パーティってことか、、と早めに勘ずくんです。悲しさが充満した物語だなあ、、と暗い重みを感じて見ておると、終盤あたりで「そうでもないかも?」と考えるようになっていました。私は。
今にも泣き出してしまいそうな人々が最後の瞬間を笑顔で過ごしている。幸せな1日を創っている、、そう思えます。ソルの願うこととはここにいる全員の祈りなのです。なんと切なく美しい1日か。
私の同情めいた心が動いたのは泥酔した姉の姿でした。ある意味では全員が取り繕っているパーティの隅でケーキの準備をしながら泥酔してしまう姉は最も素直な悲しみの果てにいる。その気持ちがめっちゃ理解できたのです。ふと一人になると考えに耽ってお酒を必要としちゃうよねと。とてもリアリティあふれる描写でした。

脚本というか設定のルールというか、、丁寧で優れてると思います。相関図が難しいんですよ実は。見てて混乱しました。私が外人だからかw
これは姉?母は亡くなってる?じゃあこの人はヘルパー?この人は兄?義理の兄?て具合に都度ハテナ。でも説明的な脚本にしたくないから腹を括ったんでしょう。登場人物1人1人の背景や名前をしっかり把握させるのが目的ではないので。状況とその1日の価値と集う感情を想像させることが優先です。
よく言う余白というヤツですね。これが苦手な人はもう置いてけぼりでいいのです。仕方ない。世間全員に合わせた映画作りは不要&不可能。

原題の"TOTEM"とは家族や親族が神秘的な関係で結び付けられている自然界の事物を表す言葉だそうです。この物語の奥底にある血脈への敬いや祈りを感じますね。邦題が間違っているワケではないけど原題ままで公開して鑑賞者に意味を考えさせる選択もアリだった気がします。ポスターも然り。
娘のソルの目線を中心に据えてるけど決して少女のヒト夏映画ってジャンルに入れるべきではないです。誰かの死を目前にした人々のある大切な1日の物語だから。先人に思いを巡らすお盆時期にピッタリな映画ですね。


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