どんな人の個性も受け入れて過ごしやすい場所「やまなみ工房」に行ってきた。
事業所の広報誌の取材で、滋賀県甲賀市にある「やまなみ工房」さんに行ってきました。
当日は本当にいい天気で、ほんわかした時間を過ごせました。
取材に行くことになったきっかけや作品のレポートをお届けします。
■やまなみ工房の歴史
「やまなみ工房」さんは36年前に「やまなみ共同作業所」という障害のある人の作業所として始まりました。
当初は内職作業をされていて、メンバーさんに「ちゃんと作業やらなあかんよ!」と社会や自立に慣れさせることばかりを職員さんが考えていた場所でした。
それが三井啓吾さんという男性メンバーの方が入所されて一変します。
三井さんはいくら職員さんに内職作業をすすめられても、画用紙に絵を書き続け、書き続けているときは常に笑顔です。
それを見るうちに職員さんは「僕たちはメンバーさんを社会に適応させなきゃいけない・自立させなきゃいけない」と上から目線で見ていたのだなということに気づき、内職活動中心の事業所から、自由な創作活動中心の事業所に転換させました。
そして、創作活動を知ってもらいたい、どう活動していけばいいかと悩んでいたところ、1994年にエーブル・アート提唱者の播磨靖夫さんに見い出され、障害者の作品というフィルターが取り払われ、いまは服や企業の商品のデザイン、芸能人とのコラボ、パリコレまで、メンバーさんの作品が進出しています。
■取材に行くことになったきっかけと思い
僕がNHKの「バリバラ」に、ほんの少し関わってることもあって、「やまなみ工房」さんはだいぶ前から知ってはいたのですが、なかなか行く機会がありませんでした。
そんな中、僕の通所している事業所の広報チームで秋に広報誌の第3号を出そうということが決まり、テーマは「芸術」で外部インタビューする事業所さんの案を持ってきてくださいという宿題が出ました。
その瞬間に「やまなみ工房」さんのことがふと思い浮かびました。
とは言え、京都市内の僕の事業所からは遠いし、有名な事業所さんだからという目的で取材に行くことになってしまっては嫌だなというのがあって、提案には慎重でした。
一方で、有名な事業所さんということは一回置いておいて、メンバーさんの日々や自由な雰囲気、「いまこうありたい」「いまこうしたい」という気持ちを取材をとおして感じとりに行きたいのは本心だし、おもいきって提案することを決めました。
なので、提案書には有名な事業所さんである(プロとコラボしてる)ということは一切書かずに、純粋に事業所の設立と経緯、メンバーさんの作品だけを載せて、「広報チームのみんなが行きたいと思ってくれて、もし決まればいいな」という気持ちで出したら、行くことが決定!
事業所の管理者さんには工房へのアポイントメントや当日の車の運転までしていただき本当に感謝です。
・・・とかなり長くなりましたが、主な作品をいくつか紹介します!
■やまなみ工房のメンバーさんと作品
山際正己さんの正己地蔵
カフェに入るとお地蔵様がお出迎え。
正己地蔵と言って、山際正己さんというメンバーさんが他のメンバーさんがカフェでお昼ごはんを食べている間だけ、ひょっこり作業場にあらわれて作られているお地蔵様です。
山際さんは他のメンバーさんの作業中は古紙やごみの回収をしたり、96人のメンバー全員のお誕生日を覚えていたり、すごく心優しい方です。
井村ももかさんのボタンオブジェ
こちらは井村ももかさんと制作されている布にボタンをつけたオブジェ。
色鮮やかできれいだったのですが、職員さん曰く、井村さんはNHKの「おかあさんといっしょ」が大好きで、じゃじゃまる・ぴっころ・ぽろりをモチーフにした作品も作ったそう。
僕(アラフォー)が子どものころのキャラクターなのに、20代の井村さんがご存知なのがびっくり!
きっと昔のビデオも見られてるんだろうなと想像しました。
吉田陸人さんの渋沢栄一の落書きアート
こちらは吉田陸人さんの渋沢栄一の落書きアート。
吉田さんはあるときにたまたまあったファッション雑誌に落書きを始められたところ、それが作品になっていって、いよいよ渋沢栄一財団から、渋沢さんの落書きアートを作ってくださいという依頼が
きて制作したそう。
何種類もの色の線があざやかに渋沢さんを輝かせています。
上土橋勇樹さんのカリグラフィー
こちらはライターとしてたまらなかったのですが、上土橋勇樹さんのフォント作品です!
実はこれは手書きで創作された『カリグラフィー』だそうです。
上土橋さんは3歳の頃から作品を描き始め、フォントに興味を持ち始めて、小学生からパソコンでも作品を作るようになったのですが、カリグラフィー以外にも架空のDVDのジャケットや本のカバーなどなど多岐にわたる作品を作っておられます。
パソコンでの作品はすべてワードで制作されているそうで、見学当日もキーボードをガンガン打たれていましたが、ただガンガン打ってるだけではなくて、ちゃんと一文字一文字に意味があるとのことでした。
どんな作品ができるか楽しみです。
田中乃理子さんの縫い作品
田中さんは20年以上、縫い作品をされているベテランさんです。
週末、近くの平和堂(スーパー)で親御さんとお気に入りの糸を購入し、1週間作業に取り組まれます。
平和堂の手芸屋さんによると糸は500種類もあるそうで、田中さんはその中から5色〜7色選ばれるそうで、納得いく糸がないと取り寄せをされることもあるそう。
現在はお笑いのニューヨークをモチーフにした縫い作品を制作されています。
川邊紘子さんの色鉛筆絵画
川邊さんは雑誌や図鑑、画集などをモチーフに色鉛筆で絵画を創作されています。
人物画を得意とされ、明るい色彩でモデル風の女性やアフリカの部族をよく描かれるそうです。
川邊さんの絵画はミュージシャンの清春さんのアルバムのジャケットにも使用されています。
鵜飼結一朗さんの浮世絵&アニメキャラクターの絵
鵜飼さんは雑誌や画集からインスピレーションを得て、浮世絵から日本のアニメキャラクターまで幅広い作品を描かれます。
しかし絵を描く前にひとつのルーティーンが!
それは工房近くの駅のトイレ掃除。
トイレ掃除をするかどうかで、そのあと絵を描くときのコンディションが変わってくるそうです。取材当日もちょうどトイレ掃除にお出かけ中でした。
酒井美穂子さんの大切なサッポロ一番しょうゆ味の袋
「バリバラ」のXを再度載せましたが、写真の右が酒井美穂子さん。
高校でショックなことがあって話さなくなった頃から一日中ずっとサッポロ一番のしょうゆ味のラーメンの袋を両手で握りしめているそうです。
やまなみ工房に通い続けて、握りしめたサッポロ一番しょうゆ味はこんなにも!
当初、職員さんが酒井さんの他の作業の可能性を試すためにサッポロ一番しょうゆ味の袋を手から離させようとしたそうですが、酒井さんは嫌がったそうで、それ以降もずっと袋を握りしめているそうです。
取材当日もサッポロ一番しょうゆ味を握りしめておられたのと、隣の食堂から音楽が聞こえてきたときに夢中になって部屋を出ようとされたのが印象的でした。
酒井さんがサッポロ一番しょうゆ味にこだわる理由や話さなくなった理由はわからないのですが、酒井さんの中にある繊細な気持ちとサッポロ一番しょうゆ味の袋の触り心地や雰囲気から来る安心感があるんだろうなと、ふと感じました。
ここまで、8人のメンバーさんの作品を紹介しました。
96人メンバーさんがおられて、まだまだ作品があって、全部あげられないのが残念ですが、やまなみ工房さんのインスタグラムで推し作品をぜひ見つけていただければと思います。
■やまなみ工房は絵が上手くなくてもだれでも入所できて、ひとりひとりが大切にされる場所
メンバーさんと作品を見させていただく前にギャラリーでスタッフさんから説明を受けたのですが、大切な説明だったので書いておきます。
「『やまなみ工房は絵が上手くないと入れないのですか?』というお問い合わせをいただくのですが、まったくそんなことはなくて、むしろ他の福祉施設では受け入れを断られてきた方も入所いただいています。入所ご希望の方をお断りせず受け入れていくうちに96人になりました」
これは本当に大切なことで、実は障害の軽い重い関係なしに、事業所や施設に通えない当事者の方が全国に一定数おられて、ほとんどが集団生活や事業所・施設が求めるルールや仕事のやり方がなじめないのが理由で、家での生活を余儀なくされています。
そしてメンバーさんの作品や「やまなみ工房」という名前が有名になっていくうちに敷居が高い場所だと思われがちなのですが、むしろ逆で「どんな人の個性も受け入れて過ごしやすい場所を作ること」に全力をそそがれているのだなと感じました。
■山下施設長さんのどんな人も大切にし信用されている姿勢に感銘
メンバーさんと作品の見学が終わったあとは、山下施設長さんにインタビューさせていただきました。
質問だけ僕が作って、広報チームのリーダーにインタビュワーを担当してもらうことになっていたのですが「高見さんも入って!」と事業所の管理者さんに言われ緊張😅
冒頭の歴史でも触れた「やまなみ工房」が三井さんの入所によって大きく変わったことや、やまなみ工房の日常の風景、福祉施設に制約が多い中でどのように自由な雰囲気を作っていけばいいかなど、いろいろ質問させていただいたのですが印象に残ったのは・・・
「一度ここに来てもらって、作品を見てもらうと、必ずわかってもらえるはずです」という言葉です。
人は障害を持つか、なにかきっかけがない限りは障害者の世界を知ることはないし、さらに知ったとしても「この人は〜障害だから〜できない」とか「社会に適用させるために〜できるようにさせなければ」となりがちです。
一方で、ひとりひとりを本気で知ろうとして、好きなことやこだわり、そのときの気持ちに気づいて、自由な雰囲気を作ると、障害者ではなく「ひとりの尊い人」としてわかりあうことができるという山下さんの言葉には重みがありました。
「僕もライターとして、文章を書きたいと思った原点にもどって、自由に書いてみます」という当たり障りのないことしか言えませんでしたが、自分を蔑むことなく、ただ好きなこと、いましたいことに集中するメンバーのみなさんから大きな刺激をいただいたことに感謝です。
■最後に・・・
広報チームそれぞれでおみやげを購入。
バッグにTシャツに絵はがきに欲しくなるデザインのものいっぱいでした。
あらためてメンバーのみなさん、施設長の山下さん、ありがとうございました。
■やまなみ工房のアクセスと見学について
〒520-3321 滋賀県甲賀市甲南町葛木872
・JR草津線「甲南駅」下車1.2km。
・自動車ご利用の場合、新名神甲南ICより5分。
・名阪国道・壬生野ICより25分、下柘植ICより20分。
【見学可能日時】
毎週月〜木曜日
午前の部 10:30~12:00/
午後の部 13:30~15:00
見学案内料+資料代:
1人あたり1,000円(税込)。
見学申し込みTEL 0748-86-0334
(平日 10:00〜16:00)
※土・日・祝日、お盆、年末年始は休館日のため受け付けていません。ただし月一回の土曜日出勤日は見学可能です。
※日時は都合により変更することがあります。
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