見出し画像

地方国立大医学部の最上位層は、旧帝大医学部に合格できるのか?

知り合いの方から、こちらのXの投稿を紹介してもらいました。

下段のトリガーの投稿(ひなこさん)は駿台模試の合格者平均偏差値で比較して、「国立医学部だからといっても全員が優秀なわけではない」との主張のようです。おそらく「地方国立大医学部だと、旧帝大理系とそれほど学力レベルはそれほど変わらない」ということをデータで伝えたいのだと考えられます。

それに対して、引用している投稿(みむX124Mさん)は、「地方国立大医学部の最上位層の学力は突き抜けている」との主張です。おそらく「駿台模試は首都圏を中心とした一部の受験生が受けるだけで、地方の最優秀層は受験していないから、駿台模試は地方国公立大医学部の上位層をカバーしてない」いうことを伝えたいのだと考えられます。

なかなか興味深いやりとりです。じゃあ、ほぼ全ての国立大受験生が申請する共通テストリサーチで比較したらどうなるのだろう、ということで、やってみました。

なお、国公立大医学部を次の3グループにわけています。基準は私の地理感覚です。また、この記事での「医学部」の表記は「医学部医学科」を指します。

  1. 旧帝国大
    北海道、東北、東京、名古屋、京都、大阪、九州

  2. 大都市圏の国公立大
    東京科学(東京医科歯科)、横浜市立、千葉、名古屋市立、岐阜、三重、大阪公立、京都府立医大、奈良県立医大、神戸大

  3. 地方国公立大
    上記以外の32大学

0. まとめ

<前提>
大学入試の二次試験の上振れと下振れは相殺されることで、共通テスト(リサーチ)の得点率が受験生の学力指標として機能

  • 地方国公立大医学部の最上位層(上位5%相当)は、全ての大学で北大医学部(旧帝大)に合格できる学力を有している。

  • ただし、地方国公立大医学部の中央値が、北大医学部に合格できるのは32大学中で4大学(13%)しかなく、必ずしも上位層に厚みがあるわけではない。

  • また、地方国公立大医学部と旧帝大理系学部を比較すると、東大には少し距離がある。ただ、他の大学の工学部(代表して電気電子系)は地方国公立大医学部の上位ポジションから下位ポジションまで分布しており、総じて言えば、旧帝大理系と地方国公立大医学部はほぼ同等の学力と言える。

よって、Xの投稿の2つの投稿は、上位層と中間層で比較のレイヤーが異なるだけで、それぞれ正しいと考えられる。

1. 国公立大医学部の比較

国公立大医学部に対して、共通テストリサーチの過去5年間(2020−2024年)の平均得点率を集計して、学力レベルを比較してみます。その際、ほぼ全員が共通テストリサーチに申請しているという前提で、定員に一致する得点率を最下位合格として、それ以上を合格者とします。

また、各年度の上位5%の平均値を学力最上位層の目安として採用します。各年度のトップでないのは、ある年度だけトップが飛び抜けた得点率(外れ値)の場合、5年平均が大きく引き上げられるため、ブレが少なくなる上位5%を採用しています。

なお、大学による受験科目の違いや配点の違いは補正せず、それぞれの大学の科目・配点で集計しています。そのため、比較時には誤差が含まれています。

上記の考え方で、国公立医学部の得点率の上位5%・中央値・最下位合格をグラフにすると、このようになります。

グラフ1

青色の横点線が、旧帝大で合格最下位が最も低かった北海道大医学部の得点率のラインです。棒グラフの上端は各医学部の上位5%の得点率なので、グラフを見ると、全ての地方国公立医学部(イエロー)で、上位5%は北海道大医学部に合格できる学力があることがわかります。

一方、菱形の点は各医学部の合格者の中央値です。グラフの右半分は中央値が青色の横点線=北海道大医学部の合格最低ラインより下にあることがわかります。中央値がこのラインを超えてる地方国公立医学部は、筑波・岡山・広島・新潟の4大学だけです。地方国公立医学部は32大学なので、わずか13%です。

地方国公立大医学部の上位5%は旧帝大医学部に合格できる学力があると言えるが、中央値はほぼ合格できないので、地方国公立大医学部の上位層に厚みがあるわけではない、と言えます。

2. 旧帝大理系と地方国公立大医学部の比較

上記のように、地方国公立大医学部の最上位層(上位5%)は、旧帝大の医学部に合格できる学力があることがわかりました。では、旧帝大の理系学部と比較したらどうなるのでしょう?

理系学部を代表して、東大理一・理二と旧帝大工学部の電気電子系の学科と比較してみます。また、個人的にお気に入りの北海道大獣医学部(動物のお医者さん!)も比較に加えます。

集計すると、このグラフになりました。

グラフ2

今度は青の横点線が東大理二の合格最低ラインです。全ての地方国公立大医学部の最上位学力(上位5%)が東大理二の合格最低ラインを超えています

一方、細い青の破線が東大理一の合格最低ラインです。こちらには上位5%でも届かない地方国公立大医学部があります。計算すると、東大理一の合格最低ラインを超える地方国公立大医学部は16大学でちょうど半数でした。東大理一には少し壁があるようです。

菱形の中央値でみると、ほぼ全ての地方国公立大が東大理二の合格最低ライン(青点線)より下で、東大理一の合格最低ライン(青破線)を超えるところは一つもありません。地方国公立大医学部の平均層は、東大合格には距離があるようです。

また、他の旧帝大理系と比較すると、北大獣医は全ての地方国公立大医学部より左にあり、京大工が左側1/4、東北大工と大阪大工が中央よりやや右にあります。上位5%、中央値、最下位合格を見比べると、凸凹ありますが、旧帝大理系(ブルー)と地方国公立大医学部(イエロー)はほぼ同じ高さです。そのため、大学にもよりますが、旧帝大理系学部は地方国公立大医学部とほぼ同等の学力と言えると思います。

3. 最後に

上記の分析結果を念頭に、冒頭に引用したXの投稿を読むと、みむX124Mさんは地方国公立大医学部の上位層の学力についての評価としては正しく、ひなこさんは地方国公立大医学部の中間層の学力についての評価としては正しいと考えられます。

要は、「比較先が上位層か中間層の違いだけで、二人とも正しい」というのが、私の分析の結論です。

いいなと思ったら応援しよう!