鉄緑会の入塾テストの難易度の推定
鉄緑会は東京と大阪にある東大メインの大学受験塾です。たぶん、通塾生の学力は日本一と思います。指定校と呼ばれる私立・国立の中学校(現時点では15校)は中1の4月は無試験で入れるのですが、それ以外は入塾テストが必要です。
そんな鉄緑会ですが、公開されている情報がほとんどありません。ホームページは7ページだけです。数字データは指定校の通塾生数と合格実績しかありません。
東大合格者数の絶対数は大手予備校の方が上ですが、ホームページ1ページあたり(1文字あたり)の東大合格者数は鉄緑会が圧倒的に上です(この指標に意味があるかは別としてですが・・・)。
それくらい公開情報が少ないのに、東大合格者が多いので、色々な憶測がSNSなどで飛び交っています。そこで、そうした憶測に対して、公開情報からの推定で、鉄緑会について定量的にどこまで解き明かせるか試行錯誤しています。過去には次のような推定を行っています。
今回は新たな推定として、鉄緑会の入塾テストの難易度を推定してみます。
なお、以下の内容はあくまで筆者が推定したもので、簡単な統計分析とフェルミ推定の組み合わせに過ぎません。鉄緑会の公表数値でもなく、鉄緑会の入塾テストの難易度を担保するものでもありません。いくつかの仮定を組み合わせた上で算出した参考値の一つとして読んで下さい。
0. まとめ
鉄緑会の入塾テスト組の学力平均を鉄緑会全体の中央値と同等と仮定した上で、過去に推定した模試に関する変換式などを適用すると、鉄緑会入塾テストのボーダーラインは以下のレベルと推定される。
駿台中学生テスト(高校受験)の偏差値で54〜57(5教科)
合格力判定サピックスオープン(中学受験)の偏差値で55〜58(4教科)
これらは、中学受験や高校受験で指定校に合格できるかどうかの分岐点くらいの学力レベルであり、大学受験だと東大D判定で一定数は東大合格者を出せる学力レベルと評価できる。
1. 鉄緑会の入塾テストの難易度をどう見るか?
冒頭に書いたように、鉄緑会の生徒は指定校で無試験で中1の4月に入学した生徒と入塾テストに合格して入学した生徒の2種類がいます。後者の入塾テスト組の学力レベルの見方は3種類あると考えられます。
①指定校組より上(全体の上位1/4が入塾テスト組の平均)
②指定校組と同等(全体の中央値が入塾テスト組の平均)
③指定校組より下(全体の下位1/4が入塾テスト組の平均)
最上位層は指定校で入学してしっかり勉強した生徒が多いのかもしれませんが、逆に見れば、指定校で入っても勉強しないと下位に沈むはずです。
一方、高校入試を受験して高校から入塾する生徒は、先取り学習の差が出る数学は出遅れますが、高校受験の英語(特に都立自校作成のトップレベル)を乗り越えた分、英語力は決して劣らないとも考えられます。
このように考えると、上下の幅や分布の形は差はあっても、入塾テスト組の学力の平均値は②指定校組と同等(全体の中央値が入塾テスト組の平均)と考えるのが妥当なような気がします。そのため、割り切って「入塾テストで入学した生徒の平均学力は、鉄緑会全体の学力の中央値と同等」と仮定することにします。
なお、この仮定を変えると、以降の推定結果も変わります。「この仮定は違う。指定校組の方が入塾テスト組より上だ!」とか別の仮定が正しいと思う場合は、推定結果を適当に前後させてもらえればよいです。
2. 鉄緑会の入塾テストの平均点は受験模試ではどれくらいの偏差値か?
では、上記の仮定の下で、入塾テストの平均点=鉄緑会の学力の中央値がどれくらのレベルかを考えてみます。
過去に推定した鉄緑会の生徒の駿台全国模試(大学受験)の偏差値分布がこのグラフです。大学合格者の学力分布を推定したものを合算して、全体の学力分布を推定したものです。
このグラフから推定される鉄緑会生徒の中央値は、駿台全国模試の偏差値で61.7(4科目基準)です。大学入試だと東大(理三以外)で概ねC判定になる水準です。
次に、この駿台全国模試の偏差値61.7は、高校受験や中学受験の模試に換算してみます。計算を1単位で行うために、以下では61.7≒62(4科目基準)で扱います。
過去の私の推定では、大学受験の早慶の合格者平均と早慶進学者が中央値となる高校・中学の合格者平均は同じ学力と仮定した分析を行っています。その分析では、おおよそ偏差値45〜65の範囲において、「駿台全国模試(大学受験)の偏差値−3=駿台中学生テスト(高校受験)の偏差値=合格力判定サピックスオープン(中学受験)の偏差値+α(αは1程度)」と変換式を導出しています。最後のαはSAPIXオープンの合格80%偏差値と合格者平均の差を十分に検証できていないので、バッファとして入れているものです。
この変換式を用いると、鉄緑会の学力中央値の駿台全国模試の偏差値62(4科目基準)=駿台中学生テストの偏差値59(4教科基準)=SAPIXオープンの偏差値59(4教科基準)です。これに対して、科目補正を1科目増で総合偏差値マイナス1で科目補正を行うと、鉄緑会の入塾テスト合格平均=鉄緑会の学力中央値は以下の関係にあると推定されます。
高校受験
鉄緑会の入塾テスト合格者平均=駿台中学生テスト偏差値59(4教科)=駿台中学生テスト偏差値58(5教科)中学受験
鉄緑会の入塾テスト合格者平均=SAPIXオープン偏差値59(4教科)
3. 鉄緑会の入塾テストボーダーの学力レベル推定(高校受験比較)
駿台中学生テストの高校の判定偏差値は、平均すると確実圏偏差値(合格80%)=合格者平均+6、可能圏偏差値(合格60%)=合格者平均+2あたりに設定されています。この場合、5教科基準で、合格者平均偏差値58=確実圏偏差値64、可能圏偏差値60くらいになります。
そのため、鉄緑会の入塾テスト組の学力は、駿台中学生テストで確実圏偏差値64・可能圏偏差値60の高校の学力と同等と考えられます。それに近い高校をリストアップすると、このようになります。
鉄緑会の入塾テスト組の学力は、日比谷・市川・学芸大学附属が近いレベルと考えます。都立西や横浜翠嵐は上位層が近いレベルのようです。一方で、指定校の筑波大附属には少し届かないポジションです。
次に、このような確実圏偏差値64・可能圏偏差値60の集団(高校)に入るためのボーダーライン(合格最低点の学力レベル)はどれくらいかを見ていきます。
過去の私の分析では、駿台中学生テストのボーダライン偏差値を、倍率3倍だと確実圏−7・合格者平均−1、倍率1.5倍だと確実圏−10・合格者平均-4と推定しました。倍率については、私立・国立高校が倍率3倍、公立高校が倍率1.5倍くらいです。
鉄緑会の入塾テスト組の合格平均者平均偏差値が58(5教科)=確実圏64相当であるなら、倍率をある程度幅をもって見ると、入塾テストのボーダーラインは、高校受験の駿台中学生テスト(5教科)で54〜57くらいと推定されます。
4. 鉄緑会の入塾テストボーダーの学力レベル推定(中学受験比較)
同様の比較推定を中学受験でも行います。模試は合格力判定サピックスオープン(SAPIXオープン)を用います。
2.で推定したように、鉄緑会入塾テスト組の学力平均は、SAPIXオープンの偏差値で59(4科目)に相当すると考えられます。SAPIXオープンでは、合格80%偏差値=合格者平均+2くらいと推定しています。
この場合、合格者平均偏差値59は、80%偏差値で61に相当します。具体的にイメージするために、80%偏差値61付近の中学を一覧にすると、この表になります(2024年9月版)。男女の母集団差の補正は行なっていません。
男子も女子も鉄緑会指定校(★印)が並ぶ中、指定校の下限に近いあたりの中学が偏差値が61くらいに位置しています。母集団影響による偏差値の男女差を無視すると、鉄緑会入塾テスト組の学力レベルは、中学受験で指定校に下位合格するくらいだろうと考えられます。
この時、高校受験と同様に合格者平均(59)とボーダラインの差が-1〜-4くらいであるなら、鉄緑会入塾テストのボーダーラインは、中学受験のSAPIXオープン偏差値(4教科)で55〜58くらいと推定できます。
5. 入塾テスト組のボーダーラインの評価
入塾テストのボーダーラインが駿台中学生テストで偏差値54〜57、SAPIXオープンで55〜58と推定されました。これは大学受験の駿台全国模試の偏差値(文理混合4教科基準)に換算すると57〜61くらいとなります。
このボーダーラインの偏差値を3つの視点で評価します。
①指定校との比較
表2を見ると、中学受験のSAPIXオープンでは合格80%偏差値で指定校の下限は男子59・女子61です。男女平均すると60ですが、この場合には、指定校合格のボーダーラインは56〜59くらいと考えられます。
表1の高校受験では、高校募集をしていない指定校がリストに入らなくなり、筑波大附属とだけしか比較できません。筑波大附属の確実圏偏差値は67で倍率3倍くらいのため、ボーダーラインは駿台中学生テストで60と推定されます。表2の中学受験と見比べると、筑波大附属は指定校の中で一番下のランクというわけではないので、指定校のボーダーラインはここから1〜2下がって、駿台中学生テストだと58〜59くらいと考えられます。
これらの比較から、鉄緑会入塾テストのボーダーラインが駿台中学生テストで偏差値54〜57、SAPIXオープンで55〜58であるなら、入塾テストのボーダーラインは指定校にギリギリ合格できるか不合格になるかの分岐点にあると言えます。
②東大の判定との比較
理三を除く東大の合格目標ライン(A判定相当)は駿台全国模試で66〜68です。鉄緑会入塾テストのボーダーラインは駿台全国模試の偏差値で58〜61(文理混合4科目基準)=60(文理混合5科目基準)であるなら、東大の合格判定ではD判定くらいになります。
合格可能性で言うと、東大に20〜40%の合格可能性がある生徒が鉄緑会入塾のボーダーラインとなります。
③鉄緑会内の順位
鉄緑会生徒の駿台模試偏差値の分布推定から計算すると、駿台全国模試の偏差値で58〜61は、上から2/3くらい(下位1/3)の順位にあることがわかります。このレベルは、東大理系は少し厳しいですが、東大文系や国公立医医に一定の合格数を出している層に当たると考えられます。
これら3つの評価から、鉄緑会入塾テストのボーダーラインは、中学受験や高校受験で指定校に合格できるかどうかの分岐点くらいの学力レベルであり、大学受験だと東大D判定で一定数は東大合格者を出せる学力レベルにあると言えます。逆に考えれば、鉄緑会の授業に落ちこぼれずに、東大合格可能性のある生徒を合格させているとも言えます。
6. 最後に
今回の分析によって、鉄緑会の入塾テスト組の学力平均が鉄緑会全体の中央値くらいにあると仮定すると、鉄緑会入塾テストのボーダーラインは高校受験や中学受験の難関模試の偏差値50台後半くらいと推定できました。。
ただし、鉄緑会の入塾テストの出題範囲は、一般的な中学・高校での既習範囲ではなく、その先までも含めてのテストのようです。そのため、先取り学習を自力で行う必要性も考えると、実際の合格難易度はこれよりも数ポイント高くなるだろうと考えられます。
冒頭に書いたとおり、あくまでも推定なので、参考値くらいで扱って下さい。