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早慶入学者は何人が東大に合格できるのか? 【前編】 (大学の合格最下位学力の統計分析⑩)

分析内容を再検討した結果、推定値の変更を行いました。東大受験シミュレーションの推定値300人を採用することにしています。<2024.6.30>

大学の合格最下位学力の分析シリーズです。いつもは共通テストリサーチの5教科のデータを用いて、国公立大の分析をしているのですが、私立大学は5教科受験が少なく、併願が多い(合格者>>入学者)なので、分析対象外にしていました。

ただ、国公立大の分析は思いつく範囲はやってしまったので、今回は模試判定モデルを用いて、私立大学の分析を行ってみます。対象は、私立トップ2の早稲田大学と慶應義塾大学です。行う分析は、早慶への入学者のうち、何人が東大に合格できる学力があるのかです。

模試判定モデルは過去の記事をご参照ください。これまで通り、駿台全国模試のB判定偏差値をモデルの設定値として扱います。そして、今回の記事は早慶の分析の前編として、早慶への適用モデルを作り、慶應大・文系学部の分析まで行います。なお、早慶の入試データは2023年度入試のものを用いています。

0. まとめ

  • 模試判定モデルから推定すると、慶應大・文系の入学者は、A判定合格者が難関国公立(東大・京大・一橋)の合格で辞退するため、D判定合格者に寄った分布となる。

  • その結果、慶應大・文系の入学者のうち東大合格のチャンスがあるのは928人。この928人が東大文三を受験するシミュレーションを行うと、合格者の推定は330人となる。これは慶應大・文系入学者の15%であり、慶應大・文系の7人に1人は東大に合格できると考えられる。

  • 同様に、慶應大・文系の入学者のうち京大(教育)に合格できるのは39%(891人)、一橋大(文系4学部同じ)に合格できるのは37%(851人37%)と推定される。

1. 早慶の入試の概観

私立大の入試が国公立大と大きく違うのは、複数受験できることから、受験倍率が高いことと、入学者よりもかなり多い合格者を出すことです。こうした点に起因するのか、子供が受験した駿台模試の慶應・理工学部と早稲田・基幹工学部の、A判定:B判定:C判定の比率を見ると、慶應は120:100:180、早稲田は200:100:200となっており、A>B<Cという大小関係でした。東大理一は100:200:400で、A<B<Cとなっており、少し分布の根底が違うようです。

手元にあるサンプル数が少ないので、慶應はどの学部でも同じA:B:Cの比率で120:100:180、早稲田もどの学部でも200:100:200という前提で以下は分析します。過去に作った模試判定モデルに、このA:B:Cを適用して受験者分布と合格者分布を作り、経済学部系の入試の倍率を当てはめると、このようになります。

表1

左下の受験者構成を見てみます。右端の東大と比べると、早慶ともにA判定の受験者が多いことがわかります(慶應11%/早稲田17%/東大7%)。

この結果、右下の合格者構成を見ると、A判定の合格者比率も東大より大きいことがわかります(慶應26%/早稲田37%/東大15%)。この慶應大A判定合格には、東大や京大を合格できる受験生が併願している層が多く入っていると推察できます。

また、受験者構成を改め見ると、早慶はD判定の受験生も東大より多くなります(慶應64%/早稲田57%/東大54%)。これは早慶内での併願、上智・ICUやMARCH受験生のチャレンジ併願のパターンだろうと考えられます。このD判定受験者が受検倍率を押し上げています。しかし、このD判定からの合格者は少なく(合格可能性20%)、D判定の合格者構成では、早慶と東大で大きな差はなくなるようです。

このように、早慶の合格者は東大の合格者よりもA判定の構成比が大きいという推定結果となっています。ところが、辞退を見込んで合格者を定員以上に出しているため、合格者構成がそのまま入学者構成になるわけではないはずです。

そこで、次に早慶の入学者構成を推定していきます。まずは、慶應大・文系で推定モデルを作ります。慶應大・文系は法学部、経済学部、商学部、文学部を対象とします。

2. 模試判定モデルによる合格者分布(慶應・文系、東大・京大・一橋大の文系)

慶應大・文系の入学者構成を推定するには、併願受験するボリュームゾーンと想定される東大・京大・一橋大の文系受験者の状況も同時に推定する必要があります。

ただし、ここで注意が必要なのは、慶應大・文系と、東大・京大・一橋大の文系では、入試の科目数が違うことです。慶應大・文系は2〜3科目、東大・京大・一橋大は共通テストで5教科受験した後に、2次試験は4教科となります。特に東大文系の2次試験は社会が2科目あるので、合計5科目で群を抜いています。

そして、過去に分析した通り、入試科目が1つ減ると、持ち偏差値は1つ上がる傾向が見られます。入試科目を基準として合否判定偏差値が設定されるのであれば、同じ学力レベルでも、早慶の合格判定偏差値は、東大・京大・一橋大の合格判定偏差値より高くなるはずです。

この差を補正すべく、難関国立の4教科5科目入試を基本として、慶應文系のB判定偏差値は駿台が設定した値よりマイナス2の補正を行い、東大・京大・一橋と横並びで比較できるようにします。

また、A判定:B判定:C判定の分布は、慶應は120:100:180、東大・京大・一橋大は100:200:400で統一しています。倍率との残りがD判定となります。また、過去のモデルではシンプル化のために、A判定の偏差値幅は最大5で設定していましたが、早慶のA判定には東大・京大・一橋大の上位合格者も入ることから、早慶のA判定の偏差値幅は最大15で設定しています。あわせて、倍率が高い学部・学科は分布が歪むため、上限を4.5倍で止めています。

上記の設定で、学部学科の入試単位ごとに、駿台全国模試の偏差値別の合格者分布を推定すると、この表のようになります。

表2

中程に慶應大・文系合計という列を入れていますが、定員合計2,270名に対して、5,438名の合格者を出していることがわかります。また、合格者5,438名の分布を見ると、合格者の多くは偏差値55以下のC〜D判定から多く出ていることもわかります。一方で、難関国公立の併願者もいることから、最上位の合格者は偏差値75となっています。このように、慶應大・文系の合格者は上下格差が非常に大きい分布であると推定されます。
※モデルは上限設定があるので最大75となっていますが、実際の入試は偏差値80超の合格者がいていもおかしくないと思われます。

さて、私立大の定員厳格化が進んでいることから、入学者=定員となると仮定します。この場合、合格者合計5,438名と定員合計2,270名の差分の約3,200名が辞退者となります。この辞退者は、東大・京大・一橋大の合格者、早慶内の併願合格者とその他国公立大の併願合格者から生じると考えられます。そこで、これらの辞退者の推定を行い、慶應大・文系の入学者の分布を推定してみます。

3. 慶應大・文系への入学者の推定

まずは、東大・京大・一橋大の文系の合格者の辞退者数を推定します。そのためには、これらの難関国公立の合格者のうち、何人くらいが慶應大・文系に合格しているかの推定が必要になります。

予備校にはそうしたデータはあるのかもしれませんが、一個人では掴みようがありません。ただ、子供の高校の大学受験追跡データがあり、それを見ながら、東大合格者1人あたり慶應文系合格を0.35人、京大は0.25人、一橋大は0.35人と設定してみます。東大は併願ゼロも多いのでそれほど増えず、京大は地の利から少なめという想定です。

この乗数を先に推定した東大・京大・一橋大の合格者分布にかけて辞退者を推定して、そこから入学者を推定したのが、この表です。

表3

慶應大・文系の合格者合計は左端の5,438人でした。判定偏差値の平均値を元に、色分けをしています。

辞退者は中央のオレンジ列です。合計で946人が慶應大・文系を辞退したという推定値となります。そのため、5,438人から946人を引いた4,513人が第一段の入学者推定値となります。これが右から3つめのグリーン列です。

ただ、この4,513人という数字は、定員=入学者の2,270名とは2,000名ほど乖離があります。この乖離の2,000名が早慶内併願者と他の国公立併願者による辞退と考えられます。

この辞退はどの偏差値でも同じ比率で発生すると仮定して補正したのが、右端の数字でこれが入学者推定値の分布となります。左端の合格者分布と比べると、どの偏差値でも入学者分布は減っていますが、偏差値が高い方が合格者に占める入学者の割合(入学率)が低くなっています。これは東大・京大・一橋大の合格者の辞退数が反映された部分となります。

4. 合格者と入学者の分布に帯する考察

分布は表では見にくいので、グラフにしてみました。オレンジの実線が、慶應大・文系の入学者の分布、その上にあるオレンジの点線が合格者の分布です。ブルーの山型の分布は東大・京大・一橋大の合格者の分布です。

グラフ1

オレンジ点線の慶應・文系の合格者分布は偏差値50前半に山がありますが、右の偏差値70前半まで緩やかに分布しています。一方、東大・京大・一橋大の合格者は偏差値60前半に山があります。この東大・京大・一橋大の合格者のうち、慶應大・文系に併願合格していた受験生が、慶應大を辞退するため、偏差値60以上のところでは、オレンジ実線の慶應大・入学者のカーブは、オレンジ点線の合格者のカーブから大きく下がります。

その上で、早慶内併願や他の国公立大との併願者が辞退していくため、全体的にカーブが下がりますが、入学者の分布はより左側に偏ることが見て取れます。

これを判定別の分布で比較したのがこのグラフです。

グラフ2

慶應大・文系では、A判定の合格者比率は26%あるものの、入学者比率では18%に減ります。一方で、D判定は受験者比率で60%を占めるものの、合格者比率は37%に落ちます。ところが、A判定やB判定で辞退者が多く出ることから、入学者比率は45%に上昇しています。

5. 東大に何人合格できるのか?

この慶應大・文系の入学者分布をパレート図にしたのが、このグラフです。あわせて、東大・京大・一橋大の文系のパレート図も入れています。

グラフ3

これを見ると、東大文系の累積定員比率が100%になるのは、偏差値56です。これは東大文三のB判定偏差値66からマイナス10の数字で、設定上のD判定の下限です。

実際の駿台全国模試のD判定には下限はありません。ただ、模試の偏差値の変動幅は平均で4〜5程度であり、持ち偏差値+10を本番で出せる可能性は5%くらいです。そのため、ボーダーがB判定下限の少し下=C判定の上の方にあることを考えると、シミュレーションにおけるD判定下限=B判定−10は妥当なところと考えています。

この偏差値56の場合、慶應大・文系のパレート図では、41%となります。このことから、慶應大・文系の入学者のうち上位41%は、東大文三に最下位合格のチャンスがある、と言えます。入学者2,270人のうちの41%なので、上位928人です。

ただ、この928人が東大に合格できる、ということではありません。あくまでこの数字は、東大文三に合格するチャンスがあるD判定下限を超えている人数です。別の推定方法で精査が必要です。

改めて見ると、東大文三のB判定偏差値は66です。これを基準に、先の表3で推定した入学者数を分類して集計すると、この表の左から2番目の数字となります。

表4


偏差値56以上の数字を合計すると、先ほどの928人となります。偏差値71以上の40人は、まさかの東大不合格で、浪人せずに併願先の慶應大に入学した受験生という推定です。

これらの人数に、東大文三の判定に基づく合格可能性(20〜80%)をかけたのが右端の列です。合計すると、330名となります。この推定は、慶應大・文系に入学した2,270人が東大文三を受験したら、合格できるのは330名(15%)ということを意味します。

過去の分析では、この東大受験シミュレーションに加えて、共通テストリサーチや実際の大学受験データから別の推定を行って、推定値の見極めを行いました。今回は他の推定方法がないので、「慶應大・文系の入学者のうち東大(文三)に合格できるチャンスがあるのは928人(28%)で、この928人が東大を受験した際に合格できるのは330人(15%)」を今回の推定結果とします

同様に推定すると、慶應大・文系の入学者のうち京大(教育)に合格できるのは536人(24%)、一橋大(文系4学部同じ)に合格できるのは456人(20%)となります。京大の方が一橋大より多いのは、法学部・経済学部・文学部はB判定偏差値が京大>=一橋大に対して、教育学部(一橋大なし)が一橋大の4学部よりB判定偏差値が低いことに起因します。

6. 最後に

どの程度正しいかは疑問が残りますが、考えられる方法を組み合わせて、今回は慶應大・文系の入学者の分布を推定してみました。慶應大・文系の入学者の上位28%が東大合格のチャンスがあり(文三D判定合格圏)、上位15%が東大合格できるというのは、慶應A判定(4教科補正)=東大C判定を考えると、悪くない感じはします。

次回は同じ方法で、慶應大・理系、早稲田大の文系と理系の入学者分布を推定してみます。

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