主要進学校の難関大学「進学率」の推定
高校のホームページなどを眺めると、大学の合格実績を公表しているところは多いのですが、進学実績を公表しているところは少ないです。私立大学は1人が複数の合格実績を上げられるため、合格実績>進学実績となります。そのため、高校の学力レベルを計る際に、合格実績で評価すると水ぶくれした学力レベルとなります。
そうした中、子供が高校受験する際に、気になる高校の難関大学への進学率を推定できないかと試行錯誤したことがあります。今回はその時の分析を元に、別の分析に必要な要素を追加して、主要高校の難関大学「進学率」を推定してみます。
0. まとめ
難関大学進学率を推定すると、公立高校では連続的に並ぶが、私立の進学校では進学率15〜30%と40〜55%に断絶が存在する。
都立トップ3と同等の難関大学進学率の高校を見ると、日比谷と同等なのは女子学院、武蔵、浅野、海城と私立中高一貫の2番手クラスの進学校が並ぶ。一方、西・国立と同等なのは、横浜翠嵐・浦和などの近隣県の公立トップ校であり、私立高校は上記の40〜55%のギャップにはまり、ほぼ皆無となる。
難関大学進学率は高校入試の難易度に相関する(決定係数:0.8675)。同様に中学入試の難易度にも相関するが、高校入試よりも相関は弱い(決定係数:0.6411)。これは、高校3年間よりも中高一貫の6年間の方が期間が長い分、成績変動が出やすいことに起因すると考えられる。
高校入試時点で、大学入試での早慶と同レベルの進学校は駿台中学生テストで確実圏偏差値で60.5相当となる。これは前回の本命率から算定した数値と同じであり、都立西、お茶大附属、横浜翠嵐などが該当する。
中学入試時点で、大学入試での早慶と同レベルの進学校はSAPIX80%偏差値で57.5相当となる。これは吉祥女子、浅野、市川、武蔵などが該当する。
1. 分析の前提
この分析は数年前に行ったものを補強しているため、採用する数値に時間軸の相違があります。そのため、厳密な進学率というよりも、だいたいこれくらいというイメージとして捉えて下さい。分析の元データと算定ロジックは以下になります。
対象とする難関大学は、東大・京大、一橋大・東工大、国公立医学部医学科、地方旧帝大(北海道・東北・名古屋・大阪・九州)、早稲田大・慶應大です。推薦入試は含みません。国公立は一般入試の前期日程のみ集計しています。
国公立大は進学者数=合格者数、早慶は進学者数=合格者数×本命率としています。
合格者数と卒業者数は「進学校データ名鑑」というサイトから引用しています。不足する場合は、各学校のホームページを調べています。
https://www.shindeme.com合格者数は年度によってブレるため、5年平均を採用しています。分析した時期によって、2019−2023年度の5年平均の学校と、2017−2021年度の5年平均の学校が混在しています。
現役と浪人は区別していません。5年平均なので、浪人してもこの期間で吸収されるという考え方です。
本命率は2022年度入試の単年の数字(現役本命率)を用いています。進学実績を公表している高校と大学通信の調査結果がわかる高校は、その実績値に対して5%の倍数に切り下げ処理を行っています。切り下げ処理は、浪人の方が併願数が多い(=本命率が下がる)と考えられるので、その補正です。実績値がわからない高校は、高校入試または中学入試の模試の偏差値から、回帰モデル(後述)から推定しています。こちらも同様の浪人補正を行っています。
2. 分析対象高校
首都圏の進学校を恣意的に抽出しています。基本は自分が気になる高校ですが、あまり偏らないように、一定の学力幅に分散するように選んだつもりです。
東京都立の進学指導重点校/進学指導特別推進校
日比谷、西、国立、八王子東、戸山、青山、立川、小山台、駒場、新宿、国分寺東京都立の中高一貫高
小石川、都立武蔵、三鷹中教東京の国立附属高校
学芸大附属、お茶大附属、筑波大附属、筑波大駒場首都圏の私立進学校
<高校募集あり>
開成、桐朋、城北、巣鴨、國學院久我山、東京農大第一、渋谷幕張、市川
<高校募集なし>
駒場東邦、海城、武蔵、芝、世田谷学園、本郷、桜蔭、女子学院、豊島岡女子、吉祥女子、頌栄女子、聖光学院、浅野別枠
灘
3 早慶の本命率の回帰モデル
本命率=進学者÷合格者です。早慶の場合、一般入試の定員の8割程度をカバーする範囲で集計したところ、本命率は36.8%でした。
そして、前回の記事の通り、大学入試の早慶の本命率は高校入試での駿台中学生テストの確実圏偏差値に負の相関をします(1次回帰・決定係数=0.4624)。
今回、高校募集のない中高一貫校も対象に含まれるため、中学入試での志望校判定サピックスオープン(以下、SAPIX)の80%偏差値との関係を分析したところ、同様に負の相関をしていました(1次回帰・決定係数=0.4468)。
本命率について、大学通信の調査結果を入手できない学校については、駿台中学生テスト確実圏偏差値の回帰式(グラフ1)またはSAPIX80%偏差値の回帰式(グラフ2)からの推定値を採用しています。
4 主要進学校の難関大学進学率
上記のデータとロジックで計算した難関大学進学率はこのグラフのようになります。対象高校のセグメントごとに、難関大学進学率(棒グラフの一番上の数字)の昇順に並べています。
左の都立進学校はかなり連続的に並んでいます。一方、右端の私立高校は難関大進学率で15〜30%あたりと、40〜55%あたりに断絶がある印象です。これは私のサンプリングの悪さが出ている可能性もあります。
グラフは難関大進学率(早慶地帝以上)で並べていますが、オレンジの国公立医医以上、青の東大・京大以上はかなり凸凹しています。全般的に国公立高校よりも私立高校の方が早慶の進学者数に厚みがあり、難関大進学率を押し上げる傾向があるようです。
5 都立トップ3と同等の学力レベルの高校
このグラフの中から、都立トップ3の日比谷高校、西高校・国立高校と同レベルの高校を抽出してみます。日比谷については東大・京大進学率:15〜20%かつ難関大進学率60〜70%、西・国立については東大・京大進学率:10〜15%かつ難関大進学率50〜60%を抽出しています。
日比谷と同等の学力レベルなのは、筑波大附属、女子学院、武蔵、浅野、海城です。私立中高一貫の御三家〜準御三家の2番手校が顔を並べています。筑波大附属以外は高校募集をしていません。
国立・西と同等の学力レベルなのは、浦和、横浜翠嵐、学芸大附属、豊島岡女子です。東京隣接県のトップ校が並びますが、私立高校がほぼありません。上述した通り、私立高校の難関大進学率40〜55%のギャップに当たるところです。
さて、難関大は地帝・早慶以上で定義しており、これが50%ということは学年の半数が早慶に入れる学力があることになります。このことは、平均値で見れば、難関大進学率50%の高校と早稲田大・慶應大の学力レベルは同等であることを意味します。
そこで、難関大進学率50%の学校が入試時点でどのくらいの難易度があったのかを分析してみます。
6 難関大進学率50%の学校の難易度
上記の対象高校について、高校入試は駿台中学生テストの確実圏偏差値(80%)、中学入試はSAPIX80%偏差値を調べて、難関大進学率との相関を分析します。駿台中学生テストは過去に集めたデータを流用するので、2022年冬に調べた数字です。SAPIXはネットに掲載されていた2024年4月の偏差値表のデータです。中高一貫で高校募集も行っている学校は、高校入試と中学入試の2つの分析対象となります。
①高校入試(駿台中学生テスト確実圏偏差値)
まず、高校入試との相関です。1次回帰が最も決定係数が高かったので、1次回帰を用いています。
決定係数は0.8675とかなり高い相関を示してます。高校入試から大学入試までは3年間しかないので、入学時点の学力差がそのまま大学の進学率の差となるようです。
この回帰式の逆関数を作り、難関大学進学率が50%となる確実圏偏差値を調べると60.5となります。早慶以上に2人に1人が進学するレベルであり、「高校入試時点での大学入試の早慶に相当するのは、駿台中学生テストの確実圏偏差値で60.5の高校」と言えます。
奇しくも、前回の記事で早慶本命率から算定したのも60.5でした。別のデータから算定した早慶のレベルが同じ数値を示しているので、合理性は高そうです。
確実圏偏差値が60.5前後の高校は、都立西、お茶大附属、横浜翠嵐などです。
②中学入試(SAPIX80%偏差値)
続いて、中学入試との相関を見てみます。SAPIX偏差値は複数の入試日程がある場合は定員での加重平均を採用しています。こちらは決定係数が一番高かったのが2次回帰でした。
決定係数は0.6411とやや高めの相関ですが、高校入試の相関よりは低いようです。中高一貫の6年間の方が期間が長い分、成績変動が出やすいのだろうと考えられます。
この回帰式の逆関数(といっても二次方程式の解の公式)を作り、難関大学進学率が50%となるSAPIX80%偏差値を調べると57.5となります。このことから、「中学入試時点での大学入試の早慶に相当するのは、SAPIXの80%偏差値で57.5の高校」と言えます。SAPIX80偏差値が57.5前後の中学校は、吉祥女子(56)、浅野(57)、市川(57.1)、武蔵(59)です。市川の少数1位は複数日程の加重平均の結果です。
7. 最後に
今回の分析は主要進学校の難関大学進学率の分析でしたが、そこから派生して、高校入試と中学入試において、大学入試の早慶に相当する難易度もわかりました。特に、高校入試については、早慶本命率という別の指標から算定した難易度と同じ数字でした。
再掲すると、高校入試では駿台中学生テストの確実圏偏差値60.5、中学入試ではSAPIX80%偏差値57.5が、大学入試の早慶に相当します。
ここまでデータが揃えば、早慶に入学する難易度は、中学入試、高校入試、大学入試で同じなのか違うのかの分析ができるようになります。この分析と考察は次の記事にする予定です。
<追記>
冒頭に記載した通り、早慶本命率の推定の影響で、難関大学進学率には±5%程度の誤差が存在します。もう少し精度を高められないか考えていたところ、2024年度入試の早稲田/慶應それぞれの現役進学率がEduAに公開され、実際の早慶現役本命率を確認できた高校が一気に増えました。
単年度の現役本命率から現浪合計本命率を推定して5年平均に適用しても、まだ誤差は含まれますが、回帰分析の予測値よりは精度が上がると考えられます。あわせて、対象年度も2020−2024年度の直近5年分のデータを集めました。
この2点(2024早慶現役本命率の反映・対象年度の統一)を反映した更新版を作成しましたので、こちらに掲載します(この算定ロジックは別記事で作成予定です)。対象年度が変わっているため、最近の合格実績の過去からの変化で難関大進学率が大きく変動しています。さらに、早慶本命率のロジック変更の影響が出ています。
並べ直すとこのようになります。聖光学院が近年の躍進と早慶の合格率の高さから、難関大進学率では開成を抜いたようです。ただ、東大・京大(ブルー)の進学率では、まだ開催が差を付けています。
上述のように±5%程度の誤差はありますし、直近5年の集計年度を変えると結果も変わるので、一つの参考値として眺めてもらえれば幸いです。