駿台全国模試の医学部判定はいくつ盛られているのか?(医学部判定下駄の推定)
これまでの受験に関する分析記事に対して、色々な方から受験情報を寄せていただいています。その中で、「駿台全国模試の国公立大学の医学部の判定偏差値には、一定の上乗せがあるはず。合格目標ラインが61が下限となっているが、合格者平均と比べるとオカシイ。」との情報をいただきました。
過去の分析で、合格目標ライン偏差値(A判定相当80%)と合格者平均偏差値の間には、模試判定の仕組み上、倍率に相関する差が存在することがわかっています。ただ、それ以上に差があるのであれば、その残差は何らか意図的に設定されたものとなります。
そこで、今回は国公立大学の医学部について、合格目標ライン偏差値と合格者平均偏差値の間にある倍率起因以外の残差を分析してみます。なお、私立大学の医学部は合格目標ライン偏差値が50台のところもあるので、今回の分析対象から外します。
0. まとめ
駿台全国模試では、医学部に合格目標ライン偏差値と合格者平均偏差値の間に、倍率起因の差以外として医学部判定下駄が約3ほど(平均2.6)存在する。
医学部判定下駄は判定偏差値が低い医学部になるほど大きくなる傾向があり、判定偏差値に最大で6程度の底上げのある医学部もある。
医学部判定下駄の平均2.6のうち、0.8は年ごとの倍率変動に備えたバッファと考えられる。地方国立大の医学部(中堅医医〜一般医医)は、一般入試の定員が少なく、年ごと倍率変動が大きいため一定のバッファが存在するのは合理的である。そのため、倍率変動バッファを除く1.8が医学部の判定偏差値を底上げしている純粋な下駄と言える。
1. 分析対象の医学部と分析対象データ
国公立大学の医学部医学科(医医)で前期日程の一般入試がある49大学が対象です。比較しやすいように次の区分に分けて分析します。駿台全国模試の合格目標ライン偏差値は2023年7月に調べたものです。
東大 理三
京大 医医
地帝 医医(北海道大・東北大・名古屋大・大阪大・九州大)
難関 医医(駿台全国模試の合格目標ライン偏差値66以上)
中堅 医医(同64〜65)
一般 医医(同61〜63)
分析で利用するデータは、志願倍率(2023年度と2024年度)、駿台全国模試・合格目標ライン偏差値(2023年7月調査)、駿台全国模試・合格者平均偏差値(2023年度入試・個人ブログに掲載されていたもの)です。
また、模試判定モデルで合格目標ライン偏差値(A判定80%相当)と合格者平均偏差値の差の推定値も算定します。その際、A判定:80%、B判定:60%、C判定:40%、D判定:20%、E判定:5%で設定します。また、A:B:C:Dの分布は倍率2.5倍以下は国立一般モデル(1.0:0.8:1.9:1.9)、倍率2.6倍以上は医学部モデル(1.0:2.0:3.4:4.2)を適用します。
2. 医学部受験関連データ一覧
上記の区分で分析対象データを一覧にすると、この表のようになります。
左から見ていきます。定員は下になる=地方の医学部になると減っていきます。地方医医は地域枠や推薦が多く、一般受験の定員が少ないことに起因します。
次に志願倍率です。東大理三は特異値として扱えば、これも下になる=地方の医学部ほど大きくなります。地帝・難関医医と中堅医医・一般医医の間で、最小倍率はそれほど差がないのですが、最大倍率は大きな格差があります。中堅医医・一般医医は定員が少ないことから、平均的に志願倍率が高くなりやすいところに、受験者の変動で志願倍率が大きくブレることがあるようです。
中央は合格目標ライン偏差値と合格者平均偏差値(実際値)です。こちらは上から下になると小さくなっていきます。また、右の模試判定モデルの合格者平均偏差値も、そのロジックから、上から下になると小さくなります。
ただし、この3つは下段の全体平均の値が、合格目標ライン65.1、合格者平均(実際値)57.7、模試判定モデル合格者平均60.3と凸凹しています。区分ごとで見ても濃淡あるようです。そこで、これらの差を使って、医学部の合格目標ライン偏差値と合格者平均偏差値の間にある構造を分析していきます。
3. 医学部下駄の推定
上記の3つのデータの差を取って整理すると、この表のようになります。
まず、左から2つ目が合格目標ライン偏差値ー合格者平均偏差値(実際値)の差です。合格目標ライン偏差値≒A判定偏差値なので、この数字は合格者平均のいくつ上にA判定が設定されているかを示します。全体平均は下段オレンジ枠の7.4なので、「平均すると医学部のA判定偏差値=合格者平均偏差値+7.4」となります。
ただし、中堅医医・一般医医では8を超えいます。先の通り、これらの区分は倍率が高いため、倍率起因の影響を除外して評価する必要があります。その倍率起因の影響を計算しているのが中央の列です。倍率起因の影響の算定については、過去記事をご覧下さい。
倍率起因=合格目標ライン偏差値ー模試判定モデルの合格者平均偏差値で計算しています。2023年度と2024年度の2年平均を見ると、全体平均で4.8です。模試判定モデルのロジックから、下に行くほど増えていますが、中堅医医・一般医医でも5程度に留まり、実際値から計算した8前後との間には差が残ります。
そこで、「合格目標ライン偏差値=合格者平均偏差値+倍率起因+残差」という数式を作り、残差を計算したのが右の列です。この残差は、合格目標ラインと合格者平均の間の差に対して倍率起因のロジックで説明できずに残る部分です。逆に見れば駿台が判定偏差値を決める際に、何らかの意図で増やした数値と言えます。そのため、この残差を「医学部判定下駄」と呼ぶことにします。
この残差=医学部判定下駄を計算して、2年平均をとった右から2列目です。全体平均で2.6となります。数式で表すと「合格目標ライン偏差値=合格者平均偏差値+倍率起因4.8+医学部判定下駄2.6=合格者平均偏差値+7.4」です。この関係をグラフにすると、このようになります。
下段のブルーが合格者平均偏差値、グリーンが倍率起因、オレンジが医学部下駄で、上の数字が合格目標ライン偏差値です。東大理三は医学部下駄がマイナスなので、倍率起因と相殺したグラフにしています。このグラフを見ると、医学部判定下駄には凸凹ありますが、概ね3程度と見てよさそうです。
なお、志願倍率は年度によってブレるため、個々の大学で見ると、医学部判定下駄は年度によって異なります。この志願倍率の変動による医学部下駄のブレを計算したのが、表2の右端の2年差絶対値です。全体平均で0.8で、倍率変動の大きい中堅医医・一般医医は1程度となっています。
この部分も考えると、医学部下駄2.6のうち、約1/3の0.8は志願倍率の年度変動が大きい医学部受験に対応するためのバッファで、残りの1.8が純粋な下駄と考えられます。
4. 最後に
今回の分析で、駿台全国模試の医学部の判定偏差値には、偏差値3程度の医学部下駄が含まれていることがわかりました。そのため、同じ判定偏差値の一般学部と医学部を比較する際には、科目補正以外に医学部補正3が必要であると言えます。
例えば、合格目標ライン偏差値が61の東工大・工、大阪大・基礎工・情報科学、一般医医(旭川医大/山形大/佐賀大など)の難易度は同列でなく、一般医医は58くらいの難度で見るのが妥当となります。この場合、一般医医と同列の合格目標ライン偏差値58になるのは、大阪大・工・応用自然科学、東北大・工・化学バイオ、名古屋大・工・機械航空宇宙などになります。
この医学部下駄=+3のうち1/3は医学部の倍率変動の大きさを吸収するためのバッファなので合理的なのですが、残る2/3の2程度は何らかの大人の理由があるのかもしれません。ただ、そこまではデータからわからないので、この分析はここで終わります。